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鴨のくちばし亭事件

作者: takamitsu hamada

フォルティア大陸。

多くの種族が住む大陸には、大国・小国、街や村など数多くある。

フォルティア大陸の東にあるマロムの街。

この街には、「鴨のくちばし亭」という宿屋がある。3人の冒険者たちがその宿屋に立ち寄った。

パーティーは、人間の女性とエルフの女性とドワーフの男性で構成されていた。人間の女性は、肩にかかるほどの長さの黒色の髪、皮で出来た鎧と腰にショートソードを下げていた。エルフの女性は小柄で金色の長髪で、若草色のチュニックに皮の胸当てという出で立ち。腰のベルトには、レイピアを装備している。

ドワーフの男性は、酒樽のような容姿で大きな斧を背中に背負っている。バイキングのような兜と鉄の鎧で重装備だった。


「エルミア、やっと宿に着きましたね。」

人間の女性がエルフの女性に話す。

「ふう、長旅で疲れましたわ。」

エルミアと呼ばれたエルフの女性が答える。

「宿を確保して、荷物を置いて酒場で飲みたいのぉ。」

ドワーフの男が言う。

3人は、鴨のくちばし亭のドアを開けて中に入った。3人が中に入ると、カウンターに1人の男性がいた。この宿屋の主人のようだ。


「すみません!女2人と男1人ですが、部屋空いてますか?」

と、人間の女性が宿屋の主人に尋ねる。

「ええ、空いてますよ。2階の奥の部屋ですが、よろしいですか?」

「じゃあ、それでお願いします。」

「料金は、3人で銅貨3枚になります。」

人間の女性は、懐からお金が入った袋を取り出し、銅貨3枚を宿屋の主人に支払った。

宿屋の主人は、3人を2階の奥の部屋に案内した。

宿屋の2階には6部屋あり、階段に近い部屋は先客がいるのか、気配がした。

パーテイーは、宿屋の主人に奥の2部屋に案内してもらった。

「じゃあ、わしはこの部屋を使わせてもらうぞ。」

ドワーフの男は、奥から2つ目の部屋に入っていった。

女性たちは、一番奥の部屋に入った。

「クレハ、荷物を置いて、ガルと一緒に酒場の方へ行きましょうか?」

エルフのエルミアは、クレハと呼ぶ人間の女に話す。

「そうですね。」

クレハとエルミアは、貴重品や武器などの必要最低限の物だけを身につけて、大きな荷物は宿の部屋に置いておく事にした。彼女たちが部屋を出ると、彼女達にガルと呼ばれているドワーフの男が丁度部屋から出てきたので、一緒に酒場へと向かった。


マロムの街は、それなりに発達した街だが、各国の主要都市と比べると小さな街である。

クレハとエルミアとガルの一行は、「鴨のくちばし亭」から北東方面800mほどにある酒場「熊の爪亭」へとやってきた。

クレハたちが、酒場に入るとなかなか繁盛していた。既に酔っ払って、呂律が回っていない人もいたり、仲間同士で大きな声で話していたりと騒がしい。

クレハたちは、空いている席に座って、それぞれ酒とつまみを頼んだ。

しばらくすると、3つのジョッキとつまみが店員によって運ばれてきた。ジョッキには小麦色の酒が入っている。

ガルは、ジョッキを持つと一気に喉に流し込む。さすがにアルコールに強いドワーフ族だけあって、直ぐに中身が無くなった。ガルは既におかわりを頼んでいた。

クレハとエルミアは、ジョッキに口をつけながら、ガルを呆れた目で見ていた。


酒とつまみを味わいながら、クレハたちは旅の話で盛り上がった。そろそろ宿の方へ戻ろうと思ったクレハは、飯代を支払ってエルミアとガルと共に酒場を後にした。

クレハたちが、宿屋「鴨のくちばし亭」に戻ってくると、宿屋の前に人だかりが出来ていた。

ガルは、人だかりの一人に問いかける。

「どうしたんじゃ?」

「ん?何でも、宿屋の客が殺されたらしいんだ。」

「なんじゃと?」

ガルは人だかりを押しのけて、宿屋の方を見た。

2人の衛兵が宿屋の主人に事情を聞いているようだった。

ガルは少し様子を見て、クレハたちの方へ戻った。

「ガル、どうしたの?」

クレハは、ガルに尋ねる。

「どうやら、宿屋で人が殺されたらしい。わしら以外にも客がいたんじゃな。」

と、ガルは話す。

「ええぇ、今夜泊まる所どうしますの?」

エルミアは少し眉をしかめてぼやく。

「少し騒ぎが収まるのを待ちましょう。」

クレハは、エルミアとガルにそう言った。


衛兵が宿屋の主人から事情を聞き、衛兵たちは宿屋に入って、殺害された者の部屋を調べているようだった。しばらくして、衛兵たちが出てきた。

「この宿屋に泊まっている者はいるかぁあ!」

衛兵の一人が大きな声で問いかける。

「わたしたち行った方が良いのかな?」

「変に逃げると疑われるしのぉ。」

クレハたちは、衛兵たちがいる方に向かった。

「すみません、私たちもこの宿に泊まっています。」

「少し事情が聞きたいのだが良いか?」

衛兵の一人がクレハに話しかける。

「はい。」

「この宿屋で男が殺されているのが発見されたのだが、知り合いか?」

「いいえ。」

「この数時間にどこにいた?」

「ええっと、向こうにある酒場で3人で飲んでいました。」

「この街には何をしに来た?」

「わたしたち冒険者でして、ここから北のガラバディオ王国へ向かう予定で、今日この街に来たばかりです。」

クレハは、衛兵に様々な事を聞かれ、やましい事も無いので正直に話した。

ギルドに所属していたので、そのギルドカードも提示して身元を確認してもらった。

衛兵たちはクレハたちに、もう少し事情を聞く事もあるので、しばらくこの街に滞在しているようにと言った。


クレハと衛兵が話していると、複数人の街の男たちが、殺されたと思われる男の遺体を運び出していた。

その時に、何かが男のズボンのポケットからこぼれ落ちた。それは、宝石のような物が付いているネックレスだった。衛兵や遺体を運び出している男たちは、そのネックレスに気づかなかったようだ。衛兵との話が終わったクレハは、落ちていたネックレスを拾った。


「・・・?」


衛兵たちが立ち去ると、人だかりは次第に消えていく。

クレハは、宿屋の主人に話をする。

「大変でしたね。」

「すみません、折角お泊りに利用していただいているのに、こんな事になって・・・。」

「亡くなった方はどなたなのですか?」

「一週間ほど前からお泊りになられているお客様で、あまり話をしなかったので、どういう人かは分からないんです。

・・・ところで、お宿はどうされますか?この街にはうちしか宿屋が無いものですから。こんな事が起こりましたが、サービスをしますので、引き続き利用していただくとありがたいです。」

他に宿屋が無いそうなので、この宿に泊まるしか無いようだ。

「じゃあ、衛兵の方にしばらく街に滞在するように言われているので、それまで使わせてもらえますか?」

と、クレハは宿屋の主人に話した。

「ええ、喜んで!お代はお安くしておきますので。」


殺された男の部屋は、ドアが閉められていた。

クレハたちは、2階の奥の方にある自分たちの部屋に向かう。

「ガル、ちょっと話があるからわたしたちの部屋に来てくれる?」

と、クレハはガルに言った。


「・・・物取りかしら?」

エルミアは、部屋に残していた荷物の中身を確認していた。しかし、何も盗まれている様子は無い。

「殺されたのは、一体どこの誰なのでしょう。あっ、そう言えば・・・」

クレハは、エルミアとガルに話しながら、さっき亡くなった男のポケットから落ちたネックレスを取り出した。青い宝石がついていた。

「なんじゃ、それは?」

と、ガルはクレハに聞く。

「さっきの亡くなった男のズボンのポケットからこぼれ落ちたみたい。」

「衛兵に渡した方が良いんじゃない?」

と、エルミアはクレハに言う。

「そうなんだけど・・・。」

クレハは、ネックレスの青い宝石をかざしながら呟く。

すると、宝石に何か情景が映し出された。

「え、なに?」

クレハは、エルミアとガルに不安そうに言う。

「この宝石は、魔法によって、起こった事を記録するようじゃの。

ん?

この宿屋の部屋のようじゃが・・・。」

宝石に映し出された情景は、この宿屋の部屋のようだった。その部屋には、男が一人いる。宿屋の宿泊客と思われる。

「あっ!」

クレハたちは宝石が映し出す映像を見て驚愕した。何者かが宿泊客の元を訪れ、そして、何か刃物のような物で滅多刺しにしたからだ。宿泊客を襲った者は、ローブを羽織り、ローブのフードをすっぽりと被っていた為、男か女か分からなかった。

「刺された男性が、さっきの事件の被害者かもしれませんね。そして、このローブを着た物が犯人でしょう。」

と、エルミアは言う。

「どうしますか?

この事件が終わらないと、しばらくこの街に足止めされてしまう事になります。

そこで、この事件を私たちで解決しませんか?」

映像を観終わったクレハがエルミアとガルに問う。

「そうね・・・。犯人を見つけて、衛兵に突き出せば、足止めは確かに解除されるでしょう。ならば、わたしたちで犯人を探しましょう。」

クレハの問いにエルミアは答える。


クレハたちは、宿屋の主人に事情を話し、事件があった部屋を見せてもらう事にした。

部屋に入ると、ここがネックレスの宝石に映し出された現場である事が分かった。被害者の遺体は、既に衛兵と街の住人によって片付けられている。掃除はしたようだが、まだ血の跡が薄っすらと残っていた。

血の跡の状況から、被害者は複数箇所を刺された事が伺われた。

クレハは、部屋をぐるりと歩いてみると、男の荷物らしき袋が残されているのに気づいた。その荷物を持ち上げて、ベッドの上に置くと、中を取り出してみた。

袋の中に入っていた物は、被害男性の衣服とお金、ナイフと身分を証明するギルドカードだった。男性が何者かという事は、ギルドカードで分かった。


被害男性の名はケニー。

職業は冒険者で、剣術が主なスキルだった。フォルティア大陸の最南端に近い村「クラック村」の出身で、年齢は42歳、種族は人間である。

宿屋に1人で泊まっていた事から、パーティーは組んでいないようだ。


「素性が少し分かりましたわね。」

と、エルミアは言う。

「しかし、この人の交友関係が分かりませんね。怨恨の線は薄いのでしょうか?」

と、クレハはエルミアとガルに尋ねる。

「じゃが、交友関係が分からないという事だけで、怨恨の線は薄いとは言えんぞ。」

と、ガルは答える。

ギルドカードでケニーの事はある程度分かったが、荷物には犯人に繋がりそうな物は他に無かった。そこで、ナイフについても調べてみる事にした。

ケニーが所持していたと思われるナイフは、ガルの鑑定スキルによって魔法が付加されている事が分かった。呪いはかかっておらず、重さを軽減し、切れ味も通常より上がる魔法が施されている。このナイフも今回の事件とは関係無いだろうとクレハたちは考えた。

ケニーが殺害された時に使われていた凶器でも無い。映像に映し出された武器は、もっと大きなサイズだったからだ。

クレハたちは、ケニーの交友関係を調べる為に、この街のギルド支所を訪れる事にした。


宿屋「鴨のくちばし亭」から街の中央部へ向かうと、ギルド支所がある。ここに冒険者たちが集まり、仕事の斡旋を受ける事が出来るようになっている。ギルドで仕事の斡旋を受けるには、ギルド会員になる必要があり、登録をすると、身分証明書としてギルドカードを貰える。これには、名前・年齢・出身地・スキルが記載されるので、どのような者であるのかが一目瞭然だった。

クレハたちは、ギルド支所に着くと、ギルドの受け付けに行き、ケニーと交友関係がある者について尋ねた。対応してくれたのは、ボブヘアの茶髪の20歳ぐらいの人間の女性だった。彼女は、このギルド支所のスタッフで、名前をミナと言った。

「ケニーは、あまり固定のパーティーに入ろうとしていませんでしたね。

必要に応じて、臨時的にパーティーに加わって仕事をしているようでした。特に他の冒険者とトラブルを起こすような事も無かったです。」

と、ミナはケニーの事について教えてくれた。

「ただ、一週間前に、ここから西に半日ぐらい歩いた所にある村の依頼を受けて帰ってきた時に、ケニーの顔が青ざめていました。わたしがケニーに何かあったのか尋ねたところ、ケニーはとんでもない事をしてしまったと言っていました。詳しい事までは聞けませんでしたが。」

「すみません、その村の名を教えてくれませんか?」

クレハは、ミナからケニーが仕事で訪れたという村の名前を聞いた。その村の名前は、グルル村。そのグルル村で、ケニーは何かをやらかしたらしい。

「ミナさん、ありがとうございました。」

クレハたちは、ギルド支所を後にした。


クレハたちは、マロムの街から西へ半日歩いた所にあるグルル村へ向かった。

途中、トレントやウルフなどといったモンスターに遭遇したが、難なくそれらを倒してグルル村に到着した。

村は静まり返っていた。人がいる気配が無い。しかし、村は何者かに襲撃されたのか、荒らされている状態だった。

クレハたちは、それぞれの武器を抜きながら慎重にグルル村の様子を伺う。シーンと静まり返っているのが不気味に感じられた。立ち並ぶ家を一軒ずつ確認していく。

村人たちの遺体があった。頭が陥没して血を流している者、剣で斬りつけられて背中がばっくりと割れている者、お腹を滅多刺しにされて絶命した者というように、無残だった。

「なんじゃ、この有様は・・・。」

「酷過ぎますわ・・・。」

ガルとエルミアは、あまりの惨状に顔をしかめていた。村を一通り調べたが、この惨状に至った原因が分からなかった。しかし、クレハたちが来た道とは反対側にも村の入り口があった。山の方へと続いているようだった。

クレハたちは、グルル村から村の裏手側にある山を調べてみる事にした。至って普通の山のようだが、しばらく歩くと洞窟らしきものが見えてきた。


「この洞窟はなんじゃろ?」

と、ガルは洞窟の周りを見渡す。

「どうしますの、中に入りますか?」

と、エルミアはクレハに尋ねた。

「・・・調べてみましょう。ケニーさんの事件やグルル村の事件の事で何か分かるかもしれません。」


洞窟を進んでいくと、意外と広い事が分かった。剣を振っても壁や天井に当たるといった事も無く、何かモンスターに遭遇しても戦えるだけの広さはある。クレハたちは、さらに洞窟の奥に進んでいく。

しばらく歩くと、今までとは明らかに違う広さを持った場所に出てきた。その場所には、祭壇があった。但し、祭壇の周りは最近崩れたような跡があった。

この祭壇は、何か祀られていたのだろうか?

ガルが祭壇に近づき、調べる。祭壇には文字が書かれていた。古代ルーン文字のようだったので、ガルはエルミアに読んでもらう事にした。エルフであるエルミアは、古代ルーン文字を読む事が出来た。


『ここに封印しているものは、村に災いをもたらす。村を救いし勇者がこれを封じた。』


祭壇の状態からすると、ここから何か良からぬ者が解き放たれたようだ。その結果、村人たちは、それに殺されてしまったのだろう。しかし、ここに封印されていた者とケニーはどのような関係があるのだろうか?


クレハたちは、祭壇がある場所を細かく調べたが、古代ルーン文字で書かれていた以上の事は発見する事が出来なかった。彼女らは、マルムの街へ戻る事にした。


マルムの街に戻ると、深夜になっていた。衛兵の一人がクレハたちに話しかけてきた。

「お前たち、どこへ行っていた?街の中で留まるように言っておいたはずだが?」

「すみません、どうしても外せない用事があったので、直ぐに戻れるから大丈夫かと思いまして・・・。」

クレハは、申し訳無さそうな笑みを浮かべながら、衛兵に言い訳をした。

「勝手に街から出てもらっては困る。事件は解決していないのだから。」

衛兵は、クレハたちを叱責した。

「・・・すみません、気をつけます。」

彼女たちは、マロムの街に入って、「鴨のくちばし亭」へと向かった。衛兵は、冷ややかな目でその姿を見ていた。


クレハたちは、宿屋「鴨のくちばし亭」に戻る前に、酒場「熊の爪亭」で食事をする事にした。酒と肉とサラダを注文して、彼女たちは席についた。注文した物が来たので、まずは酒を一口ぐいっと飲んで一息ついた。

そして、今までの事件の流れについて整理する事にした。

「宿屋で殺されたケニーは、ギルドの依頼を受けてグルル村へと向かった。しかし、ケニーはグルル村で何かを呼び起こしてしまった。その結果、村は全滅、辛うじてマロムの街へ逃げ延びたケニーも結局何者かに殺された。」

「グルル村の裏手の山にあった洞窟の奥に祭壇があった。かつて、村人たちに災いをもたらした者が封印されておったんじゃろ。」

「結局、何も分かりませんでしたね。」

しばらく沈黙しながら、それぞれ酒を飲んでいた。


「しかし、一体何が祭壇に封印されていたのでしょう。」

と、クレハは2人に聞いた。

「祭壇は結界を張っているようだったので、霊的なモンスターを封印していたのでしょう。」

エルミアは、サラダを小皿に取って食べながら答えた。

「そうなると、そのモンスターを見つけ出すのは、厄介ですね。」

「じゃが、それを倒さないと事件が解決しなさそうじゃのぉ。」

ガルは、ジョッキに注がれた酒を飲むペースが上がってきていたのか、次々と注文していた。

周りは、人間やドワーフやエルフだけでなく、ホビットや魔族のような者もいる。今日もガヤガヤと騒がしかった。

「クレハ、これからどうしますの?」

「明日、もう一度ギルド支所に行って、ケニーが受けた仕事内容を確認してみましょう。」

注文していた肉料理も来たので、3人はそれを食べる事にした。


酒場「熊の爪亭」から宿屋「鴨のくちばし亭」に着く。クレハとエルミアは部屋に入り、ガルも部屋に入って今日の疲れを癒やす為に眠った。


ガチャガチャガチャ


その者は、クレハとエルミアが休んでいる部屋のドアを開けようとしていたが、鍵が掛かっていた。ローブを着ており、フードをすっぽりと被っている。ローブを着た者は、呪文を唱える。再び、ドアを押すとキィという音を鳴らしながら開いた。

ローブを着た者は、部屋に入ると手に持つショートソードで、部屋の手前側で寝るエルミアに襲いかかった。


カキーン


ローブを着る者のショートソードが何かで受け止められていた。クレハが起き上がり、ショートソードで受け止めた。


「・・・?」


エルミアは、自分が寝ている上で起こっている事を直ぐに気づかなかった。しかし、次第にぼやーっと眠気が冷めてくると、状況を把握した。

ケニーを殺した者がエルミアを殺そうとし、それをクレハが応戦して助けてくれたらしい。

エルミアは、ベッドから起き上がるとクレハの援護に回った。

ローブを着る者は、連撃を加えてきた。クレハは、ショートソードでそれを防ぐ。エルミアは、愛用のレイピアを取って、ローブを着た者へ突きを食らわす。エルミアの攻撃を襲撃者は交わす。連撃が止まったところをクレハがショートソードで斬り込む。その攻撃は襲撃者の右腕に当たった。

部屋のドアからガルが駆けつけた。

「何事じゃ?」

襲撃者とクレハ・エルミアが対峙しているのが見えた。ガルは戦斧を構えた。襲撃者の右腕から血が流れていた。襲撃者は、窓の方に向かった。背をかがめて、猛スピードでクレハやエルミアに突っ込んでくる。クレハとエルミアは、突進してきた襲撃者を避けると、襲撃者は窓を割って、そのまま、通りへと飛び降りていった。そして、北の方へと逃走した。


「ふう、危なかったわ。」

「ありがとう、クレハ。危うく殺されるところでした。」

クレハは安堵の声を上げ、エルミアは助けてくれたクレハにお礼を言った。

「あれは、ケニーを殺した奴か?」

ガルが割れた窓に近づいて、通りの方を見た。

「恐らくそうでしょう。わたしたちを口封じしに来たのでしょうか?」

クレハも窓の方に近づく。

先程の襲撃が無かったかのように、通りは静けさを取り戻していた。


次の日、クレハたちはギルド支所へ向かった。

ギルド支所に入ると、受付に先日ケニーの事を教えてくれたスタッフのミナがいた。

「こんにちは、ミナさん。」

「あら、こんにちは。またケニーの事で?」

クレハは、ミナの右腕に包帯が巻かれているのが気になった。

「どうしたんですか?」

クレハは、ミナの右腕の包帯を指して尋ねた。

「昨日、家で棚が倒れてきて、その時に怪我したの。どんくさいでしょ?」

ミナは苦笑いしながら答えた。

「そうなんですか、気をつけてくださいね。お大事に。

ところで、今日はケニーがグルル村へ向かうキッカケになったギルドの依頼内容の事を聞きたくて来ました。」

「ああ、そう言えば言ってませんでしたっけ。」

ミナは、ケニーが受けた依頼内容を教えてくれた。グルル村の田畑が荒らされるので、その原因を探って田畑を荒らすものを除去して欲しいというものだった。

田畑を荒らしていたのは大猪で、突進して攻撃をしてくるが、退治するのに難しい相手とは思えなかった。やはり、グルル村の裏手の山の洞窟に封印されていた者が事件の原因だったのだろう。

「グルル村についてお聞きしたいのですが、あの村では昔何か事件があったのですか?」

クレハがミナに尋ねると、ミナはグルル村で起こった話をしてくれた。

「昔、リッチがグルル村を襲ったの。その時の被害は相当なもので、何人も殺されたとか。でも、村に戦士と司祭と魔法使いのパーティーが立ち寄って、彼らによってリッチは倒されて封印されたそうよ。その封印場所は分からないけれども。」

あの祭壇には、リッチが封印されていたのか!ケニーが依頼の過程で祭壇を探るうちに、結界が解かれてリッチが解き放たれたのだろう。

「そんな事があったのですか。ありがとう、ミナさん。参考になりました。」

「いいえ、どういたしまして。」

クレハはミナに礼を言って、3人はギルド支所から立ち去った。


ギルド支所から宿屋へ戻る途中で、グルル村から帰ってきた時に注意をしてきた衛兵に出会った。武装はしておらず、普段着だった。

「先日はどうも。」

「?・・・ああ、昨日の冒険者たちか。」

「今日はお仕事ではないのですか?」

「今日は非番だ。」

と、衛兵はクレハの問いに無表情で答えた。

「そうですか。あれ、怪我でもされたんですか?」

「ああ、訓練中に怪我をしたんだ。」

衛兵の右腕には包帯が巻かれていた。

「お大事に。では、わたしたちは用がありますので失礼します。」

「ああ。」

衛兵は無愛想に答えたが、お互いにお辞儀をして立ち去った。


一度宿屋に戻った後、3人は酒場「熊の爪亭」へと向かった。店に入って、空いている席に着くと、酒とおつまみを注文した。

「行き詰まりましたね・・・。」

クレハは、お酒を一口飲んでから言った。

「ケニーは、リッチに殺されたのかもしれませんね。でも、そのリッチはどこへ行ったのでしょう?」

「誰かに取り憑いている可能性も考えられますわね。」

エルミアはクレハの疑問に答えた。

「となると、この街に潜んでいるかもしれないと?」

「昨日の襲撃者とケニーを殺害した者は、恐らく同一人物でしょう。わたしたちは、グルル村から帰ってきて直ぐに襲われました。わたしたちがグルル村へ行った事を知っている者が犯人という事は十分に考えられるでしょう。」

「わしらがグルル村へ行った事を知る者とは一体誰じゃ?誰にも行き先は言ってないぞ。」

「昨日の襲撃者、クレハが斬りつけて右腕を怪我していませんでしたか?」

エルミアがクレハに聞いた。

そう言えば、襲撃者は怪我を負っていた。あの傷は、襲撃者の手掛かりになるのではないだろうか。すると、クレハは2人の人物を思い浮かべた。

「今日、右腕に包帯を巻いている人を2人見かけましたよね。まさか、その2人のうちのどちらかが襲撃者でしょうか?」

クレハは思いついた事をエルミアとガルに話す。

「グルル村へ行く事を知っていた人物はいますわ・・・。ギルド支所のスタッフのミナ。

これは探ってみる必要がありそうですわ。」


3人は、ギルド支所の入り口が見える場所でミナが出てくるのを待った。日が落ちて、ミナはギルド支所から出てきた。3人はミナの後をつけた。

ミナは街の南西方向へと向かう。ギルド支所からは割と離れた場所にある家に入っていった。どうやら、ここがミナの自宅らしい。3人は、近くの建物の陰からミナの家の様子を伺った。

「本当にミナさんでしょうか?」

「さあ、どうじゃろ。」

「しばらく張り込みをするしかないでしょう。また、宿屋の方へ行って、わたしたちを襲撃するかもしれません。」

クレハたちは、深夜までミナの家を張り込んでいた。ミナの家の灯りが消えた。果たして、ミナは出てくるのだろうか?

深夜になり、辺りが静まり返ってきた時、黒い人影がミナの家へと近づいてきた。それはローブを着た襲撃者だった。何やら呪文を唱えると、鍵を開けてミナの家へ入っていった。


「ミナさんは、襲撃者じゃなかったんだ。」

「急いで、奴を追いかけないとミナが危ないですわ。」

「よし、襲撃者を取り押さえるぞ!」


クレハたちは、ミナの家に急いだ。


「きゃあああぁああーーーーーっ、たすけてーーーーっ」

女性の悲鳴が上がり、逃げ惑って抵抗しているであろう音が聞こえた。しかし、それは直ぐに聞こえなくなった。

クレハたちがミナの家に入ると、テーブルの近くにある椅子が倒れていた。そして、ミナが複数刺されて血まみれになって倒れていた。

ミナの近くには、フードを深く被っているローブを着た襲撃者が返り血を浴びて立っていた。

殺気立っており、異様な雰囲気が漂っている。



「ミナさん!」


クレハは、倒れているミナに向かって声をかけたが返事が返ってこなかった。あの出血量だと、もう絶命しているのかもしれない。クレハたちは、武器を抜いて構えた。

すると、襲撃者はクレハたちに向かって斬りつけてきた。クレハは、襲撃者のショートソードを自らのショートソードで受け流す。エルミアが突きで襲撃者に攻撃をした。

襲撃者はエルミアの突きを避けて、玄関の方に向かう。ガルは、玄関の前で通せんぼをするように戦斧を構えていた。ガルは、襲撃者に戦斧を振るう。襲撃者は、ガルの強烈な一撃を避けた。勢い余ったガルの戦斧は床をぶち抜いた。

襲撃者が体勢を整え、玄関から出た。

そこへ衛兵が駆けつけてきた。しかし、衛兵は一人のようで、襲撃者と対峙する形になっている。襲撃者は俊敏な動きで左右にフェイントをかけながら、衛兵を襲う。衛兵はその動きについていく事が出来ず、襲撃者の連撃をまともに喰らってしまった。


「グホっ」


襲撃者のショートソードが衛兵の体を切り刻んだ。衛兵の口から血が吐き出され、そのまま道に倒れた。

襲撃者は、街の入り口へと向かう。クレハたちも襲撃者を追いかけた。襲撃者は、グルル村へと向かう道を疾走したが、しばらくすると、止まり振り返った。そして、被っていたフードを外した。


襲撃者の正体は、非番の衛兵だった。

この世の者とは思えないほど恐ろしい眼をしていた。何かに取り憑かれているかのように。

クレハたちは、身構えた。すると、非番の衛兵が突然悲鳴を上げ始めた。


「ぐぎゃぁあああああぁあ」


メキメキと皮膚が割かれていき、頭部から縦に真っ二つに体が割れた。そして、そこから死神のような古ぼけたローブを着た化物が現れた。


「リッチ・・・。」

クレハは呟いた。不死のモンスターと呼ばれるリッチ。厄介な相手だった。物理攻撃が効かない。神聖魔法か、火の魔法でしか対抗出来ない。

クレハは、呪文を唱えた。エルミアも呪文を唱え始めた。それぞれ違う呪文だった。


「ファイヤーボール!」

「ウィル・オー・ウィスプ!」


クレハは火の魔法を唱え、エルミアは精霊魔法で光の妖精を呼んだ。2つの光が猛スピードでリッチに襲いかかる。

リッチは大鎌を取り出し、それを消し去ろうとした。しかし、消えずにリッチに直撃した。


「ぐぉぉお」


リッチにダメージを与えられているようだ。しかし、リッチは大鎌を持ったままクレハたちに物凄い勢いで近づいてきた。

ガルが愛用の戦斧でリッチに攻撃を行った。物理攻撃に強いリッチにダメージを与える事が出来ない。リッチは大鎌をガルに振り下ろす。ガルは避けきれず、大鎌がガルを斬り裂く。


ガキっ


「ぬぉおお」


ガルの鎧が大鎌からある程度彼の体を守ったが、左腕を斬りつけられて血が流れてきた。クレハは再びファイヤーボールを放つ。続けて、エルミアも光の精霊を放つ。

リッチは苦しげな声を上げながら、大鎌をエルミアに振るってきた。


「きゃあ」


エルミアは何とかリッチの攻撃を避ける事が出来たが、リッチは次の攻撃のモーションに入っていた。


「これでも喰らえ!」


ガルはリッチに何かを放り投げると、リッチは燃え上がった。


「ぎゃああああああぁああああ」


それは、以前買っておいた聖水が入った瓶だった。この聖水がアンデッドであるリッチに効果があった。さらに、ガルは聖水が入っている瓶を投げつける。クレハはファイヤーボール、エルミアは光の精霊をリッチに撃ち込み続けた。


リッチの断末魔と共に、そのおぞましい姿は消滅していった。


「はあ、はあ、はあ。何とか倒したみたいですね。」

クレハは、連続でファイヤーボールを撃っていた為、魔力が枯渇状態になりかけていて、顔色が悪い。

エルミアとガルは、肩を貸すように左右からクレハを支えた。マロムの街に戻る事にした。


マロムの街に戻ったクレハたちは、残っていた衛兵たちに事の顛末を話した。そして、衛兵たちが現場検証を行った結果、クレハたちの言っている事が証明された為、マロムの街をいつでも出発して良いという許可を貰えた。

ガルは怪我の治療を行い、クレハとエルミアは宿屋に戻ってベッドに倒れ込んで、そのまま眠った。


翌日、クレハたちはマロムの街を旅立つ為に支度をした。目的地へ向けて、必要な物を街の市場で買い込む。準備が出来て、宿屋の主人に挨拶をして、マロムの街を出発した。


「何とも変な事件でしたわね。」

「宿屋であんな事件に巻き込まれるなんて思わなかったよ。」

「次の街では、もうちょっとゆっくりしたいわい。」


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