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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第壱章 教師赴任
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壱之拾壱 ナミを立てる少女

 最後に順番が回ったのは、三峯さんだ。

 朝は苦手なようで、花子さんに支えられていたので、少し心配だったのだが、時間が経ったせいか、目が覚めたのか、教室では驚く程に普通に振る舞っている。

 自分の番だと察した三峯さんはゆっくりとした所作で、立ち上がると最初に僕に向かって頭を下げた。

 元々持っているおっとりとした雰囲気が、その所作に相まってとても上品に映る。

 雰囲気のある子だなと思っていると、三峯さんは静かに頭を上げて、小学生とは思えない程妖艶な雰囲気のある笑みを浮かべて見せた。

 顔だけで判断すれば、大人の人ですと言われても納得してしまうだろうが、身長はそれほど高くなく、また小学校の制服姿というのもあって、チグハグさが醸し出す違和感がすごい。

一方で、全身で考えると普通に小学生の少女に見えるので、自分が何故違和感を強く感じるのか、不思議で仕方なかった。

 そんな彼女の挨拶は、下げた頭を上げてから数拍経ったところでようやく始まる。

「初めまして、三峯那美と申します。学年は……」

 そこまで言ったところで、三峯さんはくるりと体を回転させ、教室の後ろ手こちらを見守っていた花子さんを見た。

 すると、花子さんは無言でパーに広げた左手に、右手の人差し指を立てた状態で重ねる。

 直後再び僕の立つ教室の前方へ振り向いた三峯さんは、コテンと小首を傾げた。

「六年生みたいです」

「あ……うん。そうだね」

 二人のやりとりに掛ける言葉を失ってしまったものの、僕はどうにか頷く。

 が、三峯さんから返ってきた反応はどうして知ってるのと問いたげなものだったので、変な誤解を生む前にちゃんと説明することにした。

「三峯さんだけじゃなくて、東雲くん、葛原さん、結花さん、舞花さん、全員の名前と学年は雪子学校長から教えて貰っていたんだよ」

 僕の説明に対して、三峯さんは首を反対に傾げる。

「それは……」

 何を言い出すんだろうと思っていると、おっとりした口調で「自己紹介要らなかった?」と首を反対に傾げられてしまった。

 対して僕は多少苦笑気味に、左右に頭を振る。

「必要ですよ。挨拶は大切です。それに直接名前を教えて貰うのと、資料で知るのはまるで違います。僕は三峯さん達のことを資料として、データとして知りたいのではなく、一人の人間として、共に日々を過ごす相手として知りたいので、少なくとも僕にはとても意味があります」

 偽りなく僕の気持ちを伝えると、三峯さんは納得してくれたようで「なるほどです」と朗らかに笑んだ。

 同級生だったらイチコロで惚れてしまいそうな破壊力の笑顔に、やはり六年生には思えないなと感想を抱いたタイミングで、三峯さんの頭がまたも反対に傾げられる。

「どう、しましたか?」

 僕が理由を聞こうと質問を投げ掛けると、三峯さんは結花さんと舞花さん姉妹に視線を向けた。

 それだけでは言いたいことが想像出来なかったので、大人しく三峯さんの発言を待つ。

 鏑木姉妹も同じように考えたようで、三峯さんの発言を待っているようだ。

 恐らく、この独特のテンポと雰囲気を常に持っているのが三峯さんの特徴なんだろうと推察する。

 そんなことを考えていると、三峯さんが行動の理由を示す言葉を口にし始めた。

「どうして、私は三峯さんで、ユイちゃん、マイちゃんは、結花さん、舞花さん?」

「え? ユイと舞花は同じ名字だからじゃない?」

 三峯さんに目をパチクリさせながら結花さんがそう答える。

 まったくもってその通りなので、僕も頷きで肯定すると、三峯さんは「私も」と言い出した。

「私も……っていうのは、那美さんと呼んだ方が良いって事ですか?」

「うん」

 僕の言葉に頷く三峯さん改め那美さんは、急に子供っぽい返事を返すので戸惑ってしまう。

 調子を乱される子だなと、心の内で苦笑していると、控えめな声で「あのぉ」という声が上がった。

 声の主である葛原さんを見ると、遠慮がちに上目遣いで僕を見ているようなので、思い至った事が正しいかどうか確かめる。

「葛原さんも、志緒さんと呼んだ方が良いですか?」

「あ……はい……その、くずって……少し……」

 志緒さんの言葉に、即座にそれはわかると心の中で頷いてしまった。

 別にいやというわけじゃないけれど、揶揄われやすい名前というのがあって、そのせいで、名字や名前を言われたくなくなるって言うのは僕も似た経験があるのでとても頷ける。

 まあ、他の女の子達が名前で呼ばれてて自分だけ違うのは、疎外感を覚えるので嫌だというのもあるかも知れないが、どちらにしても女性の心理には疎い僕でも理解出来る理由だと思った。

 と、女の子のくくりで話を終わりにしかけていた僕だが、もう一人いるのを忘れたわけではない。

 東雲くんはどうするかという確認の為に視線を向けると、彼は「東雲でいい」とだけ返してきた。

 僕は東雲くんに「わかった」と応えてから生徒達を順に見回す。

「改めて、皆の授業を担当する林田京一です。林田先生でも、京一先生でも、その他、僕が嫌だなって言わなかった名前なら好きに呼んで欲しい。ただ、あだ名は呼ぶ前に僕のことだって教えてくれると嬉しい」

 そう告げてから、僕は頭を下げた。

「それでは、今年一年よろしくお願いします」

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