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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第肆章 異界突入
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肆之拾陸 到達

「なるほど……感覚が狐に引き摺られたか……」

 雪子学校長の言葉に私は無言で頷いた。

「過去、分身を扱う能力、変化する能力……更に言えば狐になる能力を持った先人は確かにいた」

「……はい」

「だが、感覚は人それぞれ違う。過去の人間の例を当てはめたとして、君も同じように感じるのかどうかは未知数だし、特に君のようにイメージが形になりやすい人間にとっては、先人の例が足かせになったり、もっと悪い形で影響を及ぼせば、災いを招く可能性も考えられる」

 私は雪子学校長の言葉に異論は無いと頷く。

「結局は自分自身で自分の能力を知り、使いこなさなければならない……その上で、君の危機感はとても重要だ」

「……危機感……」

「先ほど君が言っていた『悪寒』についてだが、君が本能に引き摺られても、そのまま飲み込まれないように、君自身が危険信号を発しているのだと思う」

 そこまで口にした雪子学校長は私をじっと見ながら「スマホの映像では視界に変化は無かったが、しかし、目を閉じればその間暗転はする」と話を続けた。

 雪子学校長が何を言いたいのか、上手くくみ取れずにいる私は、ただ続きを待つしか出来ない。

 そんな私に真剣な眼差しを向けたままで、雪子学校長は「もし、君自身が悪寒を感じて、自分を止められないと感じたら瞬きをしたまえ、すぐに私が君の体を揺すって意識を呼び戻す」と言い切った。

 更に「もし、それで起きなくても君の状態を巻き戻せば、どうにかなるから、安心したまえ」と言い加えてくれる。

 それだけで、私の気持ちは想像以上に軽くなった。

 ここ数日だけでも、何度も助けて貰っているだけに、雪子学校長の言葉に強い安心感を覚える。

 正直、躊躇いを感じていた分身を動かすことも、雪子学校長が傍らにいてくれるなら、これまでと変わらずに挑めると、私は思うことが出来た。


 改めて、狐の分身に意識を集中させ始めた私は、これまでと違うことに気付いた。

 この世界と『神世界』の出入り口でもある『黒境』から大分距離があるせいか、上手く意識が同調出来ない。

 狐に意識を集中すると上手くしゃべれなくなるので、今のうちに私は同調に手間取っていることを雪子学校長に伝えつつ、引き続き同調を試みた。

 そのまま集中を続けることしばし、フッと全身に風を感じると供に、寝ているはずの体に、四つ足で地面に立つ感覚が重なる。

 同調が出来たと感じた私は瞳を開き、そこに桃源郷を見た。


 狐の分身のコントロールを取り戻した私は、素早く周囲に視線を巡らせた。

 同時に、光る線で構築された3Dモデルのような地図が浮かび上がる。

 そこに映し出される花子さんを始めとした皆のマークが、先ほどよりも間隔が離れていることに気が付いた。

 もしかして、縮尺が変わるのかも知れない。

 そう考えた直後、グンと勢いよくグリッドの隙間が広がり、それに合わせてマーク通しの感覚も開いた。

 更に地形や桃の木を象る光る線も同様に距離を取っただけで無く、太さを増したことから、私は拡大表示されたのだと理解する。

 と同時に検証のために今度は縮尺を縮めようと思えば、グリッドの隙間は詰まり、桃の木も細く花の咲く位置もグンと下に下がった。

 そこまで一気に縮小拡大を繰り返したから、私は好奇心に任せて検証もせず新たなことを試してしまったコトに思い至る。

 自分自身を制御出来てない事実に、情けなさを覚えながらも、新たな能力を確認出来た上に、私自身に悪影響は無かったと結論づけて、反省は後回しにすることに決めた。

 今はそれよりも合流が最優先であり、もうあと少し駆ければ自分の目でも皆の姿が見える筈である。

 そう考えて、私は一度大きく息を吸い込んだ。

 このまま皆を見つけたら、感情に流されてしまうのでは無いかという予測と言うよりは、確信に近い感覚がしている。

 何度も頭で駄目だと思っていても、気持ちが行動を引っ張ってしまうので、上手く止まれる気がしなかった。

 とはいえ、ここで立ち止まったままでは皆の様子を確認出来ないし、ここまで来た意味が無くなってしまう。

 私はいざとなったら雪子学校長が手を差し伸べてくれるといった言葉を頼りに、残り僅かな距離を掛ける覚悟を決めた。


 最後の移動は視界の変化に強い衝撃を受ける事となった。

 赤い空が桃源郷と綺麗に区切れているだけだと思っていたのが、そこに辿り着いた瞬間、じわじわと乾いたタイルに水が染み込むように、青空を赤い空間が侵食している。

 ゾワゾワと肌が総毛立つ感覚に囚われながらも、私は懸命に視界を巡らせた。

 私の認識では『種』側に浸食されて、空だけで無く桃林も赤い空間に触れた場所から枯死したかのように、花が散り、瑞々しさが失われ赤みがかった灰色へと幹は乾き朽ちていく。

 地面一杯に生い茂っていた緑も、赤い空間に徐々に呑まれる度に、黒くくすんでカサカサと乾いてチリと化していた。

 更に草が消え去ったことで露出した黒と茶色の混ざった土は、カラカラに乾き果て、白と薄い黄土色の乾いた大地へと変貌していく。

 一瞬にして桃源郷を飲み込み、不毛としか形容出来ない大地へと変えてしまう『種』に、私は底知れない恐怖を覚えた。

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