こぼれ落ちた真実(まだ謎は満ちる)
鳥の鳴き声が耳をつんざく、やかましさなら世界一の「ヒイロカ」名物
朝の強奪者こと「アサドリ」という大きな巨鳥
翼を合わせると全長が四メートルらしいが確認なんて出来やしない
下手に見つかると飽きるまで追いかけ回される
だから朝の強奪者、朝の外出を許さぬものなのだ
そんな名物のおかげで準備を入念に出来る
「ええと・・・・・・」
アマテラはバックパッカーの様なリュックサックに
必要物資を詰め込む
パズルのように組み込まれた中身は隙間があるのか疑う
この世界の因子魔法の中には因子結晶という宝石を作る魔法があり
その因子結晶は理子がもとの術式により
加工され、因子道具となる
電池のような「蓄積因子」が必要なものと
この世界の人間にある
体内の「源子」
人それぞれで因子だったり理子だったりなので
源の原動力という意味で源子と呼ばれる
それを使うものがあり
いまアマテラが持つのは
鞄の類いで量産されている「寛大の担ぎ鞄」
つまり鞄内に入る量を見た目より増やした
特殊な旅道具だ
一応、蓄積因子は使わない
そして何より源子量に応じた軽量化効果がある
アマテラは村の女子で一番、軽くしたことで有名
一種、体重計より頻度があるだろう
源子と体重は反比例するからだ
違う意味で考える人も居るわけだが・・・・・・
「これで大丈夫かな? 家にあるすべての道具入ったし
背負ってるかがわかりづらいけど・・・・・・」
他の女子が聞いたら確実にムッとするか
苦笑いかだろう
そんな棘入りの独り言に呼応するかのように
扉を激しく叩かれる
とうとう巨鳥が家に攻め込むようになったかと
ビクッとしたが
窓から覗くと誰も居ない
ある意味で恐怖だが、なんだか怖くはなく
むしろ暖かい気持ちになった
ふふっとほくそ笑むと
「父さん行ってきます・・・・・・」
写真立てに向かって挨拶を済ませた
扉を開き、目の前の家にユウキナを呼びに行く
すると勝手に扉が開かれ
ふと目が合う
「アマテラ! おはよう! 」
「ユウキナの荷物、すごいね・・・・・・」
「多いかな? 」
「いや、少なすぎるよ! 散歩じゃないんだよ!? 」
手ぶらにしか見えないどころではなく
荷物がどこにあるかわからない
あるとした不思議なペンダントとバングルのみ
「騒がしいな、若いのはいいが途中の森には音に反応する「ユウキ」がいる
気をつけろ」
となりから不意に声が聞こえた
いつからいたのかわからないカキにいきなり
正論をぶつけられ
唐突すぎて空返事しか返せない
「まあ、一応は君たちの教師役も任されたから
教えていくとする」
「おお~カキ先生だね! 」
「先生だと語弊があるからカキでいいぞ? 」
「じゃあカキ! よろしくね! 」
ユウキナは元気よく村の道へと歩き出す
「アマテラ、ちょっといいか? 」
アマテラを近くに呼び、ひそひそと
「ユウキナは「ユウキ」に狙われやすいから
これは持たせたいんだが恐らく苦手だよな」
ポケットから黒光りする虫を取り出す
「いや、誰でも苦手ですよ」
「これはゲンダイという時代に恐れられた最強に忌み道具と聞いたんだがな・・・・・・」
「だれに聞いたんですか? 」
「ハガネに聞いた、あいつは装備類なら右に出るものはいないだろうからな」
「一応、それは袋に包んだあと土に埋めて上から除草剤か土地に影響の出ない
酸を掛けた方がいいですよ? あと手を何回も洗ってください
そして洗うまで近づかないでください」
「毒物なのか!? 」
一番、常識があると思っていたがこの村の男は
天然が多いのか? それともわざとか?
まだ始まってもない状態でこれだけ不安なら
森とか無理じゃないかと心の中で
頭を抱える
「そういえばユウキナは知ってるんですか? 」
「いや、言ってはない」
少し嫌な予感がした
そしてすぐに遠くで爆発音がした
凄まじい光が空をチカチカさせながら近づいてくる
「助けて~アマテラ~」
「何から? 」
「えっ? 」
後ろを振り向くが何もいない
疑問符がカキ以外に浮かぶ
「ああ、護界があるから村の中まではこないだろうな」
少しクラッと視界が揺らぐ中で
「全部、話してください・・・・・・」
とギリギリ言えた
「仕方ないな」
やれやれ感を出したため苛立ちで気を保つ
説明では
ユウキナはすべてを惹きつけやすく
護界により抑制が効いているため
現状では大丈夫らしい
そしてトウロウは「ユウキ」を適当に狩りつくしながら
旅にしてもらおうという魂胆
そのために抑制道具はまったくなしの方向で
トウロウいわく
「まあ「ユウキ」は万能な材料じゃからちょうどいいじゃろう」
適当だよな・・・・・・と感想を持ったが
カキは「さすが、村長だろう? 」
誇りにすら思っている
寂しさの裏返りでおかしくなったんだと
冷ややかな目になってしまう
「まっ任せて! 頑張るから! 」
「じゃあ、先に村の周り走ってきて」
「なるほどね、じゃあ待ってて! 」
「待って待って冗談だよ! ユウキナ! 」
こういう時だけ早すぎる行動力は恐怖すらある
「まあ、大丈夫だろうから
もう二人の同行者が待っているところへいくぞ」
その二人に期待しかない
それでもダメだったら私がしっかりしよう・・・・・・
二時間は経ったかな?
そう考えながらニマニマと村へ戻ったユウキナ
五人の影が村の入り口で待ちぼうけていた
その中の一人は駆け寄ってきた
「バカ! 心配したんだからね! 私も変なこと言ったのは悪いけど
人の話は最後まで聞いてよ! 」
その言葉にガーンとショックを受け涙目になるのを見て
「でも助かった、でも次からはこういうの無しで! ね? 」
誤魔化したことに私ってこういうところダメだなと罪悪感に苛まれる
軽率なのは自分だし性格を理解しながらこれはさすがにひどいなと
気がつくと残りの四人も近くに寄っていた
「ヒューヒュー! 熱いね~二人とも~」
「耳元で甲高い声は辞めてくださいよ」
「モテるやつは言うことが違うね~」
「ハガネ、自慢か? 」
囃し立てたのは屋敷の若いメイド「サクラ」
そして注意するのは執事の「ヒガン」
当初はヒガンとハガネが待っていたはずだが
サクラが懇願もとい脅迫で
付き添いということになった
さすがにユウキナも感づく
「屋敷は大丈夫なの? 」
「ああ~あの人は万年旅だから大丈夫でしょ」
「ええ、村長が管理人を置くと言っていましたし
何より子供達の遊び場と学校になるみたいですから」
「本当はどういう理由だったっけな~」
「ぐっ! 」
聞かないほうが身のためだなと危機感を醸し出すのは
サクラの見えない魔法かとカキとハガネは
顔を青くする
「そっそれよりユウキナは「ユウキ」を狩り尽くしたんだよな? 」
ハッと気がつきハガネは目を輝かせる
「百十七ぐらいかな? 綺麗な宝石になったから
拾ったよ! 」
「よくやった! 前のは「マガ」付きで材料にはならなかったからな」
頭をワシワシと撫でる
まるで兄妹の様な光景に微笑ましかった
「いいね~男同士だけど~」
「はははっ! なんか知らんがこいつは筋がいいんだぞ」
「ありがとう! ハガネ師匠! 」
そういえば知らないうちに足が速くなったり
剣がうまくなったりあったな
あとたまに居なかったし
でも頻度、全然少なかったはずなのに?
「そういえば「空の首鎖」似合ってんな~
あと「強化の腕紐」も使ってるか?」
「クウノクビクサリ? キョウカノウデヒモ? 」
聞いたことのない恐らく道具だろう名前
「ハガネがそこまでの上位道具をか
腕が上がったな」
「珍しいな、カキが褒めてくるなんて・・・・・・」
空を仰ぐ仕草に
「おい、なんで空を見ている」
「いや~旅早々に濡れたくねえな~と」
「降る前提はやめろ」
昼になり、ようやく森の中を進む
歩きながら説明を受ける
「空の首鎖」鎖にある穴すべてに分類別に道具や荷物が入っており
設定した祝詞により呼び出す
空間系の旅道具
「強化の腕紐」装着者のすべてを文字通り強くする
ユウキナを数値化すると
この旅団の中どころか国の騎士団を軽く凌駕する
「なんだかすごい遠くに感じる・・・・・・」
「近くにいるよ? ほら隣だよ? 」
「そうだね」
後ろで警戒をする「ヒガン」と「サクラ」が
「確かに近くにいる」
「そうね~これは森一番かな~」
「すごいな、ユウキナとアマテラ」
「? 」
最初の発言者達が意味をわかっていない
「ユウキナ、あの剣を取り出せ」
ハガネも少し語気に緊張を走らせ指示を送る
静かだが微かに何かが滑る音が迫っているのがわかるようになった
「タマハガネ」を取り出し構えた
その姿にはあの時の覇気が灯る
「来るぞ! 」
シャアアァァァァッァ‼
大蛇が脇道の森から怒りのままに牙を剥きながら突進してくる
その大きな衝撃を受け止め大蛇の動きを止めるのは
「タマハガネ」の停の因子だ
止まった大蛇に「ヒガン」が腐の因子を含む短剣を投げつけ
軽く腐食し柔らかくなった部分に
ハガネが蓄積因子で出来たスタン弾を手早く当てた
大蛇はブルブルと震え
大きな音と共に倒れた
「すごい・・・・・・」
「いやまったくだ」
サクラとカキに守られていたアマテラは申し訳なくなった
そういえばなんで私、一緒に旅を?
こんなの次元が違いすぎて足手まといなんじゃ?
私って意味あるのかな?
不安そうな顔をするアマテラに
ユウキナは雰囲気が変わったまま
近づいてくる
目の前に来ると
「アマテラを守りたいから強くなった
なのに今更、そんな不安な顔しないで」
でも、と視線を送るアマテラを引き寄せ
デコにキスをする
「なっなっ何するの!? 」
振りほどこうと藻掻きながらジタバタするが
「不安そうな顔が守りたくって愛おしくて
そして可愛いなって・・・・・・」
目をしっかり見据えながらニッコリ笑うユウキナ
赤くなりながら見つめるアマテラ
その間に耐えられなくなり
「そういうことじゃない・・・・・・これまで守ってきたのに
これじゃ足手まといだよ」
「わかってねえな~アマテラ~」
いや、言うのもなんだがなとハガネが口を挟む
「アマテラは十分、ユウキナを守ってんだよ」
「? 」
言っている意味がわからない
「やはり気がついてなかったか・・・・・・」
カキは薄々、感じていたことを漏らし
サクラとヒガンも知っている様子だった
「ユウキナの感情は多分、本気だろうがな?
本能と併せ、すべてに置いて必要なんだよ」
「ああ、ユウキナは「マガ」の浄化が可能だよな?
そんなやつが何故、惹きつけるんだろうな? 」
「そうよ~「マガ」の浄化は「ユウキ」にとっては
恐怖なのよ? 」
「端的に言うと「マガ」は「ユウキ」の成長には不可欠だ
だから是が非でも欲しいはずなんだ」
アマテラは少し感づいた
「マガ」を浄化するのに何故、惹きつけるか
あれは浄化でなく本質的には
吸収の後に徐々に清浄するのではないかと・・・・・・
「それと私にどんな関係が? 」
「浄化の力は頻繁には無理だ
だから本当に危険を感じた時か、近くに相殺する巫女がいる時だ」
「相殺する巫女? 」
「古代碑を思い出せ」
巫女の一族「カガク」と女神
おそらく英雄は巫女の一族
名前はアマテラス
女神はイザナミ
アマテラス・・・・・・
私の名前は?
なんで巫女と女神が・・・・・・
まさかなにかの危険を押さえるためとか?
「もしかして、ユウキナは浄化の度に
なにか危険が・・・・・・? 」
「ああ、本人は今の通りわかってないがな」
疑問符いっぱいながら繋いだ手を離さない
「危険とは「マガ」の狂気
特殊な耐性こそが理解力の低下、感情の不感を起こす」
「そんな中でもアマテラ、アマテラって求めているのよ」
「まあ、なんだつまりは
周りを認識こそはあるがちゃんとした感情として
想うのはアマテラのみ」
「そして、すべてにおいてというのは
肉体的な暴走抑制も精神の安定も
アマテラがいなければ成り立たない
いくら耐性が強かろうがあの「マガノユウキ」の大群と
「あれ」は相当な負荷だ」
「今も昔もユウキナを救い
世界さえも救うことになるユウキナにしたのが
アマテラということですね」
大人達が押しつけたのも
旅に同行することになったのも
決まっていた?
複雑ですべてがわからなくなるような感情を否定するかのように
視界にノイズが走り
映像が浮かぶ
「アマテラス! ごめんね? 私が弱いばかりにこんなに頼っちゃって・・・・・・」
そして切り替わり
血だらけの女性が視界の頬に手を掛けながら
「あははっ・・・・・・ひどい顔だね・・・・・・」
【次は・・・・・・もっと一緒に・・・・・・笑いたいな・・・・・・】
気がつけば涙が溢れて止まらない
周りの人間も心配で駆け寄る
「まさか? 見えたのか? 」
「この話は時期尚早だったか~」
ユウキナなんてアワアワを通り越して一緒に泣いていた
いつのまにかいつものに戻ったらしい
そしてその様子を見ていたのは蛇の瞳
瞳の奥に潜む遠くの禍々しき何か
いやらしい笑みと恍惚に溺れ
悪意をたぎらせる
もう一度、守るために無防備になった女神を
屠れる
救いようがない穢れは動き出す