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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第伍章 検証流転
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伍之伍 練習の必要性

 言われてみればという思いと、本当にそんなことが出来るのかという思いで、私は固まった。

 確かに映像を映すだけなら『カメラ』でも良いのに、わざわざ『TV』となっているところに何かの意図を感じる。

 選択した対象の視界映像が受け取れる点だけでも驚きだったので、その発展までは思考が追いついていなかった。

 そんな自分の抜け具合に嫌気を覚えたが、とはいえ、音声が出力されたわけではないので、花子さんの思い込みかも知れないと考えつつ捜査を見守る。

 結果、私は自分の視野の狭さを実感することとなった。

「あー、消音設定になっていますね」

 思わず雪子学校長と目を合わせる。

 何か変な捜査をして接続が切れるのを恐れたのもあるが、誰かの視界を借りられるアプリと言うだけで思考停止していた事実に、お互いに苦笑いを交わした。

「スマホの検証は花子に任せるのが良いみたいだな」

 雪子学校長の言葉に同意しようとした私の口から「いろいろ試してみるから任せてください」とまるで違う言葉が飛び出す。

「うぇっ!?」

 私が驚きの声を上げた直後、またも私の口が勝手に動いた。

「テキスト入力すると、視界を借りている相手が読み上げてくれるみたいですね」

 私の口が勝手に……いや、花子さんの入力した文章そのままを声に出したところで、雪子学校長はもの凄い勢いで分身(わたし)に近づいて、肩に両手を置いて揺さぶってくる。

「ちょっと、待て! そんなことが可能なら、もっと戦略の幅が広がるじゃ無いか!」

「あにょぉ~ゆ、ゆすられりゅ……」

 言葉になっていない私の抗議はそこで途絶え「こちらと『神世界』で情報のやりとりがより早くスムーズに行えますね」と、まるで震えの無い綺麗な発音で私の口は花子さんの返事を代弁した。

「ゆす、られってっるの、か、かんけいな……?」

 私の発言は所々途切れるのに、続けて私の口から発せられた「テキスト入力の方は、状況に寄らず正確に発生されるようですね」という花子さんが入力したと思われる言葉の方は乱れが無い。

 もしかすると、私自身が声を発するのと、スマホのアプリ経由でしゃべらされる言葉では、発生方法が違うのかと考えていると、雪子学校長は特訓場のテーブルの上に歩み寄って、置かれていたタオルを掴み取った。

「これは洗い立てだから気にせず噛んでみてくれたまえ」

 手にしたタオルを手に、雪子学校長が言い笑顔で微笑む。

 意図はわかる……詰まりは、これを加えた状態で、発生がどうなるかのテストだ。

 完全に実験台だが、テキスト入力が有効なのは私だけかも知れないので、大人しくタオルを受け取って口に咥える。

「よし、話してみてくれ」

「ほぉい。ひほふぇふぇはふ……はっ?」

 息苦しさを感じながら頑張って声を出すと、雪子学校長は軽く頷いてから「辛うじて、聞こえているかと尋ねられるのがわかる程度で、集中していないと意味までは聞き取れないな」と実感を口にした。

 その後で、間を置かず「花子、頼む」と雪子学校長が指示を出すと、またも私の意思に関係なく声が発せられる。

「発声の実験です。どのくらいの精度で聞こえますか?」

 分身(わたし)自身はタオルを咥えているのに、普通にしゃべったのと変わらない声が耳に届いた。

 それは雪子学校長も同じだったようで「これは凄いな」と深く何度も頷く。

 私は口にくわえたタオルを外してから、実感したことを伝えることにした。

「自分で発声していると言うよりは、体のどこかにスピーカーがあってそこから声が発せられている感じでした」

「……ほう」

 頷いた雪子学校長に、今の実験で肩を揺すられていた時には気付かなかった事実も伝える。

「自分で口にした言葉と言うより、録音された声を聞くような、声の違和感がありました」

 私の報告に次いで声を発したのは花子さんだった。

「アレですね。骨伝導の影響で普段自分が発している時に聞こえる声と、録音して機械的に再生した声が違って聞こえるという」

 いつの間にか近くまで寄ってきていた花子さんは、先ほど私が発した文章が表示されたままのスマホの画面を見せてくる。

「それが、テキスト入力か……これはスマホの練習が必要か……」

 スマホの画面を見詰めながら雪子学校長は大きく肩を落とした。

 どの程度かはわからないけど、間違いなく雪子学校長はスマホでのテキスト入力が不得意なのだろう。

 私も不得意なので大変気持ちはよくわかるのだが『女子小学生として問題ないレベルまでは慣れておきなさい』と花子さんに言われている身の上としては、仲間が増えた気がして少し気持ちが軽くなった。


 スマホの操作でマウントを取った花子さんが、雪子学校長や私に対して、こんこんと反復練習の必要性と共に『弄ってみなければ上達しない』という真理を突きつけてきた。

 変に弄ったら壊してしまいそうと考える私たちには受け入れがたい言葉だが、花子さんは弄ったことで私たちが見つけられなかった機能を見出しているので、ぐうの音も出ない。

 練習として、連絡アプリで花子さんに、一日数回のメッセージ送信を義務づけられた。

 しかも、花子さんとだけやりとりするわけで無く、雪子学校長はもちろん、子供達にも、私たちから声を掛けて協力して貰う。

 私の出現させたスマホの機能を十二分に扱えれば、今まで以上に安全で効率的な『種』対策作戦が立てられるというのは花子さん、雪子学校長共通の認識であり、大いに頷けるところだ。

 当然ながら、私たちの選択肢に、スマホ操作を練習して上達する以外はない。

 それに、私がスマホに詳しくなれば、もっと役に立てる新たなアプリが出現するかも知れないと考えると、苦手意識はあれども練習は苦ではなさそうと思えた。

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