表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第肆章 異界突入
110/814

肆之弐拾肆 配慮

「雪子学校長」

 私がその名を呼ぶと、雪子学校長は小さく頷いてから「皆がこちらに戻る前に、こちらの状況を整えよう」と口早にそう言い放った。

 いまいち雪子学校長の意図することが読み取れなかった私は「状況を整える?」と首を傾げる。

「とりあえず『林田先生』が復帰するに当たり、皆に感づかれないように、分身を出して操れるのは『神世界』だけとしておいた方が良いだろうな」

 雪子学校長にそう言われて、当初の予定の中に、教室内で『林田京一』と『卯木凛花』が同時に存在する状況を作り出すことが含まれていたことを思い出した。

 分身を操ってその状況を作り出す予定だったので、雪子学校長の言うとおり、分身はあくまで『神世界』だけの話としておいた方が、事実が発覚する恐れは低い。

 皆を騙す形になるので罪悪感はあるものの、自分が林田京一だと名乗れなかった上に、卯木凛花であると別人を装ってしまった以上、今更の話だ。

 というか、今更、林田と知られることを想像すると、もうここにいて皆を守れる精神状態を保てる自信がまったくと言って良い程無い。

 皆を護るために、ここに仲間としている為に、完璧な隠蔽をすべきと心に決めた私は、雪子学校長の助力を求めた。

「どう、動けば良いですか?」


 雪子学校長の意見に従って『黒境』の部屋の状況を整えた私は、再び意識を狐の分身に移した。

 状況を整えるために、もう一体の分身を消した影響でスマホが消失してしまい『神世界』の状況を一時的に得られなくなっていたが、どういうわけか、志緒さんの肩から居場所が移ったようである。

 顔を上に向けると、こちらを見る志緒さん、舞花さん、結花さん、そしてそのやや後ろに花子さんと那美さんの顔が見えた。

「お帰りニャ!」

 そう言って微笑みかけてきた志緒さんに頷きつつ体を起こすと、柔らかいモノの上に立った感覚が脚から伝わってくる。

 どうやら私は足を崩した志緒さんの膝の上にいたようだ。

 分身の体には意識のなかったので、肩の上よりは膝の上の方が安定していたのだろうと考え、そこから先を考えるのを放棄した私は、雪子学校長からの言葉を伝えるために、話すことの出来る人型へと変化する。

 直前の失敗を踏まえて、今度はきっちり衣装も変化と同時に出現させた。

 今回身に纏ったのは、先ほど再現しなかった志緒さんの衣装である。

 短パンに、半袖シャツに、ベストというなかなか露出の多い衣装だが、猫人間と成っている志緒さんにはとてもよく似合う衣装だ。

 この衣装を選んだのは、私の配慮では無く、雪子学校長のアドバイスを受けてのことである。

 一通り見ん案追い証を真似て、双子に至っては色違いのヴァリエーション変化までしたのに、志緒さんと東雲先輩の衣装を再現していないのは問題だと言われていた。

 確かに見方によっては疎外しているように見えるかもしれないと、場の空気に流され、まったく配慮できていなかったことに反省した私は、早速、取り入れさせて貰う。

 それでも、志緒さんは一歩引いて状況を見られるので、効果は少ないだろうと思っていたのだが、その表情を見て、本当に自分の考えが浅はかだったのだと痛感した。

「まさか、私の衣装も再現してくれるニャんて、リンちゃんはこういう格好好きじゃ無いかもと思っていたから嬉しいニャ」

 まったく恨みを感じない無邪気な笑みと言葉に、私は心の底から雪子学校長に感謝しかない。

 雪子学校長に言われなければ、志緒さんのこんなに嬉しそうな笑顔を見ることが出来なかっただろうし、何よりも、私が変化しなかったという事実が何かの形で、彼女の心と記憶に深い傷を刻む事になった可能性があったことを、彼女の言葉からはっきりと実感出来た。

「動きやすいし、嫌いじゃ無い……むしろ好きですよ?」

「本当ニャ?」

 志緒さんの問いに私は大きく頷く。

 そもそも、私には林田京一としての積み重ねがあるのだ。

 正直、舞花さんや結花さんのドレスや那美さんのローブはスカートだったのもあって、私にとっては花子さんの忍者装束や志緒さんの軽装の方が肌に合う気がする。

「嬉しいニャ!」

 志緒さんが抱き付いてくるとは思っていなかったので、私は大きくバランスを崩した。

 倒れかかった私を受け止めてくれた私の頭が、志緒さんの胸に着地する。

 その感触に流石に慌てた私は、志緒さんに支えられた状態で、頭だけ無理矢理離した。

 が、首の力だけではどうにもならず、結局、頬に胸の感触が戻ってくる。

「リンちゃん、急に抱き付いてゴメンニャ……」

「わ、私の方こそ、支えて貰って、あ、ありがとうございました」

 同じ事を繰り返さないように、まず脚に力を入れて態勢を整えてからゆっくりと体を離した。

 体が離れたことで、思わず志緒さんと目と目が合ってしまったのだが、そこから続ける言葉が見つからず、お互いに黙ってしまったので見つめ合う時間になってしまう。

 それはそれで気恥ずかしくて、私は視線を逸らしつつも誤魔化すために「は、花子さん!」と逃げ道を求めた。

「なんですか?」

「えっと、雪子学校長が今回は仮の入り口のセッティングだけして、戻って来るようにと言ってました」

「わかりました」

 雪子学校長からの指示を伝えるという形で、無理矢理空気を変えることに成功した……と思う。

 問題があるとすれば、視線を逸らした先では無く、志緒さんの更に後ろに花子さんがいたせいで、結局視線を戻す羽目になった事くらいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ