普通の子供(英雄と呼ばれる前)
現代のシステムが壊れ、悠久の時を超えることで根本的に相違した未来
かつて想像された異世界の様な暮らしが広がる世界だ
魔法や魔物が存在するのに過去の遺物と呼ばれる銃や「キコウ」なんてものが存在する
そんな世界で東の果てにある辺境村「ヒイロカ」では
古代碑が残っていた
「ゲンダイなる時より出でし魔物「ユウキ」呪われしその運命を喰らう「キコウ」操り解き放つ
巫女の一族「カガク」その名を持ちて女神と英雄に力を貸さん
英雄の名を「アマテラス」女神の名を「イザナミ」
すなわち世戻しの御伽なり」
古代碑は村の人々にとってそこまで重要ではなく
ど真ん中に壊せない塊がある程度にしか思われていなかった
あの時までは・・・・・・
「アーちゃん? お腹でも壊した? 」
背はそこまでだが整った顔に艶のある黒短髪
見た目的に美少女の様な少年は
顔を覗き込む
「いやわかるでしょ? 料理場の惨状に目眩してることくらい」
肩まで伸びた青髪にスラッとした長身の女性
あどけなさの残る顔は可憐な上に少しお上品と言った印象を受ける
そんな彼女は目をつぶり片手で顔を押さえながら呆れていた
「だってアーちゃんが料理が食べたいって言ったから・・・・・・」
不安と申し訳なさを全面に押しだしながらオドオドするのは少年のいつもの癖で
つい許してしまうことが甘やかす原因だと理解した上でやんわり叱る
「料理は後片付けも含めてだからね?美味しかったけどさ・・・・・・」
美味しかったという言葉で後ろから光りが射したかと見間違う笑顔になった
この時点で多分、わかってない
そうこの少年「ユウキナ」は少し頭が悪く
それだけで済めば良かったのだが天然も混じる
そしてアーちゃんこと「アマテラ」は
ほぼ教育係として面倒を見ており
とてつもなく懐かれている
事の発端はいじめられていたのを助けたことだが
ことあるごとにその現場に出くわし守るうちに
好意を向けられ、友達になってくださいと告白じみたことを
村のそういう場所でやらかされ
周りから完全にそういう二人扱い
そして現状に至る
「ユウキナ? お皿の洗い方わかる? 」
「木のツタを丸めたものに泡立つ木の実だよね! 」
ドヤ顔に少しイラッとしたが
「はははっ! よく知ってるね・・・・・・」
と大人の対応
この二人、年齢はそこまで変わらない
村の外れの丘
「なんだ? あの黒い土煙は? 」
外れの丘に住む鍛冶屋「ハガネ」の店主で鍛冶師「ハガネ」は
遠くに黒い塵を纏いながらこちらに進む土煙を確認
一応にも村にマニアと学者の狭間が居たので
伝書鳥に手紙を持たせ飛ばし
多分、興奮して調べるだろうと仕事に戻る
「すみませ~ん、刀が欠けちゃって・・・・・・」
「こっちは盾が~」
「はいよ~! 」
この土煙が世界中でとてつもない脅威だとは村はまだ知らない
ところ戻ってユウキナとアマテラは
調理場を片付け勉強をしていた
勉強と言っても本を読む程度だ
「アーちゃんって冒険もの好きだよね~」
「そうね、騎士様が姫様をってのが憧れるかな? 」
「騎士様・・・・・・」
ユウキナは少し考えたあと
思いついたような仕草をした
「ゆっユウキナ? 変なこと考えてないよね? 」
「うっううん」
首を横にぶんぶん振り回す
こういうときは大体、馬鹿なことを考えている
「言っておくけど騎士ってのは魔物とか悪漢とかを相手にするから
ユウキナは無理だと思うからやめなさい」
ガーンっとショックを受けしょんぼりする
やっぱしか・・・・・・と安堵するアマテラ
そんなやりとりのしていると
村が騒がしいことに気がつくアマテラは窓を覗いた
偶然だが外を走り回る人と目が合い
目が合った人がドアの方へ走ってくる
ドンドンっ! とよほど焦りがあるのか
叩きかたが雑だ
ドアを少し開けたところで一気に引っ張られ
とっさにドアノブから手を離す
「大変だ! なんかすごい勢いで魔物の群れが迫っているぞ!
お前達、子供は「ハガネ」の近くにある屋敷に逃げろ! 」
あと一年で大人なのにな~と心で思いながら
ユウキナと逃げようとして振り返ると
眠っていた
「ユウキナ~起きろ~」
文字を読むと眠気が来るくせに本を一緒に読みたがる
不思議だなと感想を浮かべながら
頬をつつく
「ふぇっ? 」
素っ頓狂すぎて少し可愛いと思ったが
「ハガネのおっちゃんとこまで用事があるんだけど一緒に行かない? 」
寝ぼけが取れるまで数秒かかったが
「うん! 恋人ごっこだね」
違えよとツッコミを入れそうになったがぐっと堪え
「はははっそうだね~」
二人が丘の方へ進むのを確認した村人は
「これで最後だな・・・・・・キサラさんなら気立てもいいし
少しは持つだろうか? 」
胸につけていたペンダントを握り
目に少しだけ涙を浮かべ
空を仰ぐ
少し時間が戻ってユウキナ達が調理場の半分まで片付けていた頃
村の会議所では重鎮が集まり深刻な顔をしていた
「マガノユウキ」と会議所の黒板みたいな白い板に書かれており
それについて話していた
ハガネの親友、学者の「カキ」は見解を率直に話す
「先ほどハガネから黒い塵のようなものを纏った土煙がこちらに進んでいると
伝書鳥が来ました、このままではこの村はマガノユウキに壊されるでしょう・・・・・・」
村長の「トウロウ」はもとより険しい顔をさらに険しくし
長く伸びた顎ヒゲをさすりながら唸っている
「決断は早いほうが賢明かと思われます」
念を押すのは戦うにせよ、逃げるにせよ
同じだからだ
完全に助からない
マガノユウキは周りに有毒の因子を纏ったもの
つまり触れなくてもあちらが近くにいるだけで
すべてが腐食または崩壊する
大人達は一様に黙りこくり進まない
業を煮やしたカキは
「時間がないんですよ! せめて子供達だけでも逃げしましょう!
そうすればいずれ村は復興します」
そんな言葉にトウロウは鼻を勢いよく鳴らす
「悪童がこんなに成長しよってからに意見を通そうとはのう」
トウロウは目配せを大人達に送り
「悪童がこう言っておる、早急に伝令を走らせい
有志で構わんがわしについてこれるものはおるか
時間を稼ぐために久方ぶりに護界を張る」
胸のペンダントを握っていた伝令役「ハシ」は親友ハガネの呪防防具を呼び出し
身に纏うとまた走り出す
土煙の方へ
明日、また子供達と笑うため
そして愛する女性へ疲れたと愚痴を言える未来のため
屋敷に着き大きなドアを叩くと
メイドと執事が出迎えてくれた
「ようこそ~っキサラ邸へ! 」
「サクラ、お淑やかにですよ」
元気な若いメイドにクールでメガネの若い執事が注意する
しかしメイドは
どこかのおばさんかと言わんばかりの豪快な笑い方で
執事の肩をバシバシ叩く
「痛いんですがね・・・・・・」
「筋肉すごいくせに~」
メイドの一言に顔を赤らめ
「なっなんで知ってるんですか!」
思わず声が裏返る執事を無視して
「広間にとりあえず案内するね~」
「サクラ! 待ちなさい! 」
「大丈夫、お風呂をいつも覗いてるだけだから~」
その言葉にユウキナが
「なるほど~その手が・・・・・・」
「覗かないでね? 無視するよ」
申し訳なさそうにごめんと謝り
手を握ろうとする
アマテラも慣れているのか
はいはいといった感じで受け入れる
「仲がいいのね~妹さんなら覗かれたって大丈夫じゃないの?」
「ユウキナは男です・・・・・・」
えっ? と驚き
取り繕うかのように
「なるほど~ボーイッシュな女装なのね~」
ユウキナは言葉がわからず首を傾げ
アマテラに聞こうと顔をみると
静かに首を横に振られ口元でしーっとされたため
さすがに躊躇い黙る
そうこうしているうちに広間へとつく
「お前らも来たか、女モドキとその先生様ぁ~」
露骨に嫌みを向けるのはいじめっ子もとより
ガキ大将の少年
「暇だな~井の中の蛙は鳴くのに必死すぎて笑える」
ムッとしたがふんっとふんぞり返りどこかへと去る
「言うね~アマテラ? ちゃんは~」
「あまり関心はしないな、女子が使う言葉ではない」
やっと平静を保った執事が正論なのか優しさなのかわからない
言葉を向けると続けて
「だが勇ましい女子は男に火をつけるものだ
もし隣の男が迷っていたら躊躇なく蹴ってやれ」
「あれ~そういう趣味~? 」
「からかうな・・・・・・」
呆れていると大きな鐘の音が鳴り響き
執事とメイドは顔が怖くなる
「ユウキナとアマテラと言ったか屋敷の周りに魔法を張っておくから
解けない様に屋根裏部屋の維持印を見ておいてくれ」
「地図はこれよ」
そう言い残すと怖い顔で走って行った
「どうしたんだろ~」
「さあね」
村の境界戦線
「トウロウ様は今でも現役か? 」
「これならきっと・・・・・・」
大人達は歓喜したが
トウロウ本人は苦い顔をしていた
護界は張ったが恐らくすぐに崩壊すると直感でわかっていた
「油断するでないぞ!皆の衆」
「はっ! 」
屋敷の屋根裏部屋
「すご~い」
「絶景だな、ん? 」
遠くに煙りが見える
ユウキナも苦虫を噛みつぶした様な顔になる
「あの煙、苦しいって言ってる・・・・・・」
「? 」
「そういえば、父さんの写真を置いたままだったな~
取りに行こうかな? 火事みたいだし」
独り言のようにぼやく
「そうだ、ユウキナ! 見といてよ」
「嫌だ・・・・・・」
「でもだれかが見とかないといけないしな~」
「そういうことじゃないよ! 」
いきなり大きな声を出すユウキナにアマテラは驚く
「どうしたの? じゃあ、一緒に行けばいいの? 」
「うん・・・・・・」
屋根裏部屋の事をガキ大将に口車で任せ
村へと引き返す二人
これがやがて世界の命運を握ろうとは・・・・・・