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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第伍章 検証流転
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伍之漆 お叱り

「さて、いきますね」

 私の突然の発言に、雪子学校長が「なに?」と眉を寄せた。

 完全には私のしようとしていることを察してはいないであろうが、それでも雪子学校長は無茶をしようとしていることには気付いたように見える。

 このまま、間を開ければ、止められてしまうと確信した私は、それ以上雪子学校長が動くより早く、目の前の『神世界』に繋がる四角に飛び込んだ。

「ば、ばかも……」

 私の行動に怒りの声を上げた雪子学校長だが、それが私の耳に届くことは無い。

 何しろ、ほんの一瞬のブラックアウトを挟んで、私は桃の花が咲き乱れる桃源郷に立っていた。

 そう今この時点で、雪子学校長と、私……正確に言えば分身の居る世界は、文字通り別のものになっている。

 声が届かないのは当然だった。


「凛花さん。私の記憶が正しければ、成人された大人としての経験がありますよね?」

 私の口から出た言葉に、返す言葉も無かった。

「確かにいずれ検証をしなければならないことですし、凛花さんの分身なら、命の危険は、他の人が試すよりも低いのは確かです」

 コンコンと私の口から紡ぎ出されるお説教の言葉をもっともだと思いながら、じっと聞いていると「ちゃんと聞いてますか?」という問いが出てくる。

「ちゃんと申し訳ないと思いながら聞いてます……多少は役に立てたかなとも思っていますけど……」

 そう返したことで言葉に迷ったのか、花子さんからの返事が、私の口からすぐに出ることは無かった。

 状況的には、私の無謀に対してお叱りを受けている最中なので、フラフラと動き回るわけにもいかず、じっと花子さんからの言葉を持つ。

 対面で怒られているわけではないので、花子さんの様子もわからず、ただ待つ意外に私に選択肢は無かった。

 私のことを心配して叱ってくれている花子さんと、直接顔を合わせるために、分身を解除するという選択肢も考えたが、実証実験としては、意識と体を保ったまま、仮の出入り口から分身を送り込めたのにもったいない。

 ここへ立ち入るために、一つ勝手をした分、私は沙汰を待つしかなかった。


「てんてんてんてんてんてん」

 急に私の口が『てん』を連呼した。

 花子さんがテキスト入力した結果だというのは想像がつくけど、なんで『てん』を連呼させているのかがわからない。

「とりあえず、意識を本体に戻してください。お姉ちゃんからの指示です」

 私の口から飛び出した指示に、思わずゴクリと喉が鳴った。

 分身の体なのに、ちゃんと喉が鳴るんだなと余計なことを考えたのは、こちらへと飛び込んだ瞬間の雪子学校長の怒りの籠もった声を覚えているからに他ならない。

 怒られるから返りたくないという子供みたいな気持ちを無理矢理ねじ伏せて、大人として行動を起こした責任の代償として、叱られるために私は意識を切り替えた。


「まずはこれからの行動を伝える」

 訓練場の本体に意識を戻すのとほぼ同時に、かなり不機嫌そうな雪子学校長の声が降ってきた。

 私は顔を上げずに「はい」とだけ短い返事をする。

「言っておくが、説教は後回しなだけだ」

「はい」

 私も実験が成功したから無罪放免とは思っていないし、勝手をした罰は受けなければなら無いので、異論どころか拒むつもりも無かった。

「まず、行動開始と言うまでは、君は行動を起こすな」

「……はい」

 かなり強い口調なのは、説明を聞かずに、私が動くことを懸念しているのだろう。

 私が雪子学校長の立場で考えれば、直前に勝手な行動をしている以上、信用が全くないのは当然だ。

「最初に行っておくと、君の独断専行は、これからチームで行動を起こす上で決して許されない行為だ。特に、君に何かがあれば、君だけでは無く、周りにも大きな影響が出る」

 雪子学校長はそこで溜め息をついて「一方で、君の行動で一つ検証が進んだのは事実だし、あの場で相談を受けていれば、決断に私が時間を要したこともまた事実だ」と続ける。

「ここまでは言われるまでも無く、君が既に認識している事だろうとは思う」

 雪子学校長は私の頬を両の手で包み込むと、自分と目が合うように私の顔を自分の方へ向けた。

 こちらを真っ直ぐ見る射貫くような雪子学校長の目に、私は何も言えずただその目を見返すしか出来ない。

「だから、ここからは君が恐らく認識していないだろう事を伝える」

 雪子学校長の気合というか気迫に押されて動けない私の背中を伝うように冷たい汗が滑り落ちる。

「君は子供達や私や花子を思う余り、自分の身を軽んじている。誰かがやらなければいけないなら、自分がやろう……そう考えている」

 図星を突かれた私は、何の反応も出来なかった。

 私の分身なら実験台としても最適な上に、いざとなれば子供達の盾にもなれると考えたばかりである。

 その気持ちは私の考えた末の結論によるモノだし、決して間違ってはいないと私は思っていた。

 けれど、雪子学校長が続けて口にした言葉で、その自信は簡単に揺らいでしまった。

「君の考えは効率や戦略という意味では正しいといえなくもないが……冷静に考えて欲しい。そんな行動を、花子や子供達がとったら君は怒りを覚えないか?」

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