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バウムクーヘンと彼女と謎解きと  作者: 塚山 凍
EpisodeⅢ:五円玉二十枚の謎
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謎と時系列の関係

『……推理小説の展開で、犯人がよく行ってしまうミスに、こんなものがあります。今回、マコトはそれをしてしまっている、と思います』


 最初、レアは一見関係なさそうなところから推理を解説し始めた。

 昼の時もそうだが、こうやってフィクション上の推理でよくあることをなぞるのが、彼女にとって一番合うやり方らしい。

 そう察した僕は、正直まどろっこしい、と思いながらもとりあえずそのまま問い返した。


「それは、どんなミスだ?」

『アレですよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、というミスです!ほら、警察がその情報を知らせる前に、全てを知っている犯人が早とちりして、何か言ってしまうような……』


 そう言われて、ああ、と納得する。

 かなり昔とはいえ、推理小説を結構読んでいた──先述したが、百合姉さんの勧めである──のが役に立った。

 言われてみれば、今まで読んできたそれらの作品の中でも、思い浮かぶシーンがあるのだ。


「アレか?まだ、どういう手段で被害者が死んだかもわかっていない時に、犯人がつい『どうしてあの人は()()なんてされたんだ……』とか呟いて、それで彼が殺したことがバレる、みたいな」

『そう、それです!その時点で知るはずの無いことを知っている、というのは、それだけでとても怪しい、でしょう?』


 まあ確かに、と僕は頷いた。

 推理物の中でも、特に探偵の推理の終盤に使われるような手口だ。


 何なら大抵の場合、犯人側が「何故俺だと分かった……?」みたいな事を言い、探偵が「あの時、貴方はこれこれと言っていた。どうして犯人以外の人物が、被害者の死因を知っているんです?」と答え、犯人はがっくりと肩を落とす、なんて言う流れもついてくる印象がある。

 一種の、テンプレ的手法と言えるだろう。

 そして、そのテンプレをここでレアが持ち出した、ということは。


「つまり……これまでの『四つの謎』の中で、神代が変なことを口走ってしまっている、ということになるのか?本来なら、知らないはずのことを」

『はい!だって、そうじゃないと、話がおかしくなるんです』


 画面の中で、レアが物凄い勢いで頷く。

 そして、指をピン、と立てると、画面を貫くようにしてこちらに向けた。


『……もう一度確認します、エイジ。マコトは確かに、エイジが告白をした段階で、四つの謎を解いて欲しい、と言っていたんですね?』

「ああ、奇妙な言葉だったから、はっきり覚えている」

『そして、どういう謎をどんな順番で持ち掛けて来るかは、マコトの方が決めている、ということですよね?』

「まあ、そうだな。少なくとも、僕の方から謎解きを頼んだようなことは無いよ」


 そう返答した僕の顔を真っすぐに見つめてから、レアはすう、と軽く溜めた。

 そして、今までより力の籠った感じで、こう問いかける。


『その上で、もう一度聞きます。今回の謎……つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

「何時って……今日、コンビニの叔母さんに聞いたんだから、今日に決まってるんじゃ……」


 最初に、そう言ってしまってから。

 ようやく、僕の頭の中にも、「ん?」という感覚が芽生えた。


 ──待て。今日初めて知ったんだよな……だったら……。


 違う。

 これは、おかしい。

 神代の話通りだとすると、時系列に矛盾がある。


 PCカメラが拾った僕の表情で、その疑念を察したのだろう。

 画面の中で、レアは満を持した様子で、決定的な問いかけをした。




『そうです、エイジ。マコトの言っていることは、おかしい。何故彼女は、告白された時点で、四つの謎がこれから起こる、と知っていたんですか?告白された時には、まだ発生もしていない謎だって存在するのに』




 ──そうだ、確かにおかしい。だって、「第三の謎」は昨日起こったばかりなのに……。


 今の今まで、「第三の謎」の方にかかりきりだったために気が付けなかった。

 神代の発言、というか、今回の一件が彼女の言う「四つの謎」の一つに組み込まれている、という現状のおかしさに。

 本来なら、今回の「五円玉二十枚の謎」は「四つの謎」には入ってこないはずなのだから。


 ……再三確認されたことだが、今回の一件は、つい昨日になって初めて発生した話だ。

 何せ、レアの留学生仲間たちが、昨日光琳神社を訪れたことで起きた事件なのである。


 だからこそ、神代も今日になって叔母さんに教えられる形で、初めてこのことを知ったのだ。

 留学生たちの予定が決まっている以上、その点は変わらない。

 要するに、神代は今日になるまで、あの謎のことを知ることが出来ない。


 しかし、神代はこれを「第三の謎」とした。

 そこが、おかしいのである。


「……普通に考えたら、告白した段階で全部で四つ、と明言しているんだから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということになるよな?そうじゃないと、わざわざ四つ、と断言しないだろうし」

『そうです!つまり、マコトは告白された時点で、第三の謎にはこれ、と決めていた物があるはずなんです。実際、第一の謎は、そんな感じだった、ですよね?』


 レアにそう問われて、僕はしっかりと頷く。

 講演中に抜け出すことになった「第二の謎」の方はともかく、告白直後に音楽室に連れていかれた「第一の謎」の方は、その流れで間違いないだろう。

 僕を連れて行く様子も迷いが無かったし、恐らく神代は告白された瞬間から──もしくは、待ち合わせ場所の教室に向かう前から──最初の謎としてアレを解いてもらおう、と決めていたはずなのだ。


 まあ、「第一の謎」の件で最後にはぐらかされたように、あの謎は神代が既に解いていた節があるので、詳しい動機は不明だが。

 それでも少なくとも、予め僕にどういうことを頼むかは、決めていたとみて間違いない。


 そうでなければ、あのようにスムーズに依頼など出来ないのだから。

 ……そして、その前提で考えるからこそ、今回の一件がおかしくなるのだ。


「今回、『第三の謎』として五円玉の一件を解いた。それで神代も満足そうだったが……そうなると、本来解かせるはずだった、前々から決めていた『本来の第三の謎』は、一体どうなったんだ?」

『はい、そこが、不思議になります。マコト、そちらは忘れてしまったのでしょうか?』


 ──忘れて、か。


 言われた瞬間、そんな感じじゃなかったな、と思う。

 今までの交流からすると、神代の記憶力はそう悪いものではない。

 そんな、持ちかける謎を丸ごと忘れる、というのは想像できなかった。


 しかし、それでも、このままでは話がおかしいのも事実。

 この辺りの疑問に、合理的な説明をつけるなら────。


「神代は本来、僕に解かせたい『第三の謎』があった。だけど、今日になって五円玉の謎に遭遇したことで、そちらの真相の方が気になった。だから、急遽内容を変更して、五円玉に関する話の方を『第三の謎』ということにして、僕に謎解きを頼んだ、ということか?」


 現状考えられる、一番妥当な仮説を挙げてみる。

 しかし、自分でも言いながら、これは違うな、と思った。

 実際、話を聞いたレアはすぐに疑問を呈する。


『その場合、四つの謎とは関係ないけれど、今聞いた話が不思議だったから、解いてくれないか、と言う風に頼むんじゃないですか?別に、マコトがエイジに対して、四つの謎以外の頼み事をしてはいけない、ということは無い、でしょう?』

「ああ、そんなことは無い」


 事実、僕は今日、神代の頼みに応じてレアの街案内に付き合っている。

 つまり、神代も別に「四つの謎」に関わることでは無かろうが、頼み事くらいはしてくる、ということだ。

 わざわざ「本来の第三の謎」を後回しにせずとも、新たな頼み事として依頼すればいいのである。


 しかし、現実には神代はその場で「第三の謎」の枠を用意してまで頼んできた。

 それも、レアへの街案内を中断してまで、である。


 何というか、今振り返ってみると、これは実に性急な対応な気がした。

 焦っている、と言ってもいい。

 ということは────。


『エイジ……私が思うに、実はマコトは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?そして、偶々その第三の謎に相応しそうな事件に遭遇したから、慌ててそれを四つの謎の一つということにして、謎解きを依頼したのではないでしょうか?』


 僕より少し先に、レアが推理を述べた。

 僕が先ほど述べた仮説より、余程妥当な推論を。


 そうだ、その理屈が多分、一番正しい。

 神代が最初から四つの謎について考えていた、と仮定することで話がおかしくなるのなら、逆に考えてしまえばいいのだから。


 神代は恐らく──既に発生していた「第一の謎」を除けば──告白時点では、四つの謎について全く考えてなくて。

 日常の中で、偶然出会った謎を四つの謎ということにしているのだ、と。


 ──しかしそうなると、今度は「四つ」と断言したことが不思議になるな。「これから私に不思議なことが起こったら、それを逐一解いてください」でいいだろうに……何故彼女は、ああやって断言したんだ?


 そこまで考えたところで、また新たな疑問が、僕の中に湧いた。

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