図書館の匂いがする
真面目に書きはじめたつもりが・・・。
放課後、中学2年の加野大地は、誰もいない図書館の机で両腕を枕にし、うたた寝をしていた。
初秋のやわらかい日差しが、心地よく寝入る彼の影を伸ばす。
静けさの中、感覚は研ぎ澄まされる、大地は古い本や新刊本の匂いに不思議な安らぎを感じつつ自身の覚醒を感じた。
大地はのっそりと上半身を起こした。
(ヤバい・・・)
本を読んでいる内に、いつの間にか寝てしまったせいで、持ち出し図書の漫画「BJ」の名場面にべったりと涎がついていた。
慌ててブラウスの袖で涎を拭う。
窓を見る。
外がオレンジ色の夕焼けに染まっていた。
「いつの間に」
俺は夕陽の眩しさに目を細め独り言を呟いた。
(帰ろ)
くんくん。
袖を匂うと、当然、唾臭い。
「はあ」
ぱたんと「BJ」を閉じた。
そっと立ち上がり椅子をずらす。
ぎいっという音が、静寂の館内に響き渡る。
漫画を片手に持ち、入り口付近にある漫画本コーナーに「BJ」を戻す。
不意に視線を感じ振り返るアイツと目があった。
図書館員の井村渚だ。
俺が軽く手をあげると、むこうは軽く会釈して返した。
「明日は本借りるよ」
適当に言い訳がましい体裁を繕って、図書館を去った。
放課後、中学2年の井村渚は、誰もいない図書館のカウンターで両腕を枕にし、うたた寝をしていた。
初秋のやわらかい日差しが、心地よく寝入る彼女の影を伸ばす。
静けさの中、感覚は研ぎ澄まされる、渚は古い本や新刊本の匂いに不思議な安らぎを感じつつも自身の覚醒を感じた。
渚はのっそりと上半身を起こした。
私はうっかり寝てしまった事に、恥ずかしさでほっぺたに火照りを感じた。
(・・・誰も見てないかな)
きょろきょろと辺りを見渡した。
(大地くん・・・寝ている)
私はほっとした。
館内にはクラスメイトの加野大地君だけで、彼は気持ちよさそうに寝ていた。
時計を見ると、間もなく17時になろうとしていた。
私は慌てて閉館準備を進める。
ぎいっと館内に椅子が動いた音が響いた。
(大地君、起きたね)
私はカウンターにでた印鑑や筆記具などを所定の位置に戻す。
本を直した彼が手をあげると私は軽く頭をさげた。
(きっと、また本、涎でゴワゴワになっているんだろうな)
「明日は本借りるよ」
「はい・・・はい」
私は彼に聞える返事に続けて、小声で呆れ、はいを呟いた。
それから急ピッチで作業終了させる。
私は深く息を吸い込み、大好きな本日最後の図書館の匂いを吸い込む。
放課後の図書館にて。
初秋のやわらかい日差しが、心地よく寝入る2人の影を伸ばす。
静けさの中、図書館の匂いを送り込むと感覚は研ぎ澄まされる。
2人は古い本や新刊本の匂いに不思議な安らぎを感じつつ自身の覚醒を感じた。
2人はのっそりと上半身を起こした。
目覚めた2人が、ほぼ同時に辺りをきょろきょろと見渡している。
取り繕い行動する2人。
軽く挨拶をかわす。
2人が帰った後、さらに静まり返る図書館。
「うーん、いいね」
古い背表紙の「物語本」が言った。
「何、言っている。ここは勉学に励む場だ」
厳格なことを言いだしたのは、「広辞苑」。
「図書館が取り持つ恋・・・古くさっ」
新刊本の「ラノベ」がくすくす笑うとページがめくれ揺れる。
「もしかして、もしかしちゃうなら、是非とも私を読んで欲しい」
生徒の誰かが、本の間に隠した「初めてのS○X」が主張する。
「お前、よそ者だろ」
普段は見向きもされない「本学の歴史」が訴える。
「しかし本、されど本。本に変わることなし、はてさて、これいかに」
「哲学書」はそう言うと思案する。
「謎は深まるばかりですね」
「ミステリー本」はより話を難しくする。
「犯人はお前だ!」
「推理本」は物陰に潜む本に言った。
「エロ本だって、いてもいいじゃないか!」
男子生徒によって、本棚の後ろに隠され忘れ去られた「エロ本」は叫んだ。
「正確にはエロ漫画ですけどね」
「国語辞典」は冷静に言った。
「エロはダメっしょ」
「源氏物語」は言った。
「お前が言うな」
※「四十八手手引き書」が言った。
「いや、あんたも」
※「女大楽宝開」と※「春画」がツッコむ。
「なんで、あんたたちが中学校の図書館にいるんですか」
「やさしい保健体育」がふるえる声で言う。
「禁帯出だもの」
※「禁帯出本」たちが堂々宣言する。
「しかしですなあ」
大地が忘れた「ジ○ンプ」はしみじみ言う。
「ええ」
渚が思わず忘れた「BL系ラノベ」は頷いた。
本の匂いが静寂の図書館にたちこめる。
「青春ですなあ」
全書が声を揃えて言った。
やや、不時着気味におわる(笑)。