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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第伍章 検証流転
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伍之拾 応援

 私と雪子学校長が話している間に、映像機器のセッティングを進めていた花子さんが、最後に私が持っていたスマホにコードを接続して、大きなモニターにスマホの画面に表示されているのと同じ映像を映し出した。

「スゴイですね。凛花さんの力で生み出したのに、ちゃんと映像が出力出来ましたよ!」

 嬉しそうに言う花子さんだが、私は自分の出現させたモノが、機械として正常に動いている衝撃で、返事をすることも出来ない。

 一方、花子さんは反応の無い私を放置して、次なる作業に突入していた。

「録画とかもいろいろ試さないとですよね」

 テキパキとリモコンに、パソコンに、電子パッドと、私では同じ事をするどころか、何をしているのか把握出来ないほどの凄いスピードで操作する花子さんは、恐ろしいことに鼻歌混じりでそれを行っている。

 仲間を求めて、チラリと横を見れば、雪子学校長は我関せずといった様子で椅子に座ってお茶を飲んでいた。

 出来ない事は出来るものに任せるという意思が全身からにじみ出ていて、素直に流石だなと思う。

 問題は私には雪子学校長の真似は出来そうにないので、邪魔にならないように、距離を置いて応援するくらいが関の山だ。

 けど、どうやらそれもダメだったらしい。

「凛花さん、後ろで動かれると気が散るんですが……」

 邪魔にならないようにと細かく場所を移動していたのが、裏目に出てしまった事にショックを受けた私は「ごめんなさい」と返すことしか出来なかった。

 そんな私に、哀れむような視線を向けた花子さんは「そんなに肩を落とさないでください」と苦笑いを浮かべる。

 花子さんがフォローしてくれたのはわかっているのに、私はむしろ気を遣わせてしまった事がショックで、更にどんよりとした気持ちになってしまった。

 頭の中では大分メンドクサイと思いながらも、気持ちを上手く浮上させられないでいる私に、花子さんは「それでは、私を応援してください」と声が掛かる。

「ええ、小学校の運動会なんかで使うボンボンを両手に持って、私の応援をしてください!」

 花子さんにそう言われて、私は急に気持ちが浮上するのを感じた。

 私が求められているという心地よさに押されて、私は「任せてくださいっ!」と請け負う。

 やるとなれば、行動あるのみだ。

 まずは両手を前に突き出して、手の平を広げる。

 その両手の先に、力が集まるイメージを浮かべると、あっという間に、私が求めるものに十分な力が集まった。

 これを、小学校の研修の時に習ったボンボンの作り方をイメージしつつ形に変えていく。

 まずは幅広の粘着性の無いビニールテープ……紐かも知れないけど、ともかく芯になる素材へと変換させた。

 スマホみたいな複雑なものが再現出来たので、ビニールテープを出現させるくらい簡単だったのは、成功体験というか、出来るという確かなイメージがあったお陰だと思う。

 次に、ティッシュ箱などにぐるぐると巻き付けてわっかを作るのだが、私が出現させているビニールテープは、ティッシュ箱が無くても簡単に幾重にも重なるわっかへと変貌を遂げた。

 普通に手作りするのと同じ手順で、ビニールテープの端があるのと反対側のわっかに別のビニールテープを出現して結びつける。

 きっちり止めたさ反対側のわっかを真っ直ぐに切って、片側をまとめられたビニールテープの束へと変えた。

 左右の手の平の先で、同じ作業をしているが、本来の聞き手などは関係ないようで、同じ速度、同じ精度で、同じ形になっている。

 仕上げに、ビニールテープを細かく裂いていくのだが、実習では金属製の櫛を使った。

 当然持ち合わせはないので、どうしようかと思ったのだが、適度な幅に避けた姿をイメージすると、道具なしで、ビニールテープは細かく細切りに変わる。

 最後に根元を結んだ紐が、私の両手首に掛かり、手の内に持ち手が収まると、一連のボンボン出現の工程は終わりを迎えた。

「どうかな?」

 出来を確かめるために、両手のボンボンを振るうと、独特のカサッカサッという擦過音が響く。

 上手くできあがったことに嬉しくなった私は、そのまま花子さんにボンボンを向けて振ってみせた。

 もちろん「頑張れ、頑張れ、花子~」という応援の言葉を忘れなかった。


「……あれだね。こういう場合は……どんまい?」

 もの凄く気を遣われているのがわかる雪子学校長の言葉に、私は反応を帰すことが出来なかった。

「何というか……可愛くて、微笑ましかったぞ」

「ぐはっ!」

 反応が悪かったから、アプローチを変えてくれたのだろうけど、その言葉は容赦なく私の心を抉る。

 申し訳ないという気持ちが強すぎて、花子さんの言葉に何も考えずに飛びついて、勢いのまま行動をしてしまったのだが、私は我に返ってしまったのだ。

 いつものように、花子さんが『可愛い』とか言って抱き付いてくれていたら、我に返ることは無かったかも知れない。

 でも、今回に限って、花子さんは「(とうと)い」と口にして、拝み始めたのだ。

 その姿を見て、私は自分が何をしていたのか振り返ってしまったのである。

「ゆ、雪子学校長……そっとしておいてください」

 両手を床について羞恥心に身悶える私の震える声に、雪子学校長は「う、うむ」と口にして距離を取った。

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