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僕は英雄じゃないですよ!  作者: 川辺竜介
4/6

理不尽を壊す(明日は誰のもの? )

 世界が理不尽ではなく存在が理不尽なのだ

生物は他の生を喰らい生きる

見えない者はそれを容認し認められることでしか存在できない

世界のルールが理不尽だといっても果たして世界はそれをすべて知っているのか?

だがそのルールは悪くない

理不尽こそが意味であり生き残るための方法だから・・・・・・


真実は案外、近くにある

村長にあんなことを言っておいて知っていた

聞こうにも答えない

「今の段階ではそれだけしか見えない、我慢してくれ」

カキは吐き捨てながら不器用な優しさを見せる

そんな中でハガネとユウキナが呑気に野営の設営完了と料理が出来たことを

伝えに来る

「落ち着いた方がいいだろう」

そっとアマテラの肩に手を置き

ハガネの方へと去って行く

あの蛇の一件のあと

森を簡単に出れたため

境界の前に広がる平原「シカイ平原」

平原の木が生い茂っている場所に野営地を設営した

一応、簡易護界も設置済み

「美味しい・・・・・・」

サクラは感動のあまり声を漏らす

ヒガンもサクラのよりかは数倍ですねと失礼なことをさらっと言う

むーっとしたのは無視してアマテラの方へ向き

「これは君の大好物だと張り切っていたが

違ったのか? 」

「美味しいですけど・・・・・・今はなんだか喉を通らなくて・・・・・・」

ユウキナの優しさか下心かは知らないが

心が満たされていくのは確か

だが、それ以上にこんな複雑な気持ちじゃ

折角の料理を台無しにしてしまいそうで怖い

「そっか・・・・・・だったらそこに恋火果があったよ! ジュースは? 」

自分が泣いたことでアマテラが苦しいのではとユウキナは気遣う

恋火果とは「レンビカ」の認証名で一応、ヒイロカの名産

旅立つ前に屋敷でちびちび飲んだジュース

栄養価が高く、治療の飲料として知られる

甘く酸っぱいそして清涼感があり赤いのが特徴

そのジュースを一気に飲み干し

テントに戻る

「大丈夫かな? 泣かないようにしなくちゃ! 」

「そうだ、男は泣くなよ~

ああいう風に女を不安にするからな! 」

「ユウキナ、そろそろ休め

疲れているだろうし夜更かしはやめておけ」

なんでもないような振りで遠ざける

テントに子供組が入ったの見届けた

大人組はひそひそと話し始める


 平原の遠くの山から太陽が昇る

その光で目覚めたのは初めての感覚だった

「ああ、これが普通の目覚めか・・・・・・」

耳をつんざく巨鳥の声などない

緩やかな目覚め

陽に包まれ優しく体を起こす

ただ、それは巨鳥の声に慣れすぎると目覚ましにすらならない

すうすうと未だ起きないユウキナ

ちょっとよだれが光っている

「手だけは握ってるのね・・・・・・」

頬をぽりぽりと搔きながら

優しく握られた手を目覚めさせないように離し

朝というものがどんなものか? と好奇心で

出るとハガネが素振りをしていた

しかも、巨大な鎚で

一方のカキは難しい顔で本を読んでいた

サクラとヒガンはどこにもいないので

ハガネに問うと

「ああ、なんか周辺の調査だってさ! ふんっ! うっ! 」

振り下ろし、すぐ持ち上げると続けて

「日課は忘れねえようにしねえと、もう少し待ってくれ! 」

「日課?! 村では巨鳥がいたのに!? 」

「巨鳥? ああ、いつもの朝飯か~」

ハガネは鳥に追いかけ回されたことはなく

むしろ、狩っていたらしい

そういえばいつ頃からか木槌を持つと逃げるという

市村伝説があったが・・・・・・

「もしかしてですけど、その鎚で? 」

「おっ! よくわかったな! でどうした? 敬語なんて」

「いえ、ハガネさんは大人ですので・・・・・・」

大人になったのかと首を傾げているハガネをスルーして

テントに戻り

ユウキナを起こした

「ふぇっ? ああ、朝? ありがとう・・・・・・」

瞼を擦りながらゆっくり起き上がる

「そういえば巨鳥がいないから今日はいい目覚めでしょ? 」

「うーん、焼き鳥が食べれないのは残念かな~? 」

ここにも居た

村の常識を知らなかったのが・・・・・・

衝撃を通り越し苦笑いする

巨鳥は村では無視しなければいけない

禁忌の鳥で村長は近づいたり朝の外出は危険だと

掟を作ったのだが

理由はそういえば何なのか?

そう悩んでいると

サクラとヒガンが戻ってきたのか騒がしい

テントから覗くと

「ヒガンはこういうのがいいの? 朝の日課は~? なんでなくしたのよ~」

「なんで毎回、罵倒を求めるんですか?! 」

バトウ? なんかの習慣かな?

「ああ、怒ることで喜ばれるやつか~」

目が点になった、数秒後

サクラさんらしいのかな?と無理に納得した

一応、興味が湧いたので隠れて見ていると

「ふん、この年増が年甲斐もなく朝から興奮か? 年をわきまえろ」

「これよ! これ~! 」

「こんなのを子供達に・・・・・・」

ふと前を向いたヒガンは

ジト目のアマテラと目が合う

徐々に赤くなる顔を

思わず座り込み隠した

「ん? どうしたの? おっアマテラ~! 」

空気を読まないのか敢えてなのかわからないが

手をぶんぶんと振っている

「今から朝ご飯だから、ユウキナは~? 」

「はーい! 」

元気よくテントから出て行く

「ふふっ! これで美味しいご飯が・・・・・・」

じゅるりとよだれを拭うと

「ほら! どうしたの? ヒ~ガン! 」

「ほっといてください! これでアイデンティティーが・・・・・・」

「ほっとくか~、ああ、今日の食材はこれなんだけどね~」

白い卵と野草、そして果実を見せる

「じゃあ、野草を刻んで~卵に混ぜたあとに~

鉄鍋に乗せて焼いたら美味しいかも!」

「いいね~果実はどうするの?」

「半分はジュースで残りは野草と合わせたサラダとか?」

料理の知識をどこで習ったのかはしらない

「どうやって思いつくの? 」

「ハガネ師匠が言ってたけど

美味しいって言うのは組み合わせじゃなくてやり方だって! 」

「ほう・・・・・・」

なんかハガネとユウキナって次元が違う世界の生き物なのか?

言っていることがよくわからない

「まったくあいつは教育によろしくないのか、違うのかよくわからんな」

カキが難しい顔のままで

横から話に入る

「今日は東都に向かうから手早く頼んだ

まあ、楽しみにしている」

咳払いで誤魔化しながらカキのテントに戻った

広い場所は? と聞かれたサクラが

あそこだけどと指さすと

そこへ立つと首の鎖から

「調理場なりし、道具を来たれ」

そう呟いた瞬間に

目の前の開けた場所に青い光に陣が浮かび

瞬く間に調理場が現れた

しかも、超豪華だ

見たことのない加熱機や広い水場

そして、長方形を立てた箱がある

「この箱は? 」

「食材を保存する場所だよ?

 ここにあれば期間内は腐らないんだ!」

そういえばユウキナって食材をどこから持ってきていた?という

疑問があった

通りで新鮮かつ味が良かった

「もしかしてここに入った食材は美味しく? 」

「そうみたいだね! 」

それは追いつかないよね・・・・・・

少しの敗北感と意外さにまたもや苦笑い

小刻みな音とジューッと音がした後

妙な破砕音とウィーンという音がした

変な「ユウキ」が来たかとカキとヒガンが警戒をしたが

音のもとは調理場だった

「どうしたの? カキとヒガン」

「それはなんだ? サクラ」

「初めて見たんだけど、食材を切り刻むとかなんとか・・・・・・」

「破壊機っていう、理子道具だよ? 」

さも当然かのように説明する

「おっ試験機か! 使い心地はどうだ? 」

ハガネが嬉しそうに聞くと

ぎょっとした目をカキとヒガンがしたまま

心の中でシンクロしたツッコミをした気がする

(またお前か~‼ )


 食事が終わりと後片付けが終え、出立する

護界を止めたあとにテントを回収する

「ハガネさんがいて、ユウキナも完全かと・・・・・・」

「敬語ってなんかムズ痒いからやめてくれねえか?」

「なにかハガネがしでかしたか」

「いえ、なにか下手に失礼だといけないかな?と」

え?と止まったハガネ、考え込みながら列に戻る

そして後ろでカキに聞く

「失礼って? 」

「お前の生活すべてだよ」

「ああ、男みたいな生活は嫌だということか・・・・・・」

なんか違うよ

女性らしくそして引っ張れるやつにと教わった

アマテラは次元の違いに戸惑う

そして、よくわからない反応をしてしまっている

「アマテラはキンチョーしているんだね」

「どうしたらいいかな? このままじゃ

よくわからない・・・・・」

「そういう時はいいところを見つけるんだよ!

 そうすると自分の状況がわかるんだって~」

いいところ・・・・・・

優しく誰にも裏表がない素直な鍛冶師

ふふっと笑いながら

「そうだね! ありがとうユウキナ! 」

旅の始まりからよくわからなかった感情が解けた感じがした

大人ぶっていた

大人達を少し呆れた振りをすることで

自分がマシなのだと

はっきり言って自分が子供過ぎた

これじゃ、傲慢だ

そして失礼

ハガネの優しさに甘えていた

「あと謝った方がいいんじゃないかな?」

後ろを見ながら少し焦っている

「もしかしてお前、バカにしたのか?」

「ふん、まさかそこまで高等な知識だったとはな・・・・・・」

少し険悪だ

「ははっ! 大丈夫よ? 」

「そうですね、なぜ悪童と呼ばれていると思いますか? 」

「大人の言うことを聞かなかったから?」

「違います、確かにイタズラは多かったですけどね・・・・・・

その代わりに大人が困っている中でも三人で

方法を探し努力し、見返す」

憎たらしくも一目置かれていたからですと付け足し

微笑んだ

「ちなみにもう一人はヒガンよ? 」

意外な過去をさらっとばらす

「秘密でしたが、仕方ありませんね」

戦闘バカのハガネ、抑制と統制のカキ、交渉のヒガン

三人で色々な事に直面した

村長についても・・・・・・

最後は濁されたが

冒険譚を聞いた

その頃にはハガネとカキは笑い合っていた

「まあ、昔よりか頼れるがな? 」

「お前も面白くなったな! カキ~」

うりうりとじゃれていた

そして平原の終わり、東都への最初の道

「アラタナ洞窟」の入り口へ

ちょうど「ユウキ」が眠り出す

夕方だ

その代わりに光が必要だ

「ユウキナ、ある? 」

「任せて! 」

首の鎖から

「光なりて、道を照らせし黄玉を現れよ」

すると周りの頭上に丸く黄色の光の玉が揺れる

そして一人一つと分散する

「便利ね~」

「作り貯めた甲斐があったな~」

ハガネはうんうんと頷き、誇らしげだ

「まあ、十年でこれほどはなかなかだ」

皮肉にも似た褒賞を贈るカキに

ゆっくり拳を出し

拳を合わせ

「理不尽は生きるため・・・・・・」

そっと謎の合い言葉を真面目な顔でシンクロさせる

「ああ、あの目的は忘れない」

ヒガンも小声で呟く

「なんか言った~? 」

サクラは不思議そうに聞いた

なんでもないと誤魔化し、真剣な顔をし

前を向く

悪童はあの日、誓ったのだ

「村長や村の人々を戻す」と

サクラも戻すからと心で想ったのはヒガンだけかもだが・・・・・・

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