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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第壱章 教師赴任
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壱之拾 生徒達の自己紹介

 今日から新学期が始まること、学校生活に当たっての注意事項、進級のお祝いを、学校長のお言葉として雪子学校長が語った後、一学期の始業式は終わりを迎えた。

 講堂を先頭で出た雪子学校長、東雲くん、鏑木姉妹、葛原さんと続いて、眠そうでふらついている三峯さんを花子さんが支え、最後に僕が戸締まりをしつつ後に続く形で教室へ移動を果たす。

 そして、ここで改めて自己紹介をした僕は、名前を黒板に改めて書くと自分の名前の簡単さをアピールしたが、まったく響かなかった。

 とはいえ、自己紹介ネタが滑ったくらいで落ち込んではいられないので、平静を装いながら、生徒の皆にも自己紹介をしてくれるように頼む。

 すると、代表して口火を切ってくれたのは東雲くんだった。

 ゆっくりと立ち上がった彼は、何というか、美しい。

 線の細い黒髪の美少年といった風で、こちらに対して壁を作っているのだろう彼は、強い警戒の色を示していた。

 そんな態度を見せられれば、こちらとしてもマイナスな印象を抱きそうなものだが、彼はそれを押しとどめてしまう程の美貌を持っている。

 眉が隠れ、肩に届く程度の髪の長さも手伝って、受ける印象は男性と言うよりはむしろ女性に近く、イメージとしては女性だけの劇団における男役の方々のような雰囲気なので、女性は思わず黄色い声を上げてしまいそうな雰囲気を纏っていた。

 身長は中学一年生と言うこともあってそれほど高いという印象はないが、線が細いので低くも感じない。

 それでも、整った顔立ちに色白の肌は、学ランと重なるともの凄く映えていた。

「東雲雅人。中学一年。よろしく」

 声変わりをしていないのか、声は想像よりも高く、無理に声を低くしようとしていないのでとてもナチュラルに聞こえる。

「凄くいい声だね」

 僕がそれを発した本人だと気付いたのは、東雲くんの目が丸くなった後だった。

 耳が拾っているので、多分、思ったままに任せて口走ってしまったのだろう。

 変に否定するのも良くないと思い、僕は素直に思ったままを口にした。

「とてもよく響く心地のいい声だと思ってしまったんだよ。気に障ったなら申し訳ない」

「……いえ」

 東雲くんはそう短く返すと、そのまま席に座ってしまう。

 何か悪いことをしてしまった気がして、無意識に僕の眉間にしわがよるのを感じた。

 すると、そんな僕を見かねてか、第一印象で優等生な感じがしていた葛原さんが、手を上げてからゆっくりと立ち上がる。

「先生、次は私で良いですか?」

 葛原さんの発言には東雲くんの番が終わったという意味もあるんだろうと判断して「あ、ああ、もちろん」と頷いた。


 葛原さんは綺麗に整った長い黒髪を、三つ編みで二本お下げにしている女の子で、制服の着こなしも綺麗な印象だった。

 僕が第一印象から優等生と感じたのは、そう言ったきっちりとした身だしなみと、理知的な話し口調にあると思う。

「私は葛原志緒といいます。小学五年生になりました」

 真っ直ぐ僕を見て、丁寧に自己紹介をする葛原さんの姿は、より優等生だなという印象を強めてきた。

 だが、と、僕はここで考えを改める。

 あくまで優等生というのは、僕の印象であって、彼女の本質であるかはわからないと、急に冷静な考えが浮かんだ。

 優等生というのは、割と子供の頃演じやすいのだと、心理学の授業で耳にした記憶がある。

 あくまで優等生に擬態しているだけで、本質と違う顔だった場合、こちらもそうだと思い込んで振る舞ったり接することが、彼女の中にストレスという形で蓄積してしまう危険性があるのだ。

 なので、優等生であることを彼女自身が望んでいるのかどうかを確かめるまでは、イメージを固めるのは辞めようと、心の内で自身に言い聞かせながら葛原さんに対して軽く頷いてみせる。

 それを彼女自身がどう解釈したのかはわからないけど、葛原さんはペコリと頭を下げた。

「林田先生、一年間よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 三人目は鏑木結花……の、ハズだったのだが、何故か鏑木姉妹は二人一緒に立っていた。

 二人で一人というか、依存関係に近いのかも知れないが、今日初めて顔を合わせて良くないと判断するのは勝手が過ぎるので、とりあえずは、二人での自己紹介を認める。

 決めつけるよりは彼女たちの主張を見て学びつつ、良い方向を模索出来たらと僕は考えていたのだが、雪子学校長や花子さんは何も言わないので、任せてくれる心づもりなのだろうと解釈することにした。

「鏑木結花です! お姉ちゃんです!」

「舞花です」

 大きく手を上げて名乗った結花と舞花は髪の長さも同じ肩に掛かる程度で、結花は右、舞花は左の耳の上で髪を結っている。

 髪の結い方は双子なりの自己主張の表れになることもあるらしいので、見分け方として髪の結びが逆というのは、正直参考になるくらい二人はよく似ていた。

 だが、一方で、結び方を逆にして入れ替わるといった行動も取るらしく、それでも見分けてくれるかどうかで、相手の信頼を図ることもあると、先輩から聞いていた僕は、まずは髪の結び以外の見分け方を習得せねばと胸の内で誓う。

 その上で、二人を観察すると、第一印象では姉の結花さんの方がグイグイ引っ張っていくタイプで、妹の舞花さんはその後ろに隠れる引っ込み思案な様だ。

 もちろん、第一印象だし、彼女たちがそう演じているだけで、本質とは違うかも知れないので、葛原さんの時のように決めつけないようにと、念じるように頭で繰り返す。

「えっと、後何を言うんだっけ?」

「お姉ちゃん、が、学年」

「あ、そっか」

「小学四年生です! あと、舞花も小学四年生です!」

「……です」

 二人で話している時は普通なのに、僕への発言になると舞花さんの声は大分小さくなってしまった。

 緊張か、僕への警戒下はわからないけれど、姉の結花さんへの依存は大分大きいなという印象が残る。

「終わりにしていいのかな?」

「あ、挨拶」

「そっかそっか」

 またも二人で会話を交わした後で、結花さんが僕に視線を向けた。

「林田センセーよろしくお願いします!」

「……ます」

「はい。こちらこそよろしくお願いします。結花さん、舞花さん」

 僕がそう答えると、結花さんがピタリと動きを止める。

「どうかしましたか?」

 まるで理由が思い付かなかったので、僕が瞬きをしながら尋ねると、彼女は僕を指さして来た。

「ん?」

 思わず瞬きの速度が上がったところで、結花さんは「キョーイチセンセー」と言い放つ。

「え、はい?」

「私たちも名前で呼ばれるなら、ユイは先生をキョーイチセンセーと呼びます!」

 その宣言に思わず吹き出しそうになってしまったが、彼女が真剣に言っているのは雰囲気で感じられたので大きく頷いて了承することにした。

「わかりました。先生だけが名前で呼ぶって言うのも変ですものね」

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