守るということ(決意が生じさせた想い)
漆黒の塵「ダスト」を纏う特殊なユウキ「マガノユウキ」
その群衆が纏う塵は瘴気とも邪気とも言い表せる禍々しさがあり
存在の誇張をより激しくする
「ぐっ! これほどとはのう! 」
村長のトウロウはあまりの重圧に苦しさと強がりを混ぜ
周りに油断がないようにと仕向ける
そんな様子に大人達は護界の強化を急ぐ
「護界」
それは空間に存在する「護の因子」と呼ばれる
この世界では一番、等級が低いが
使い方次第であらゆる厄災を防ぐ
因子を利用した空間魔法
この世界では因子と理子が主に使われる魔法または術式が多く
因子を使うことで発動する大半が魔法と呼ばれ
理子を使う大半は術式
トウロウは村長ではあるが特殊な術はなく
努力で最強の空間魔法使い
「存在の因子」の称号を持つ
村長をする前は色々とやんちゃだったが
前代の村長である母「アカリ」にボコボコにされたことで
今の現職に就かされる
そして強化は護の因子を土地から引き出すことだ
「年は取るべきでないのう・・・・・・」
徐々にヒビが入る護界の空間壁
「クソっ! あれだけあった因子がこれだけになるのか! 」
そう黒い塵は腐食を起こす
それはすべてにおいてであり
因子も例外ではない
徐々にヒビが広がり縦に大きな亀裂として現れる
そんな中で後ろの空から大きな光が迫る
大人達は絶望の中、全く気がついてない
そして護界が割れたことで
「終わった」という感情の刹那
迫った光がトウロウの目の前に落ち
刺さった光から光柱の槍が「マガノユウキ」目掛けて
生えていく
「グアアァァァアァァァァァァァァァッ‼ 」
何が起きたか理解する前に目の前の脅威が「ダスト」ごと
光に飲み込まれ残骸だけが残る
犬のような猪のような死体が数百と転がった風景は
「死屍累々」そのもの
後ろを振り向くと美少女が険しい表情で青髪の少女を抱えながら
立っていた
しかし、トウロウだけは気がついた
少年であり、かつての弱々しさとは違う
凜とした決意と覚悟を纏う
「おぬしはユウキナか? 」
「そんなことよりアマテラがっ‼ 」
時間は遠くの煙と村の景色の遠近感を間違え
村に戻るユウキナ達が
アマテラの家に戻ったところまで遡る
「さあ、屋敷に戻ろうかユウ・・・・・・」
名を呼ぼうと振り返り窓が少し見えたアマテラは
巨大な目と視線が合う
認識した巨大な目は笑ったかのような半月になったと思うと
ゆっくり視界から見えなくなる
一瞬で理解した
「家が潰れる」と
ユウキナの元へ走り、少ししかない時間のなか
抱きしめながら扉により近く飛び込む
次の瞬間
家の真ん中あたりから衝撃が走り
一気に中心から外に向けてすべてが吹っ飛んだ
「きゃあああああっ! 」
ユウキナは理解が遅れたがアマテラが庇うことで
辛うじて背中だけの痛みで済んだ
「アーちゃん? 」
しかしアマテラは意識を失う
どうやら背中を強くなにかで打撲したらしい
服の背中部分に一点、当たったあとがくっきりあった
叫び声で気がついたのか単眼の巨人が
探していた
偶然にも目の前の家にあった不思議な看板にぶつかった
ユウキナが昨日、適当に家の前へ置いた「ユウキナの何でも屋なんちって」
という謎のイタズラに助けられる
そんなことは目に触れず
「アーちゃん! えっ? なんで? 」
ユウキナの声に気がつき
単眼の巨人がこちらへと向かってくる
【これでいいのか? ユウキナノイザナミヒメ・・・・・・】
周りをキョロキョロとするユウキナ
謎の声は姿がなく頭に直接、伝わってくる
【アマテラスはお前を助け、こうなった】
「アーちゃんのこと? 助かるのっ? 」
涙ながら見えない何かに訴える
【方法はある・・・・・・】
「どうすればいいの! 」
【右手を見ろ】
右手に視線を移すと
光る指輪とアスタリスクのような水晶型の紋印が存在を主張していた
【手の甲を目の前に示し、叫べ】
「こうするの? 言葉は? 」
アマテラの手をほどきお姫様抱っこしながらという
変に器用な芸当で聞きながら
【女神の名において武装を認め、イザナミの「キコウ」を示す
その名を「カミウミ」すべてを浄化せん! 】
知らなかったはずの言葉を心の響きと共に口から放つユウキナ
その瞬間、周囲に光で出来た刀の先が槍のような武器が四本浮かぶ
「アーちゃんをっ! 大切なアマテラを守るっ! 」
決意と覚悟の視線と共に武器が踊り出す
ユウキナはアマテラの様子を見ながらキョロキョロと直せる大人を探す
この時、視力ではなく感覚で遠くまで見通していた
「居たっ! 」
単眼の巨人はいきなりのことに驚き、なりふり構わず突進してくる
しかし、一瞬で消し炭になる
武器を浮かべながら見つけた大人のもとへ
負荷のないようながら急いで走り出す
目の前の光景に不思議な既視感を覚えたトウロウは
英雄の願いを叶えようと周りに怒号を飛ばす
「なにを腑抜けておる! 治療が可能なものは早くアマテラを助けんか! 」
すぐさま、大人達は駆けより
怪我人の治療に移る
その間、寝かされたアマテラの手を握りながら
ずっと離れず見ていたユウキナ
数時間に及ぶ治療が終わり
静かに目を覚ますアマテラは手を握る凜とした少年を見て
フリーズした
その後、顔を真っ赤にして
ハッと気がつく
「ユウキナは? あの女の子みたいな男の子知りませんか? 」
少し涙目になりながら抱きつく少年は
「アーちゃん! よかった~っ! 」
と安堵していたが
アマテラはまたフリーズしながら数秒後
「えっ? ゆっユウキナなの!? 」
「へ? うっうん・・・・・・」
当たり所が悪かったのかと
安堵から不安な顔に戻ると
気がつく
「なっなるほど・・・・・・」
疑問符を浮かべて首を傾げる少年に後ろから
村長のトウロウが言葉を掛けた
「かっかっかっ! 無理もなかろうな! 」
「もう大丈夫なのですか? トウロウ様! 」
長いヒゲをさすりながら
話すのを待っていたようだった
「いやのう~ユウキナが石に書かれていた女神とはのう~」
「驚きましたよ、見た目が女の子みたいだとは思っていましたが・・・・・・
まさかです」
治療に当たっていた女性が何か知っていたのか
驚きながら
会話を続ける
何のことかわからずに
キョトンとしている二人の若人に
「ああ~すまぬのう、話があるからわしの家によいか? 」
無傷で帰還した皆を見て
驚愕していたのはカキだった
「よっよく無事で・・・・・・」
「はっはっはっ! 阿呆と悪童に助けられるとはのう!
今日は祝杯じゃな! 」
「はっはあ・・・・・・」
笑いながら通り過ぎるトウロウに
熱弁していたカキは恥ずかしさのあまり頭から湯気が微かに漂った
そしてふとユウキナの右手を見てさらに驚く
「そっそれは「イザナミの晶紋」!?
ユウキナノイザナミヒメ・・・・・・ん?ユウキナ・・・・・・」
顔を真っ青にして
犬のように土に跪く
「こんなに近くにいたのか・・・・・・」
「カキも来るか? ちょうどいい頃合いじゃろ? 」
えっ? と顔だけをトウロウに向け
徐々に顔がほころび元気よく
「はい! 」
かつて戦争があった
それは「ユウキ戦争」と呼ばれ
一握りの村長と国の幹部しか知らない
機密中の機密だ
その戦争は女神と巫女の一族「カガク」により終結する
しかし、ユウキとマガが世界に散在した
ユウキ戦争はユウキと呼ばれる
ゲンダイという時代に突如、出現した魔物との戦争
女神と「カガク」の「キコウ」が活躍したことが一部の古文書で
見つかっている
「とまあ、こんなところじゃのう~」
「ひどいですよ・・・・・・必死に調べていたのに!
影で笑っていたんですか?」
「それはないのう~悪童が可愛らしいことに必死だと
なんだか誇らしかっぞ? 」
「じいちゃんはいつもそうやって子供扱いして・・・・・・」
恥ずかしそうに少し嬉しそうに
いつもとは違うカキだった
じいちゃん子で昔はついて離れなかった
しかも「おじいさま」と尊敬と憧れの念を持つくらい
ベタベタだった
ハガネからは
「お前ってなんか可愛いよな? 」
と馬鹿にされ続け
とうとう、ツンデレのような形態となる
今でもトウロウとカキだけだと
甘えるらしい
噂だが・・・・・・
「すまんのう~これは機密でな~」
軽くあしらい話を戻す
「ここからが本題じゃ
ユウキナとアマテラよ、旅に出んか? 」
「旅ですか? 村長」
「アマテラとならどこへでも! 」
待て待てこいつはなにを言ってる
と顔に露骨に出るアマテラ
気づかないのはユウキナの強みだったりする
「まあ、世界に点々と存在する
禍津乃晶を壊し終わったら戻ってきたらよい
なに、旅にはカキがついて行くわい」
「なっ! 勝手に! 」
「そんなカキは嫌いじゃな~」
「そんな話じゃないでしょう!離れたくないのに・・・・・・」
聞こえないふりをし、トウロウは焚きつける
「もしこの旅がうまくいけば村長など軽いぞ
のう後継者「カキ」よ」
「こっ後継者! おじいさ・・・・・・」
途中で若人に見られていること思い出し
咳払いで誤魔化したあと
「仕方ないですね、待っていてくださいよ? 村長」
「なら決まりじゃの~」
勝手に進む話に辟易しながら小声で
「なんでこうなるの? ユウキナは行く気満々だし」
「アマテラ! 絶対に守るからね! 」
不意にこちらに向いたユウキナの凜とした顔に
ドキッとしたのか顔から煙りが暴発しながら
「よっよろしくお願いします・・・・・・」
「ふふっ大好きだよアマテラ! 」
「もっもう! 知らない! 」
咄嗟に後ろを向き
ぷいっとした振りをしていたが口は緩んでいた
あわあわしていたユウキナをよそに手を叩いたトウロウ
「では、出立の前に祝杯でもしようかの~」
旅立ちの前夜
村はずれの屋敷で盛大に祝杯が行われた
そんな中で注目の的になっていたユウキナは話を聞きながら
目ではアマテラを探していた
とうの本人はバルコニーで風に当たりながら
特産の果実ジュースをちびちび飲んでいた
「これが物語なんだな~」
展開について行けず勢いで旅に発つ
この世界の冒険小説より急展開
ワクワクするが心配がありすぎて
心労で倒れそうだ
「手綱を握る・・・・・・」
手を握ったり開いたりしながら
物騒なことを呟くあたり彼女らしい
流され気味であるが芯があり
仕方ないと言いながらどんなことにも向き合う
少し自由だが案外、一番強いかもしれない
そんな彼女はまだ秘めた力を持つ
旅の中で見つけるのは
想いだろうか? 未来だろうか?
その選択がいずれ
命運を決めることを知らない