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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第伍章 検証流転
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伍之捌 本能的思考

 雪子学校長の問い掛けに対して、私は何も答えられなかった。

 花子さんや子供達の目線でどう映るかなんて、考えるまでもない。

 皆の盾になろうという私の決意と矛盾するからこそ、見て見ぬ振りをしていたことだ。

 だが、はっきりと言葉にされて、提示されてしまった以上、考えないわけにはいかない。

 そして、考えた結果、情けないことに私に残された選択肢は、黙り込むしか無かった。

 雪子学校長は当然、私の考えなど見抜いていたのだろう。

 だからこそ、こうしてわざわざわかりやすく指摘してきた……いや、釘を刺してくれたのだ。

 私を思ってくれているというのが伝わってくるだけに、そこまでわかってくれているのなら見逃して欲しいと、勝手なことを思ってしまう。

 そんな身勝手な私に、雪子学校長はわかりやすく大きな溜め息をついた。

「君も半分は私の生徒だ。身を投げ出すなんてダメに決まっているだろ」

 コンと軽く頭で、雪子学校長の拳が跳ねる。

 私はその行動にどういう意図があったのか、察することが出来ずに目を瞬かせた。

「まったく、鈍いな……ゲンコツだよ、ゲ・ン・コ・ツ!」

「……ゲンコツ?」

 雪子学校長の言いたいことを上手く読み取れずに、私は彼女の拳が触れた場所に手を重ねる。

「君は学校長に、お叱りを受けて、ゲンコツを落とされたんだよ」

 私は頭に手を残したまま「体罰……ですか?」と首を傾げた。

「教育的指導だよ」

 はぁと溜め息を吐き出してから、雪子学校長は「だから、痛みは要らない」と言った後で、私の胸を指さした。

「心に刺されば、それでいい……少なくとも君は、これまでよりも身を投げ出すことに躊躇を覚えるはずだ」

 直後、指をさされた胸が少しチクリと痛んだ気がする。

 見て見ぬ振りを決めていた都合の悪い、皆から私を見た時、どう思うかという視点は、雪子学校長の言うとおり、私の行動を間違いなく躊躇わせる筈だ。

 雪子学校長が、私の身を案じてくれたのは十二分にわかっているが、その結果、皆が傷ついてしまう可能性が高まるなら意味が無い。

 そう思ったところで、雪子学校長は「分身に何かがあった時に、本体の影響が出ないように、進化させなさい」と私に言い放った。

「え?」

 思わず戸惑いの声が私の口からこぼれ出す。

「どうせ君は、私がなんと言おうと、その時が来れば、身を挺して皆を護るだろう?」

 ズバッと突き刺さった雪子学校長のその言葉を、私は否定することは出来なかった。

 そんな私に苦笑を見せながら、雪子学校長は言葉を続ける。

「ならばだ。本体である君自身が傷つかないように、分身を盾に出来る方法を確立しなさい……まあ、君のことだから、分身を盾にする程度は考えていただろう?」

 雪子学校長の言葉に、私の胸がドキッと大きく跳ねた。

「図星だろう? まあ、今は少女だが、長く男性と生きていたのだから、思考に男性的な傾向が出るモノなのだよ」

「男性的?」

「自己犠牲……自分が犠牲となっても群れを残そうとする生物的本能の現れだね」

 淡々と返された雪子学校長の言葉に、私は「それは……」と続く言葉も見つからないまま、反射で声を発する。

 雪子学校長はそんな私の発言に対して、少しだけ笑みを深めた。

「女性は子供を宿し、産み、育むという本能に基づく意識があるから、どちらかというと群れを維持しようとする……つまり、現状を維持しようとするから、ね。誰かを犠牲にしてその場を乗り切るよりも皆が傷を負っても、皆で逃れようとする……当然、自己犠牲的な手段はあまり選ばないモノなんだよ」

 はっきりと断言されてしまったこともあって、私はそういうモノかと頷いてしまう。

 そんな私に雪子学校長は笑いながら「あくまで私の経験則で導き出した理論だから、学術的考察や検証はなされていないけどね」と言い加えた。

「それでも、凄く納得できました」

「そうかね?」

「少なくとも、私はいざとなれば皆の盾になればいいと、そこで思考を終わらせてしまっていました」

 私の言葉に雪子学校長は柔らかく頷いてくれる。

「皆の盾になるのがいけないんじゃ無くて、もしも盾になるなら、その後に続く手段やその先の対応策なども考えるべきだった。緊急手段を考えただけで、それでいいやってなっていたのは、自己犠牲に酔っていたのかも知れません」

 雪子学校長は、短めの溜め息を吐き出してから、私の肩にポンと手を乗せた。

「自己評価が少し厳しい気もするが……君が皆に傷ついて欲しくないように、私も含め、皆が君に傷ついて欲しくないと思っていることだけは忘れないように」

「はい!」

 自分でも吃驚する程、私の口から出た返事は晴れやかに響く。

 そんな私に対して、何故か寒気のする笑みを浮かべた雪子学校長は「練習メニューは考えているから、楽しみにしていたまえ」と目を細めた。

 気圧されて少し声が震えたが、私は「は……い」と、どうにか頷く。

 雪子学校長は目を細めたままで、花子さんに視線を向けた。

 それを合図に花子さんが私に『異界netTV』が動いたままのスマホを差し出す。

 私がそれを受け取ったところで、雪子学校長は次の指示を出した。

「まずは『神世界』の分身をこちらから操作してくれるかね?」

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