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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第肆章 異界突入
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肆之弐拾漆 敗北

 花子さんは手にしていた掃除ブラシを半分くらい仮の入り口に突き刺すとその動きを止めた。

 ややあって、掃除ブラシは入り口の方へと飲み込まれ始める。

 この時点で花子さんは手を離しているので、向こう側で誰か……多分雪子学校長が回収しているはずだ。

「それじゃあ、今回の『種』祓いはこれまでにしましょう。雪子学校長から指示があり次第、撤収します」

「「「はい」」」

 花子さんの指示に、皆が声を揃えて返事をする。

 対して、軽く頷いた花子さんは、私に視線を向けた。

 雪子学校長からの合図は私が直接受け取る旨は既に花子さんに伝えてあるので、それを確認する意図があるのだろう。

 私は自分の役割をしっかり把握していることを伝えるために、軽く頷いて見せた。


 教室間を移動しているからか、雪子学校長からの指示が来るまでに、掃除ブラシの返却からそれなりの時間を要することになった。

 一旦、分身とのリンクを切った際に、本体と分身の場所を入れ替えているので、私の体はベッドで寝ている。

 その私の本体の方が揺すられ、雪子学校長から『行動を起こしてくれ』と指示が出された。

 雪子学校長に返事を返す代わりに、私は元の世界にあるもう一つの分身を消す。

 意識の多くを『神世界』の狐人間の分身に向けているが、それでも解除した分身の力が体に戻ってきたのを感じとった私は、次の行動に移った。

「花子さん、雪子学校長が『黒境』の部屋に戻りました」

 そう伝えると、花子さんは頷いて双子の名前を呼ぶ。

「舞花さん、結花さん」

「皆、先に戻るね!」

「お先に」

 層口にした舞花さんと結花さんは、全身を輝かせ始めたかと思うと、キュッとお腹の辺りに向けて体を縁取る光が集まった。

 完全な球形になった二つの光の球は、そのまま黒い鳥居をくぐっていく。

「じゃあ、次は志緒さんと那美さん」

「は~い」

 花子さんに指名され、いつもの長子で返事をした那美さんはそのまま『球魂』の姿ヘと変身した。

 一方、志緒さんは「にゃんで、リンちゃんは一緒じゃにゃいにゃ?」と花子さんに問う。

「凛花さんは分身でこちらに来て貰っているので、無防備な『球魂』の姿になる皆から先に帰って貰うことにしたんです」

 その説明で納得したのか、志緒さんは「それにゃらしかたないにゃ」とだけ口にして、那美さん達に続いて『球魂』の姿に変わった。

 おそらく、志緒さんを待っていたのだろう那美さんと共に、二人の『球魂』も『黒境』をくぐり抜けていく。

「凛花、花子さん。先に戻る」

 東雲先輩は、志緒さん、那美さんの『球魂』が見えなくなったタイミングで層口にすると、一瞬で自らも『球魂』の姿となり『黒境』をくぐっていった。


「えっと、それじゃあ、私は、仮の入り口から戻れば良いですか?」

「いえ、今回は、こちらに残った状態で、分身を解除してください」

 花子さんからの指示は、雪子学校長から事前に聞いていた指示と違っていたので、思わず瞬きをしてしまった。

「一応、掃除用のブラシで、行き来に問題なことはわかりましたが、分身の体で通って問題ないかどうかは未知数です。それを今試すよりも、こちらで分身を解除した場合、凛花さんの分身を構成するエネルギーが、この世界に消えてしまうのか、それとも空間を隔てても凛花さんに戻るのかを確かめた方が良いと、現場指揮官として判断しました」

 花子さんの答えに、私はなるほどと頷いてしまう。

 確かに、分身との同調は解除したものの、分身そのものを解除していないので、解除した結果どうなるかは私も気になるところだ。

 それに加えて、仮の出入り口の安全性……つまり、私の安全を考えてくた上での方針転換なのがわかる。

 さりげなく気遣って貰ったことが嬉しくて、でも、それが少し照れくさくて、私はひねた答えを返してしまった。

「それにアレですよね。私の分身は『神世界』限定ってことにするから、こちら側で消した方が、元の世界でも出せるという事実がばれにくいですよね」

 花子さんは「そうですね」と笑顔で頷くと、グッと私の顔を近づけてくる。

「へ?」

 想定外の行動を目にして思わず間の抜けた声を出した私に、花子さんは笑みを深めて「次はミニスカ『くノ一』スタイルが見たいので、資料を用意しておきます」と宣言して体を離した。

「そ、そんなことを言うのに、顔を近づける必要は無いと思うんですけど!!」

 思わず抗議というか、文句というか、苦情というか、ともかく内から湧き出てきた言葉を、私は口にする。

 対して、花子さんは「先に帰った子達が心配しますよ」と、柳に風の如く、サラリと流してしまった。

 してやられた感がとても強いけど、待たせるのも心配を掛けると考え、私は多少不貞腐れて花子さんに「じゃあ、先に帰ります!」と宣言する。

 少し棘を含めた私の言葉に対して、穏やかで優しい表情を浮かべながら花子さんは「はい。ちゃんと見守ってから戻りますね」と返してきた。

 直前にも気を遣って貰っていたこともあって、そんな表情を向けられたら怒っているのがバカみたいだと少し悔しく感じる。

 花子さんには勝てないなと苦笑しつつ、私は分身の解除をイメージした。

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