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バウムクーヘンと彼女と謎解きと  作者: 塚山 凍
EpisodeⅠ:音色の研究
8/94

外と中の関係

 ……そんなことを思っているうちに、壁野は作業を再開していた。

 要は、再び脚立に上り、折り紙を設置し始めたのである。

 心なしか、彼の雰囲気は妙に明るい。


 ──なるほど、そうなるのかあ……。


 それを軽く呆れた視線で見た後、僕はその場でくるりと体の向きを変え、少し外に出ようとする。

 しかし、外に出る前に、ふと、脚立の足元が視界に入った。


 先述した、彼が作業に使う折り紙やノリ、はさみの類が置かれてあるところのことである。

 特に、置かれてある折り紙の束の、一番上。

 そこに無造作に置かれてある青色の折り紙を視界に認めて、僕は目を細めた。


 ──あれが合図、ということかな。


 何となくだが、そう思う。

 終ぞ確信は得られなかったが、まあ間違いないだろう。

 それだけを確認して、僕は今度こそ外へ────音楽室も面している、学校内のグラウンドの方に走っていった。




 而して五分後。

 慣れない小走りのせいで軽く息を荒げながら、僕はグラウンドの方に足を向けた。


 正確に言えば、グラウンドの中でも端っこの端っこ、校舎の壁沿いの空間。

 他の部活をする生徒の邪魔にならないよう、そのあたりを移動したのだ。


 ──さて、じゃあ次は、外から見た時の第二音楽室を探す必要があるんだけど……。


 学校の教室配置を脳内に思い浮かべながら、僕はキョロキョロと首を回して、外から第二音楽室を見つけようとする。

 無論、こういう行動をするのには訳があった。


 先程、僕が小窓から覗き見した光景が正しければ、あの部屋には外に面した大きな窓があったのだ。

 つまりあの教室は、廊下側にはあの小さな小窓くらいしかない割に、外には大きな窓で繋がっているのである。


 ──だから普通なら、外から部員の様子は見えるくらいのはずなんだけど……。


 そんなことを思いながら、窓ガラスを一部屋ずつ教室を確認した。

 これからの推理には、どうしてもそこからの光景が必要だ、と思ったのである。


 その一心で窓ガラスを舐めるように見つめることしばし────ようやく、僕は第二音楽室を外から見つけた。

 いや、正確に言おう。

 僕は、第二音楽室の()()()()を見つけた。


「おー、叱られてる」


 見つけた「隣の部屋」────第一音楽室を外から観察しながら、僕はそんな声を漏らす。

 グラウンドの端に立つ僕の眼前、ガラスを介した目の前では、二十名弱の部員たちが、教師の前で演奏を行っていた。


 窓にはカーテンも備え付けられているのだが、それが広げられてはいないため、部員たちが教師に指導を受けている様が、外からでも非常に良く見える。

 どうやら、先程推察した通り、吹奏楽部に顧問教師は一人しかおらず──もしかすると書類上はもっといるのかもしれないが、少なくとも指導をしているのは今室内に居る一人しかいないようだ──その教師はこちらの部屋にかかりきりらしい。

 第一音楽室の中を、教師が行ったり来たりしている様子が見て取れた。


 恐らくだが、吹奏楽部は部員数が多いが、教師は一人しかいないため、練習日によって直に指導する部員と指導しない部員を分けており、そのためにこういう光景になっているのだろう。

 教師が直に指導する部員は第一音楽室で練習、放っておいても良い部員は第二音楽室で自由に練習、というわけだ。

 そこまで考えて、僕はようやく顔を第一音楽室の窓から遠ざける。


 そして、その隣。

 目当てである第二音楽室の方に、僕は歩み寄っていった。


 こちらの部屋は、生憎と僕の目では、中を観察できなかった。

 と言うのも、こちらもまた外に面した窓自体はあるのだが、分厚いカーテンがかかっているのである。


 そのせいで、外からは中の様子が伺えない。

 強いて言えば、カーテンと窓ガラスを超えて、小さく演奏音が聞こえてくるため、「ああ、練習しているんだな」と分かるくらいだった。


 ──まあ、そうだよな。()()()()()()()()()()()()()()


 予想通りの光景に、僕は意図せず軽く頷く。

 こうでなくては、先程の「閃き」は成立しない。

 そう言う意味では、僕は推理小説で言うところの証拠を一つ、手に入れたことになる。


 ──となると、次は昨日や一昨日、この辺りがどんな様子だったか知りたいな。このカーテンは、いつから使われていたのか。それを確かめたいんだけど……。


 自然と、僕の思考は次の段階に進んだ。

 しかし、進んだとは簡単に言うが、意外にこれが難しいことに、すぐに気がつく。


 というのも、当たり前の事だが、これを確かめるには、昨日も一昨日もこの部屋を外から観察していた人物を探さなくてはならないのだ。

 そんな人物そうそういないだろうし、居たとしても話を聞けるかどうかは分からない。

 そうなると────。




「あれ……桜井か?」


 困って周囲をキョロキョロとしていると、不意に、背後から声を掛けられた。

 誰だ、と思って即座に振り返る。

 だがすぐに、僕は脱力した声を漏らした。


「何だ、深宮か……部活中?」

「何だとは何だよ。サッカー部なんだから、俺がグラウンドに居るのは普通だろ?」


 微かに不服そうに、いつの間にか僕の背後に立っていた深宮が文句を垂れる。

 彼の言葉通り、その体はサッカー部のユニフォームに包まれていた。


「ああ、ごめんごめん。……というか、昨日もこんなこと言った気がするけど、練習は良いのか?」

「今はちょっと休憩で、この後模擬試合だ。それで水を飲んでブラブラしていたら、お前がいたから……どうしたんだ。こんな時間に」


 僕の姿をしげしげと見つめながら、深宮が不思議そうに言う。

 まだ五時半にもなっていないというのに「こんな時間」と言うのも中々だが、そのくらい、放課後に僕が学校内に留まっているのは奇妙らしい。

 壁野と同様に、最初にそこを聞いてきた。


 ──というか、壁野や深宮の反応からすると、僕の学校での印象って「帰宅部ですぐに帰る奴」なんだな……何かショックだな、これ。


 思わずそんな事実に思い至り、僕はつい足から力が抜けそうになる。

 変なところで、自分のアイデンティティーを知ってしまった。


 ──いやまあ良いんだけどさ……それよりも。


 頭をぶんぶんと振って、僕は気分を切り替える。

 そして、改めて深宮の方を見た。


 考えてみれば、ここで顔見知りと出会えたのは僥倖だった。

 先程思いついた「閃き」について、すぐに確かめることが出来る。

 サッカー部かつ、「こんな時間」にグラウンドの端っこをブラブラしている彼ならば、音楽室の外から見た様子を見ている可能性があるのだ。


「……おーい、どうした、黙りこくって」


 突然変なリアクションを取った僕が奇妙に思えたのか、深宮が僕の眼前で、掌を上下に振るように動かす。

 だが、その流れを無視して、僕は問いを発した。


「……深宮、ちょっと良いか?何も事情を聞かずに──説明するのは面倒くさいから──質問に答えてくれ」

「お、何だ、突然」


 軽く驚いた様子で目を見開きながら、彼は軽く姿勢を正す。

 それを見てから、僕はいよいよその質問をした。


「あそこ、音楽室の窓が見えるよな?」

「ん?……あー、あるな」

「そして位置関係的に、僕たちから見て手前が第一音楽室で、その奥が第二音楽室だよな?……あの第二音楽室の窓、カーテンがかかっていないこと、あったか?」


 突飛な質問に、深宮が目をパチクリと開閉させる。

 しかし、基本的に律儀な奴なので、すぐに問いに答えてくれた。


「いや、見たことないな……と言うかあの部屋って、何かに使っているのか?ずっとカーテンがかかっているから、倉庫か何かかと思っていたんだが」


 ──……よし!


 表にこそ出さなかったが、心の中で僕はガッツポーズをする。

 そうだ、そう言うことになる。

 これで完成、条件は整っていることが分かった────。




「だけど、それがどうしたんだ?お前、昨日も暗い感じで変だったが、今日はまた別の意味で様子が変だぞ?」

「あー、それはそのー……色々あったんだ、うん」


 心配そうにこちらの様子を伺う深宮に、僕は苦笑いで応答する。

 確かに、彼からすると今の僕はいよいよ奇行に走ったように見えているのだろう。


 何せ、失恋して何をすればいいのか分からない、などと愚痴っていた友達が、二十四時間後には音楽室を覗き見しているのだから。

 場合によっては本気で不気味がられる行いである。


 ただ────この時の僕は、そんなことはどうでもよくて。

 自分が、今までやったこともない謎解きと言う行為を、上手い具合に成し遂げたかもしれない、という事実を噛み締め始めていた。

 神代が提示し、僕自身も興味を持ったこの「第一の謎」が、ようやく──といっても一時間も考えていないが──解明された、という軽い興奮と共に。


 ──まあ、僕の推理が正しければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()……そっちはそれこそ、神代に直に聞けばいいんだし。基本的には、これで捜査終了、ということでいいか。


 頭の中でいくらか考えてから、僕は顔を生徒会室の方に向ける。

 申し訳ないが、最早深宮のことは目に入らなかった。

 ただただ僕は、どういう風に神代にこの真相を説明すれば良いかな、と考え始めていたのだ。


「あ、けど僕、神代の連絡先知らない」


 その大分手前で、まず躓いたが。

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