三匹の子ブタ
数字的な話は文章だとわかりにくいので、後書きで補足しています。
あるところに三兄弟の子ブタがいました。
三匹はお父さんブタの伝手で同じ会社で働いており、「職場の近くに住むのが楽だよね。」と三匹でお金を出し合ってハウスシェアしています。
三匹は勤続手当の違いこそあれど、ほとんど同じくらいのお給料を得ていました。
長男ブタは大層なテレビゲームとギャンブルが好きで、日常的にパチンコ、競輪、競馬、競艇、オートレース、そして掛け麻雀に興じていました。
長男ブタはギャンブルに勝つと「今日は掛け麻雀で買ったから飯奢ってやるよ。」などと言って次男ブタ、三男ブタを連れてレストランへ行ったりしていました。
次男ブタも三男ブタもギャンブルには否定的な考えをしておりましたが、食事を奢ってもらっている手前注意などはしませんでした。でも内心では「掛け麻雀は賭博罪になるのだからあまり第三者に吹聴しない方がいいんじゃないかな。そもそもボクたちの蹄で麻雀牌持てるのかな?」などと思っていました。
長男ブタはギャンブラーでしたが、借金をしてまで賭け事をするような無茶はしませんでした。しかし、それでも貯金は全くなかったので冠婚葬祭のような突発的な出費があるとカードローンを利用したり、人気の新作ゲームが発売されるとリボ払いしたり、スマートフォンなどを分割払いしたりしていました。
次男ブタは心配性で堅実家でした。
次男ブタは老後になった時に、充分な年金が支給されるのか。年金だけで老後資金は足りるのか。そんな事がとても心配に感じていて、「ボクは65歳までに老後資金を2,000万円貯金するよ。」と常々言っていました。
そんな次男ブタはお給料の半分を貯金に回していて今では500万円も貯めているようでした。
末っ子の三男ブタは長男ブタと次男ブタの背中を見ながら育ってきました。そんな三男ブタは堅実家で野心家でした。
三男ブタは次男ブタと同じようにお給料の半分は使わずに取っておきました。でも次男ブタとは違って、お給料の半分のお金をさらに2つに分けて片方は貯金、もう片方は株式や投資信託などを購入して資産運用していました。
株式や投資信託などの金融商品は不景気の時は元本割れして含み損がありましたが、ここ数年の好景気で今は含み益がある状態でした。また、三男ブタは金融商品の保有者に支払われる分配金や配当金でさらに金融商品を買い増ししていました。
今では貯金は200万円。一方で金融商品の評価額は300万円です。元々の購入価格が250万円だったので、差し引き50万円が含み益です。この時点では、貯金が200万円。金融商品の価値が300万円なので、合計の資産価値は次男ブタと同額の500万円でした。
長男ブタは三男ブタに「金融商品よりもギャンブルの方がリターンが大きくていいぞ。」と言い、次男ブタは三男ブタに「金融商品は銀行預金よりもリスクが高いからやめた方が良いよ。」と言いました。
しかし、三男ブタは兄たちからアドバイスを受けても「うん、そうだね。」とだけ言って右から左へ聞き流していました。
ある金環日食の日、一匹のオオカミが現れました。
そのオオカミは厄災の象徴である九尾の大狐よりもさらに大きい、大きな大きな巨狼です。
巨狼が大きく胸を膨らませて息を吐き出すと大嵐のような物凄く強い風が起こりました。そして、その強い風は世界中を吹き抜け滅茶苦茶にしてしまいました。
大きな会社はレンガ造りで建物がしっかりとしていたので強風に耐えましたが、中小企業・零細企業は藁や木の枝で作った建物だったので壊れてしまった会社も少なくありませんでした。また、世界中がパニックになってしまったので、株式など金融商品の時価は3分の1まで下落してしまいました。
しばらくして巨狼がいなくなった後、政府や中央銀行は企業や国民、経済への支援策を打ち出しました。企業と国民には経済再開までの当座の資金として一時金を、経済対策では金融市場の混乱を抑える為に上場投資信託(ETF)を中心とした金融商品の大量購入を実施しました。
三匹の子ブタが働いていた中小企業は強風で社屋が吹き飛んでしまっていました。商品を作ろうにも設備がなくなってしまったので作れませんし、社屋を再建しようにも内部留保と一時金だけでは足りませんでした。結果的に三匹の子ブタが働いていた会社は倒産することになりました。
三匹の子ブタは失業してしまったので失業手当をもらう事にしましたが、支給された手当は勤めていた時のお給料の4割しかありませんでした。
長男ブタは今までお給料の50%が生活費、15%がカードローンやリボ払いの返済など、35%をギャンブルとして使っていました。
失業手当をもらうようになってギャンブルをするのはやめましたが、手当はお給料の40%分しか貰えなかったのでカードローンやリボ払いの返済が出来なくなり自己破産する事になりました。
次男ブタは今までお給料の50%が生活費、50%を貯金にしていました。
失業手当はお給料の40%分しか貰えなかったので生活費が足りません。10%の不足分は今までの貯金から切り崩す事にしました。
三男ブタは今までお給料の50%が生活費、25%を貯金、25%を資産運用にしていました。
三男ブタは強風の混乱で金融商品の時価が3分の1になった時、混乱の直前まで300万円の価値があった保有金融商品が100万円の価値に下がってしまっていました。元々250万円で買った金融商品なので、150万円の含み損です。この時点で、貯金が200万円。金融商品の価値が100万円なので、合計の資産価値は次男ブタよりも200万円少ない300万円でした。
しかし、この混乱が治ったら株価が戻るのではないかと考えていた三男ブタは貯金200万円のうち50万円でさらに金融商品を購入しました。
三男ブタの予想通り、混乱が落ち着くと株価は元の価格まで戻りました。100万円分にまで減っていた金融商品の価値が300万円まで戻り、追加で購入していた50万円分の金融商品は150万円分に増えました。貯金が150万円。保有金融商品の評価額が追加分と合わせて450万円なので、合計の資産価値は600万円です。
三男ブタも次男ブタと同じく失業手当がお給料の40%しか貰えなかったので生活費が足りません。しかし、金融商品の保有者は配当金・分配金を毎月貰えたのでそのお金の一部を生活費の不足分に充てました。余った分配金はまた金融商品の買い増しに使います。
巨狼による大厄災の前、三匹の子ブタはみんな同じくらいのお給料をもらっていましたが資産はそれぞれ、長男ブタ0円。次男ブタ500万円。三男ブタ500万円。でした。
巨狼による大厄災の後、三匹の子ブタが貰えた失業手当はお給料の4割しかありませんでした。その結果、長男ブタは自己破産。次男ブタの資産(貯金)は切り崩したので減少。三男ブタの資産は増加。となりました。
後年、人々は金環日食の日に巨狼が起こした大厄災のことを金環大厄災と呼んだ。