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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第伍章 検証流転
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伍之玖 三つの理由

「まず、私が懸念しているのは、君が分身に同調している時に、分身の身に何かが起きた場合、本体の方にも影響が出る可能性だ」

 雪子学校長の言葉で脳裏に蘇ったのは、東雲先輩の腕が吹き飛んだ光景だ。

 私が『神世界』に関わり『神格姿』を得て、『放禍護(ホウカゴ)』に挑むのを決めた切っ掛けでもある。

 アレは『神世界』で受けたダメージが、東雲先輩の『球魂』が体に戻った瞬間、反映された結果だということだ。

 私の場合は分身なので『球魂』の東雲先輩の場合と同じように、何かが起きた時に体に反映されるかどうかはわからない。

 ただ、私の能力はイメージの影響を強く受けるので、良くない影響が出る可能性は高そうだ。

 それほど詳しいわけでは無いが、幻肢という言葉がある。

 事故や病気が原因で手や足を失った人や麻癖のある人などが、存在しない、あるいは麻癖して感じないはずの手足の存在を感じる現象だ。

 私はこの現象に近いことが起きるのでは無いかと考えている。

 例えば、東雲先輩の様に分身が腕を失った場合、そのイメージが私の脳裏に残ることで、痛みが消えなかったり、動かせなくなってしまうなんてことが起こりえるということだ。

 そんな私の考えを雪子学校長に伝えると「その危険を回避するために、同調せずに操る感覚を高める練習だ」とスマホを指さす。

 完全に思考を先回りされていることに、多少敗北感はあるものの、一方で自分の考え方や方向性が間違ってないと言ってくれているようで、安心感も同時に存在していた。

「分身に同調して、本体と同じ感覚で操るのと同じくらいの精度での操作を、そのスマホで出来るようになれば、よりやれることが多くなるはずだ」

 雪子学校長の言葉に「はい」と頷く。

「そうなれば、同じ教室で君は授業を受け、分身の林田先生に授業をさせるということも不可能では無いだろうね」

 サラリと言われた雪子学校長の言葉に対して抱いた疑問に、私は反射的に「ちょっと待ってください」と口にしていた。

「なにかね?」

 首を傾げる雪子学校長に、私は「何故私の方が授業を受けて、分身が授業をすることになるんです?」と疑問を呈す。

 本来教師としてここに来ているのだから、主体とすべきは授業をする側、つまり林田京一の方だ。

「簡単なことだ」

 雪子学校長は握った状態の右手から、ピンと人差し指を立てる。

「まず、君は林田京一に変化することが出来ない」

 その言葉に練習すればと抗議する前に「練習すれば変化出来るようになるだろうが、今のベースは少女である卯木凛花なのだ。狐人間のね」と先回りされた上で似言葉を重ねられてしまった。

 自然と、黙るしか無い私に更なる言葉が降り注ぐ。

「つまり、小学五年生の卯木凛花の姿と、成人男性の林田京一の姿、変化に掛かる負担はどちらが大きいかということだね」

 雪子学校長はそこで言葉を切ったが、目が言わなくてもわかるだろうと訴えていた。

 私の今の姿は『神格姿』である狐耳に尻尾の生えた銀髪の女の子で、本野からであるハズの林田京一の姿に変わるには、性別を変え、身長を伸ば差なければならない。

 どちらが負担になる変化かと言えば、間違いなく京一の方だ。

 既に『何故京一が本体じゃいけないのか』についての結論が出てしまった気がするが、雪子学校長は容赦が無い。

 人差し指に続いて、中指が立てられた。

「二つ目は見てわかるからだ」

 雪子学校長の言わんとしていることが、上手く読み取れなかったので「見てわかるですか?」と首を傾げる。

「うむ。例えば、何らかの事情で変化が解けかけた場合、主観になる自分の体より、客観的に見ることになる分身の方が、変化に気付きやすいはずだ」

 そう言われた私は、素直になるほどと思った。

 自分の体に起きる変化は体感に頼ることになるのだが、正直、狐人間の姿でも、普通の人間姿でも、縮小コピーの京一でも、体感的には違いはほぼ無い。

 急激に身長が縮めば、視界の変化でわかるかも知れないし、髪が伸びたらわかるかも知れないが、緩やかに変化が解けた場合、まったく気付かない可能性だってあるはずだ。

 結論として、感覚で自身の変化を察知より、客観的に目で変化を捉える方が確実に早い。

 そう考えると同時に、私の頭に一つの考えが閃いた。

「客観的に見ている方が、解けかけた変化を立て直して、元に戻すのにも向いてますね」

 雪子学校長は私の発言に「部分的なモノだと、全身が見えていないと変化の術の修復は難しいだろうね」と頷く。

 そして、三つ目の指、薬指が立てられた。

「三つ目は環境的要因だ。簡単に言えば、これから徹底的に分身の術を研究して、練習を積んで貰う」

「……分身の技術を習熟するから、自分自身の変化よりも、信頼度が上がる……ですか?」

「その通り。賢いな、卯木くん」

 背伸びした雪子学校長に、わしゃわしゃと頭を撫でられて、頬が熱くなる。

 恥ずかしい思いが強いが、嫌では無い……というより、嬉しさが強くて、私は戸惑った。

「ゆ、雪子学校長……」

 私の頭を撫でる手を止めない雪子学校長に声を掛けたものの「何かね?」という返しに対して、自分がどうして欲しいのか、自分の望む結果が思い浮かばず、結局黙ることになってしまう。

 そのまま、撫でられ続けたところで、私は頭にようやく浮かんだ言葉を口に出した。

「髪が乱れるので……」

 すると、ピタリと頭を撫でる雪子学校長の手が止まり、私の中に僅かな寂しさが起こる。

 が、その後の「君も随分可愛いことを言うようになったね」という雪子学校長の言葉で爆発した恥ずかしさで、寂しさなどは一瞬で吹き飛んでいった。

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