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バウムクーヘンと彼女と謎解きと  作者: 塚山 凍
EpisodeⅣ:そして彼女はいなくなった
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予算と時期の関係

「まあ、話は分かったから、参加するよ……だけど、どこでやるんだ?神代の家か?」


 ふと疑問に思い、僕は場所のことを問いただす。

 明後日ということは、開催日時は金曜日、すなわちレアが帰国する前日である。


 荷造りやらなにやらあるだろうから、そう遠い場所には行けないだろうし、ホームステイ先である神代の家でやるのかな、と推測したのだ。

 しかし、画面上でレアはふるふると首を振った。


『マコトに相談したんですけど、その日は生徒会室が空いているから、そこで開催する、とのことでした』

「生徒会室で?」

『はい。何でも、生徒会室でそう言うことをやると、少しですが予算が出る、と』


 話を聞いて、僕は思わず「なるほど」と唸る。

 同時に、今更のようにして、神代が生徒会の書記であったことを思い出した。


 要するに、こういうことだろう。

 僕たちが神代の家で飲み食いすると、それは個人的に勝手に活動した、というだけの話になってしまう。


 しかし、校内で行ったならば、「交換留学生と最後の親睦を深めた」という形に出来るので、生徒会活動の一環として予算が使えるのだ。

 より具体的に言うならば、そのお別れ会で持ち込まれるであろうお菓子や飲み物に関しては、生徒会が支払ってくれるのである。


「じゃあ、あれか?昨日、そっちのクラスでやったお別れ会も……」

『ちゃんと、予算が出てたらしいですよ?他の学年に編入した留学生のみんなも、そういう感じでお菓子食べたり、ご飯食べたりしたことが結構あったらしいです』


 ちゃっかりしてますよねー、とレアがまた妙に詳しい語彙を披露する。

 ただ、今回に関しては、僕も同意だった。

 物凄く厳しく言えば、これは予算のちょろまかしというか、生徒会の権限乱用な訳で────それを、すぐに国外に行ってしまう留学生たちを利用して、上手い具合に隠しているのは、確かにちゃっかりしている。


「しかし、僕も詳しくは知らないけど、そう言う予算って、自由に使える物なのか?中学校の生徒会予算なんて、大した額じゃないと思うんだけど……」

『んー?マコトによれば、生徒会を次の代に移行する準備をしていると、多少予算が余っていたのが分かった、という話でした。使い切った方が、次の生徒会も楽だとか』

「……あー、そうか。そろそろ、新しい生徒会長が決まる頃か」


 そう言えば、校内にポスターとかが貼ってあったな、と僕は記憶を想起する。

 何分、生徒会選挙というのは、生徒会メンバーである神代のことを除けば、僕とは全く関係の無い存在である。

 生徒会の移行時期など、気にしたことも無かった。


 ──確か、レアが帰ってから、一週間後くらいに選挙をするはず……。


 本来ならもう少し早い時期に選挙をするのが通例らしいが、今年は交換留学のことがあるので、それが終わってから選挙、という流れになっているのである。

 つまり、神代が生徒会書記という立場で居るのは、あと二週間もない、という事だ。

 どうやら彼女がこういう提案をしてきたのは、そのあたりの事情──要するに、引継ぎを面倒くさくしないために、最後の仕事として予算を使い切っておきたい──もあるらしい。


『そう言う事情ですので、エイジ。金曜日に授業が終わったら、生徒会室に来てください。場所、分かります?』

「流石に分かる。というか、僕は何か持って行かなくても良いのか?」

『大丈夫です!お菓子や飲み物は、木曜日の内に私とマコトが買って置いて、生徒会室に運んでおきますから!』


 むん、と力こぶを作るような動作を見せるレアを見ながら、僕はおお、と感じた。

 相変わらず、変に用意が良い。


「じゃあ、そう言うことにするよ……また、金曜日に」

『はい!おやすみなさい、エイジ』


 そこを境に、何となく、会話は終了、という感じの空気になった。

 それに引きずられるようにして僕たちはオンライン通話を打ち切り、パソコンの画面を黒に戻す。


 途端に、僕の部屋は一気に、不気味なほどの静寂に包まれた。

 正確に言えば、普段の静かな状態に戻っただけなのだが、なまじつい先ほどまでレアと会話をしていたため、そういう感覚に陥ってしまう。

 彼女の賑やかさに慣れてしまっているため、部屋の静かさが相対的に奇妙な物に思える、というか。




 しばらく、僕はその静けさを楽しむように────会話の余韻を味わうようにして、その場に留まる。

 そして、ぼんやりとした思索を、理由もなく行ってみた。




 ──そう言えば、神代と話した後に、こういう感じになったことが無いな……。


 何となく、静寂に順応するまでの気晴らしに、そんなことを考える。

 ふと思いつくくらいに、神代とレアでは会話の感じが違うので、こんなことを考えたのだ────いや、それ以前に。

 よくよく考えてみれば、僕は神代と、このソフトで会話すること自体が珍しかった。


「『第三の謎』で、風呂上がりの神代と会話したのが最初で……その後、あったっけ?」


 オンライン通話で彼女たちと会話するのは、「第三の謎」の一件から度々あったことだ。

 神代には生徒会の用事があり、レアは部活動に片っ端から参加していたため、毎日時間が合う訳でも無かったが、それでもある程度遅くになると、息抜きのように会話をしていた。

 しかし、思い返せば、その会話の大半は、僕とレアの間に行われたことだった気もする。


 レアの性格上、積極的に話を回してきたり、そもそもこのソフトを率先して起動してきたりするため、必然的に会話が増えるというのはあるが、それでも。

 神代との会話は、妙に少ない。

 今しがたのレアとの会話の中でも、「宿題をしている」という理由で、終ぞ顔を見せなかった。


「……というかそれ以前に、『四つの謎』絡み以外で、神代と会話したことが無いな、僕。……避けられているのか?」


 終いには、そんなことまで考えついてしまった。

 頭の中に思い出されるのは、先日の「三・五番目の謎」の中で、途中からいきなり口数が少なくなった彼女の姿である。


 そうだ、思い返してみれば、僕と彼女は。

 解かなくてはならない「四つの謎」に関わる話以外では、殆ど話したことがない。

 基本的に「彼女が話しかけてくる=何か謎解きを持ちかけてくる」なので、当然と言えば当然なのだが、こうして振り返ってみると、ちょっと異様な感じもした。


 平たく言えば、彼女と知り合って一ヶ月以上も経つというのに、僕たちは「雑談」と言う物を殆どしたことが無いのである。

 この間のハンバーガー屋の中では、多少はそういうこともした気がするが────あれだって、途中からは謎解きの方に話が移ってしまった。


 そのせいか、未だに僕は、彼女のことを何も知らない。

 例えば、先程彼女が生徒会メンバーであることに触れたが、何故彼女が生徒会役員に立候補したのかという基本的な情報さえ、聞いたことが無かった。


 そうやって話を聞かないまま進んでいるために、彼女の目的は未だに謎めいている。

 何故、彼女たちが僕の家を知っていたのか、という先日の疑問さえも、結局は棚上げされたままだ。


 ──まあ、最悪直に聞けばいいだけの話なんだけど……。


 つい、身も蓋もないことを考える。

 まあ、今すぐには、実行する予定は無いのだが。


 個人的には、その方法は、あんまりやりたくない方法なのである。

 特に、今の時期は。


 ──この辺りの話がこじれると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……タイミングは、選ばないと。


 お別れ会を開くことからわかるように、今はレアがこの地域での暮らしを楽しむ、最後の時期である。

 彼女としても、目一杯この国を楽しんでから、フランスに帰りたいだろう。


 これはあくまで僕と神代にまつわる個人的な事情なので、彼女を巻き込みたくは無かった。

 いくら何でも、日本を去る直前に見る光景が、僕たちが不穏な雰囲気で語り合う事情説明合戦、というのも可哀想だろう。


 つまり────。


「……まあ、神代にどういう思惑があるにしても、全てはレアがフランスに戻ってから、だな。彼女が帰るまでは、この疑問には蓋をしておこう」


 最後にそう呟いて、僕は今度こそパソコンの電源を切る。

 そして、ようやっと寝る準備をし始めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミステリアスですね~ [一言] そういえば52話まで周辺情報が一切ない…
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