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バウムクーヘンと彼女と謎解きと  作者: 塚山 凍
EpisodeⅡ:なぜ、神代に頼まなかったのか?
15/94

疑念と過保護の関係

〈神代真琴の証言〉


 私、同じクラスに、涼森舞っていう女友達がいるの。

 小学校の頃からの友達で、私の自惚れで無ければ、結構仲が良い友達であるはず。

 今回の謎は、その友達に関する話。


 ────でも話を聞く前に、一つ約束をして欲しいことがあるの。

 謎解きをお願いしている立場で、さらに約束を求めるなんて、中々図々しい話だけど。


 だけど、お願い。

 この約束をしてから、話を聞いてほしい。

 ここで聞いた話を、絶対に誰にも言わないって、約束して。


 そのくらい、今回の話はデリケートだから。

 前回の吹奏楽部の一件も、結果から言えば、あまり他言出来ないような話だったけど、今回はその比じゃない。


 だから……絶対に、言わないで欲しい。

 他の人に聞かれないためにも、こうやって他の生徒が体育館に集まった瞬間を狙って、貴方を呼び出したくらいなんだから。


 ……良いのね、大丈夫?

 分かった、ありがとう。


 じゃあ、私が友達に抱いている疑念と謎について、詳しく話すわ。

 少し長くなるけど、聞いてほしい。


 端的に言うと、今回の謎は、理由探しになると思う。

 というのも、私の友達である、涼森舞が────ここのところ、()()()()()()()()()使()()()()()()()()()

 要するに、お小遣いが変に増えているのよね。


 桜井君には、この理由を解き明かしてほしい。

 勿論、ただ単に、私の気にし過ぎなのかもしれないけど……。




 私がこの疑念を抱いたのが、いつからか?

 そうね、確かに、そこから始めましょうか。

 私も、話しながら頭をまとめたいし。


 確か、最初に私が不思議に思ったのは、夏休み前くらいだったと思う。

 その時期から、舞にはある変化が起こっていた。

 まあ、変化と言うと、大袈裟な表現になってしまうけど。


 簡単に言うと、突然、舞があまり一緒に遊んでくれなくなったの。

 付き合いが悪くなった、というか。

 それが、最初に「あれ?」と思ったことだった。


 ちょっと、呆れた顔をしないでよ。

 私たち、そのくらいよく遊んでいたのだから。


 普段学校がある日こそ、放課後は一緒に居られなかったけど──彼女は部活が、私は生徒会があったから──長期休みには、それこそ週二、三回くらいは会っていたわ。


 三日も会っていないと、寂しくなるくらい。

 それ程、よく遊んでいた友達だった。


 だけど、今年の夏休みに限って。

 突然、舞が「一緒に遊べない」と言い出したの。


 以前は向こうから遊びに誘ってきたくらいなのに、めっきりそう言うことが無くなってしまって。

 こちらから誘っても、「その日は予定が……」とゴニョゴニョ言うことが増えた。


 しかも、その予定というのも、詳細が不確かな事が多くてね。

 例えば、「その日はお父さんの実家に行く用事があるから、行けない」と彼女が言ったことがあるのだけど。

 その時私が、「そうなんだ。因みに、舞のお父さんってどこの出身なの?」と聞くと、それだけで黙っちゃって。


 桜井君、何かを察した顔をしているけど……そうね。

 この際ハッキリ言ってしまえば、舞は嘘をついていたんだと思う。


 何か、どうしても私と遊ぶことが出来なくて、適当な理由をつけていたのでしょうね。

 そんなことをする必要があったのかは、まるで分からなかったけれど。


 まあ、何にせよ、これが最初のきっかけ。

 要するに、今までは頻繁に遊んでいた友達が、何故か付き合いが悪くなって、嘘の理由で遊ぶことを断るようになった、と言う話。


 ただ、私は、この時点ではそこまで不思議には思っていなかったの。

 だってこの時点では、そう言うことをする理由は、色々考えられるもの。


 例えば、成績が落ちて夏休み中は塾に行かされているけど、恥ずかしくて言えないとか。

 誰か、好きな人でも出来て、そっちに夢中で私を相手していられないとか。

 二番目の例なんて、如何にも中学二年生の夏にありそうな話だとは思わない?


 だから、この時点では私も、少し変に思っただけで、疑念というほどの思いは無かった。

 実際、夏休みに遊ぶこと自体はほぼ無かったけど、それ以外は普通に過ごしたくらいだもの。


 だけど、その夏休みが明けた後。

 もう少し、変なことが起きた。

 そしてこちらが、謎の本題になるわ。


 ……夏休みが明けて、また学校が始まった頃。

 かなり久しぶりに、二人で遊んだことがあったの。


 ええ、その時は、舞の方から誘ってきたわ。

 久々に、一緒に買い物でも行かないかって。


 私としては、断る理由もないし、久しぶりに誘ってもらえたことが嬉しかったから、喜んで買い物に向かったのだけどね。

 その買い物が、少し、変だった。


 話の最初にも言ったことなのだけど……何というか、舞のお小遣いが、妙に増えているのよ。

 色んな品物を、躊躇無く買っているというか。

 少なくとも、普通の中学生としては使い過ぎな程、よく買っていた。


 具体的には?……ええと、ちょっと待って、思い出すから。

 確か……まず最初に、本屋で二十冊以上の本を買っていたわね。


 元々、舞は凄く少女漫画が好きな子だから、一緒に本屋に出向くのはよくあることで、そこで本を買うことも、珍しくは無いのだけど。

 それにしても、飛び抜けて多くの本を買っていたわ。

 持ち運べないから、郵送サービスを利用していたくらいに。


 ええ、そうね。

 大人買いをしていた、という表現が的確かしら。

 まだ中学生の私たちが、「大人」買いをするというのも、変な気分になるけど。


 そして次に、服を見に行ったと思う。

 そこでも舞は、上下揃って、結構な値段の物を買っていたわね。


 普段なら、ただ見るだけで終わることが多いのに。

 その日に限って、マネキンを見て、試着した次には、「これください」と言っていた。


 さらにその後には、小物屋に寄ったのだけど、そちらでもいくつか買っていたんじゃないかしら。

 総額で言えば、あの日だけでも、三万円近くは使っていたわ。


 そう、三万円。

 大人にとっては普通の金額なのかもしれないけど、私たちくらいの中学生にとっては、大きな金額でしょう?

 よっぽどお金持ちの子どもとかじゃ無いと、一気にそのくらいの金額を貰うなんてこと無いでしょうし……。


 だから私、その買い物の時には、本当にビックリしちゃって。

 何度も何度も、「大丈夫?」と聞いていた記憶があるわ。

 尤もこの時も、理由は適当に濁されてしまったけど。


 そして……このお小遣いの多さは、この日だけには留まらなかった。

 それからも二、三回、一緒に遊びに行ったことがあるのだけどね。


 その時も、彼女は同じくらいの金額を使ったの。

 不気味なくらい、多くの買い物を。


 いよいよ、変でしょう?

 それまで、お金を使うにしても、ごく常識的な金額しか使わない子だったのに、何故か突然、大金を持つようになっているのだもの。


 私、何度も何度も、その理由を聞いて……。

 だけど、教えてもらえなかった。

 舞はちょっと笑って、話を誤魔化すだけだったから。


 だから私、一人で考えることにした。

 何故、彼女がそのくらいのお金を、突然持つようになったのか。

 その理由が、どうしても気になってしまって。


 だけど、どれほど考えても、その理由は分からなかった。

 というより、そもそも、中学生がそのくらいのお金を手に入れる方法って、あまり無いのよね。


 これが高校生くらいなら、夏休み中にバイトをして稼いだ、という可能性もある。

 だけど、中学生を雇うようなお店、そう無いでしょう?

 少なくともこの辺りでは、どこもバイトを始めるのは高校生以上だし。


 強いて言うなら、舞の家は文房具店をしているから、そちらを手伝ってバイト代を貰うなり、お小遣いを上げてもらうなりしたのかもしれないけど……。

 それにしたって、娘にそう大金を渡さないだろうし。


 ……ああ、ごめんなさい、言い忘れてた。

 そうよ、舞の家は、学校前にある文房具店。

 あの、結構大きなところね。


 まあただ、大きいと言っても──失礼な言い方をするけど──凄く儲かっている、大金持ち、と言う感じでは無いわ。

 実際、さっきも言ったように、今年の夏休みまでは、舞のお小遣いはごく常識的な額だったもの。

 ごくごく、一般的なお店というか。


 だから、舞のお小遣いの量が何もせずに突然増えたと言うのは、それだけで解せない。

 そもそも、夏休み中に何度か、文房具を買うためにそのお店に行ったこともあるのだけど、舞が働いている様子は無かった。


 ……親戚からお小遣いを貰った?

 そうね、夏休みなのだから、その可能性はあるわ。


 だけどそれにしては、金額が大きいような……。

 私に出所を隠す理由も、よく分からなくなるし。


 なんにせよ私には、中学生のお小遣いが突然、何万円も増えている理由は分からなかった。

 だから、というわけでも無いのだけど。


 ……もしかして、少し悪いことをしているのでは、という思考が頭に浮かんだわ。

 勿論この時点では、ただの邪推だったのだけど。

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