転生風記 ~扇風機の前でスカートをぶわぶわさせる! そんな恐れ知らずの少女とあなたは対峙する~
エアコンはエア・コンディショナーの略です。
扇風機は、英語でエレクトリック・ファンと言うようです。
あなたは扇風機になった。
扇風機……。それは、エアコンよりも温度を下げることは出来ないが、はるかに電気代が安い家電である。
動物のぬいぐるみが並んでいるベッドの反対側に、あなたは置かれていた。誰もいなかったこの部屋に、半袖ブラウスの夏服姿の女子高生がやって来る。
今は夏だ。とても暑い。
そしてここは女子高生の部屋だ。部屋の中は、とても暑い。
「あちー……」
汗をかいたポニーテールの女子高生はカバンを床に置いた。扇風機を適切な位置に動かす。コードを持って、先端の電源プラグを配線用差込接続器につなぐ。人差し指で、『強』のスイッチを押す。
扇風機のあなたは電力を得た。羽根を回転させ、女子のほうへと強風を発生させる。
「ふー……」
女子高生は最初こそ、床に正座して目をつぶり、風を顔で受けていた。
だが、やがて立ち上がり、膝丈の紺色スカートを両手で大胆に持ち上げる。
風でぶわぶわしているスカートの中には、スカートと同じ紺色のハーフパンツを穿いていた。そこへと目がけて、女子は激しい風を当てる。
「うあぁ~っ、気持ちええーッ!」
幸福しかない表情を浮かべる女子のハーフパンツが、強風を送るあなたには丸見えになっていた。
女子がしっかりと握るスカートの中は、あなたの仕事のお陰で涼しくなっているのは間違いない。あなたは扇風機なので、ただ彼女の喜ぶしぐさを眺めることしか出来なかった。
さらにこの女子は、スカートであなたの上半身……円形の送風部分を包み込み、強風を独占する。
「わー、生き返るぅ~っ!」
女子の下半身があなたに密着していた。
感触は分かるのだが、彼女のスカートがかぶさることで、目隠しをされた状態になってしまっている。あなたは暗闇から解放されないまま、羽根を回し続ける。
女子は快感を得ていたし、あなたも同様だっただろうか。あるいは、女子の大胆な動作に、恥ずかしさを感じていたかもしれない。
そんな特別なひと時も、女子がスカートを持ち上げ、スイッチを切ることで、終了する。
あなたは周囲の様子が見えるようになった。背後で女子がコンセントからプラグを抜いたのも分かる。
「あ~、極楽極楽ぅー」
立ち上がって部屋から出ようとする女子……だったが、あなたのほうを振り返った。
女子は、分かっているような目をしている。
「――あんまり興奮しないでよね?」
彼女は言った。
この部屋には、彼女以外には誰も居ない。
扇風機のあなたが置かれているだけであった。
(怖)
いきなり自分が知らない部屋の扇風機になるのは、怖いですよね。その時点でもうホラーでしょう。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。ついでに『サキュリバーズ!』など作者の他作品も読んで頂けたら嬉しいです。