雪狼の申し出(試練の門出)
朧気な星空を後ろに置いてけぼりにしながら
頭上には小さな星が煌めく、星空が嫉妬して世界に降りそうだ
暗い洞窟の奥に進む度に寝息が聞こえる
「これは「ユウキ」の音だな」
冷静に言うものの危険であることに変わりはない
気を引き締めて進まなければ寝ぼけた「ユウキ」がいつ、牙を剥くか・・・・・・
慎重に音を立てないようにすると逆に音が鳴る
それを知ってか知らずか
カキ以外は普通に歩く
「馬鹿らしいな」
即座にやめたがその瞬間にバキッと鳴り響く
反響したかと思うと次の音を巻き込む
「グルルッ‼ 」
うなり声へと視線を向けるが何もいない
旅団が不思議な顔で見つめると
光る眼だけが微妙にゆらゆらとこちらに向かってくる
「あれはなんだ? 音の張本人はわかるか? 」
「わからん」
目と鼻の先ぐらいで気がつく
半透明のオオカミの幼犬がお腹を鳴らしていた
うなり声ではなく壮大なお腹の虫
「ハラヘッタ・・・・・・」
しかも喋り出す
「そっか~、じゃあ待っててね! 」
ユウキナは首の鎖に祝詞を唱え
非常食の干し肉を取り出し不用心に近づく
もしかしたら罠かもしれないがそんなことは無視する
そのことに目を輝かしながら見えづらい尻尾をぶんぶんと振る
「オマエ、ミドコロマンサイッ! 」
干し肉に齧り付きあっという間に平らげる
「アリガトッ! ツイテクッ! 」
「でも危ないよ? ええと、名前は? 」
「ハクロッ! オマエノナマエハッ! 」
「ユウキナだよ! 」
ピョンピョン跳ねながら喜ぶ幼犬は
「コレガユウジョウダナッ! 」
と続けた
「なんか怪しい」という周りからの視線をものともせず
ユウキナの足に近寄り擦り着く
頭を少し撫でるとお腹を見せ、犬特有の撫でてアピールを繰り出す
そして気がついたがメスらしい
一通り撫でると満足したのか
ムクッと起き上がった
「カアチャン二ショウカイッ! ツイテコイッ! 」
顔をクイックイッと道を先導しだす
大丈夫なのか? と思ったユウキナ以外の一同の心を悟ったのか
「シカタナイ・・・・・・」
そう呟き、仁王立ちの様な犬の立ち姿になると少し輝く
みるみると人の姿に近づき
白髪の若い女性に変化する
「これでどうじゃ? なかなか綺麗であろう? 」
自慢げに白髪を撫でながらポーズを決める
「そうか、お前は雪狼乃保神か」
「セキロウノタモチノカミ? なんだその美味しそうな名前は? 」
「一応、この先の東都にある川から変なものが入らぬように山の洞窟で
管理する不思議な「ユウキ」とも魔物とも違う生物だ」
「失礼じゃぞ、まあそんなことよりユウキナ」
今度は胸元を少し開き、胸を強調する
「人間はこれがいいんじゃろう? 」
純粋な目で胸を見ずに疑問符を浮かべる
「なっ! そんな目で見るでないぞっ! 恥ずかしいじゃろうがっ! 」
白い肌を紅潮させ別の恥ずかしさに身をよじりながら谷間を隠す
「そういえば、寒くないの? 」
逆に首鎖から着るものを出そうとし、心配をうけたことで
思わず尻尾がボンっと飛び出し
小さくも喜びを表す
「お前様は優しいな・・・・・・」
「はいっ! これは暖かいよっ! 」
頭巾の付いた羽織が畳まれた状態で渡された
「お前様は気遣いの塊かっ! 」
上機嫌で羽織り、頭巾を被ったと思ったら
くるりと似合うかな? みたいな動作をした
よく理解してないユウキナに
アマテラが耳打ちする
「似合ってて可愛いよ、ハクロはいいお嫁さんになると思うな」
ひゃうっといじらしく顔を隠す
「これでいいの? 」
「多分、これで大丈夫だよ・・・・・・あはは」
複雑になり、聞いてみたいセリフを言わせた事を後悔する
名前さえ、違えばな~と少し心の隅に置く
しかし、ハッとして何をやってるんだかと首を軽く横に振る
そうこうしているうちに
完全な星空が後ろを支配していた
カキはいつの間にか、ハガネ達大人組へ説明会を開いており
「まあ、その母ちゃんとやらは恐らく大神だろう
とてつもなく強いと聞く」
「じゃあ挨拶しとくか?」
「なんか加護をもらえるかもしてないからね~」
「それは明暗ですね」
話が終わりハクロの方へ視線を戻した
すると、ユウキナに寄りかかりながら甘えていた
何があった?この短時間で・・・・・・
今度は驚嘆する大人組をものともせず
「お前様っ! お前様っ! どこまでいくのじゃ? 」
「えっと、どこだっけ? 」
「さあ、どこでしょうね~」
手を握りながら狭い洞窟路を利用したのか、違うのか
いつもより距離が近いアマテラに
少し照れる
「やはりそういう意味なのかのっ! 」
ハクロが勘違いで興奮しながらさらにくっつく
ようやく奥に奥にと進んでいく一同
道の視野が悪いという理由で後ろに子供組とハクロがいるのだが
一番前のカキは後ろが気になって仕方ない
ハガネはわかっていた
むっつりお花畑の脳内にとって
あれはとてつもない目の毒だ
両手に華の状態と奪い合う女子二人
その光景で三角関係のドキドキな恋愛小説を頭の中で想い出し
悶々としながら、ちらちらと気にしているくらい
お見通しだ
「カキ、もう少しだな」
緊張の面持ちで肩に手を置く
「ああ、あともう少しで喧嘩だな」
「何を言ってるんだ? もうすぐで中腹って意味だぞ」
「中腹・・・・・・ああ、そうだな
もう少しで大神が住むあたりだ」
気が気でないのか重要な説明をないがしろに言い流す
これは重傷だと思い耳元で
恋愛小説だとこの後、どうなるんだ?お花畑と呟く
ハッとしたカキは、かあーっと赤くなると同時に
言い訳なのか
「違うんだ、これは趣味ではなくだな」
冷静に事を済ませようとするあたりが
昔から変わらないなと
安心したが、それを否定するかのように
冷気が増し殺気を感じる
「なんか冗談が聞かねえみてえだぞ」
真ん中のヒガンとサクラが構えながら
開けた場所に防御しながら突入という合図をした
「鎚の鐵、第二形態「クロハガネ」展開! 」
黒い盾を構えながら慎重に進む
視界が開けると同時に
澄んでいて、そしてツンと刺さるような声を浴びせられる
「貴様らは旅の者か? ハクロはどうした? 」
あまりの押しつぶされる様な圧に
息さえ止まりそうになる
そんな中で後ろから
「母上っ! ハクロはここに! 」
腕に手を絡ませながらユウキナと共に
ハクロが名乗り出た
「ハクロ、そのものはなんだ?」