30.灰原めぐみ「緑埜航平 VS 灰原めぐみ」
「わったしは、おっうちの修理屋さぁ~ん♪」
わたしがセメントで修復してるのは、黒咲家の壁。
そう! 総帥がぶっ壊した壁さ!(わたしのせいで)
何度も経験してるから、修復は慣れたものお♪
そして、この作業が一段落したら、敵の調査にGO!
けど、どこに行けば会えるのかなあ?
悩むわたし。
敵とはもちろん、緑埜航平さ。
そう、今、道路を挟んだ向かい側から、こっちを見ている男。
「ぬぼふぉるふぁがぁっ!!」
み、緑埜航平い!
まさか、敵の方からわざわざ調査されに来るとわあ!
わたしは落ち着こうと、手に持っているうずまきキャンディーを舐めたら、間違えて右手に持ってるセメント付きの鏝を舐めてしまったから、口の中がセメントだらけ!
慌てて、口内洗浄!
「ぶくぶく、ぺっ! ぶくぶく、ぺっ!」
口内洗浄完了後、緑埜航平を見ると……、なんと! 弊社図書館に入って行くではないかあ!
も、もしや! 葉菜様に危害を加えようとやって来たのでわあ!?
いや、なんにしても好都合! 探す手間が省けたという物お!
しっかし、敵って……、なんの敵なんだろう?
【漆黒の亡霊】に敵対する者と言えば、ボウエイジャー関連、もしくは国防省。
それとも、葉菜様の個人的な敵? 恋のライバル??
図書館内に従業員専用口から入ると、総帥、いえいえ、館長も緑埜航平の存在に気付いた模様。
「もしかして、あれが葉菜の敵的な男かな?」
「……間違いないかと」
館長の「テキテキ」という言葉の意味を理解するのに、ちょっと時間がかかったけど、「テキテキ」って響き、なんか可愛い♪
「灰原さん、口になんか付いてるよ」
「セメントです」
「給料増やそうか?」
「食事に困った結果ではありません」
わたしが、緑埜航平の追尾を再開したら、館長もあとからついてきた。
「館長は待機しておいてくださいい!」
「いーや、俺も行く! 葉菜の敵的な男だぞ?」
仕方ないので、二人で男を追尾したけど、緑埜航平はつけられていることに気付く様子はまったくない。
歩く様子から、どうやら目的地があるわけではなさそうねえ。
やっぱり、葉菜様を探しているのかあ?
途中、『特撮ヒーロー大図鑑』を手に取った緑埜航平は、鼻の穴を膨らませ、更には目も膨らませて、10分ほど読んだ。
本を読むときは、変な顔になる人種?
館内を一周した緑埜航平は、大きなため息を吐いた。
「運命の図書館やと思たのに……」
そう言って、図書館を出た。
「あとは任せた」
「はい」
図書館を出た緑埜航平は、赤い髪の濃いめの顔をした男と合流した。
もしかして、アイツも敵ぃ?
でも、葉菜様、緑埜航平のコトしか言ってなかったしなあ。
ここで、わたしは重大なことに気付いたあ!
緑埜の「緑」と、髪の「赤」!!
そう! クリスマスカラー!!
「だからなんだ」という苦情はさておき……、わたしは二人のあとをつけた。
しかし……、行くとこ行くとこ、おもちゃ屋さんばっかり!
そして、なぜか常にぬいぐるみコーナー!
なに? クリスマスプレゼントでも買おうとしてんのお?
早すぎるでしょお! 今は春!
で、散々歩かされた挙句……、ここは知ってる。
葉菜様がよく行く、和菓子メインの喫茶店だ。
二人は店の奥の方の席に座った。
わたしは入口の近くに座り、眼鏡をかけて文庫本を読みながら、二人を観察した。
どうみても、落ち着いて本を読むために喫茶店に来た美少女ね。
んー、やっぱ、葉菜様を襲おうと、葉菜様がよく行く場所を調査してんのかなあ?
でも、おもちゃ屋は関係ないしなー。
「ここで待ってたら、ホントにハラちゃん来んのかよ」
赤い髪の男が言った。
ハラちゃん? 誰?
パッと出てくる原さんと言ったら、小説家の原民喜さんと、児童文学の原ゆたかさんぐらいしか……。
あー、葉菜様に影響されて、脳が図書に侵されてしまってるう!
おおっ! 大事な人を忘れてたあ! みなさんご存知、原吉彦さんだあ!
あの人がこの店に来るのかあ!
グルメレポートかなあ。わくわく!
原吉彦さん! そう! 芸名、彦摩呂!
ん? ここで、チャンス到来!?
赤い髪の男が、トイレに立ち、私の横を通り過ぎて行った。
これで、緑埜航平は一人。
わたしが女の魅力を醸し出して、甘い声で「相席いいですか?」って言えば、断る男はいない!
そして、あの技で根掘り葉掘り訊きだしてやろう!
わたしは、緑埜航平のところに行った。
「あのお、相席いいですかあ?」
「あ、ツレがいるんで。すんません」
ソク、断ったあっ!!
て、手強い!!
「戻ってくるまで、戻ってくるまで」
わたしは強引に、赤い髪の男が座ってた席に座った。
「断ったんやけどな。ってゆーか、自分、図書館からずっとついてきてた人やんな?」
ばれてるう!! な、なんで??
エリート諜報員としてのプライドがあ……。
「いえいえ……、そ、そんなことは……」
苦笑いしか返せないい……
「けど、尾行のセンスは結構ええと思うで。スパイみたいな仕事とか合うてんちゃう?」
やっとんねん!
おっと! 心の中とは言え、緑埜航平に影響されて、大阪弁になってしまったあ。
「そ、そうかなあ」
「口の周りになんか付いてんで」
「セメントです」
これはすぐに返せたあ! 二度目だからねえ!
しかし……、さっきから、すごい質問責めを受けてる。
本来、わたしがいろいろ訊くはずなのにい!
ただ、緑埜航平からの次の質問は、わたしが攻撃態勢に入るきっかけになった。
「ところで、飲食店にアメちゃん持ち込んでええの?」
緑埜航平は、わたしが右手に持ってるうずまきキャンディーを見て言った。
はい、チャンス!!
「ああ、コレェ?」
わたしは、うずまきキャンディーの表面を緑埜航平に見せ、ゆっくりと円を描くように回した。
「う、うん……」
緑埜航平の目が虚ろになってきた。
そう、このうずまきキャンディーは、ただのおやつではないぃ!
わたしが、催眠術に使う道具なのさ!
緑埜航平の目は完全に焦点を失い、頭はゆっくり揺れている。
この状態を見れば、催眠状態なのは明らかだけど、わたしはいつものように状態を確認した。
「その場で三回まわって、ワンと言え」
催眠状態になっていれば、わたしの言うことを聞くはず。
さあ! 来いっ!
「その場で三回まわって、ワン!」
お、おう……
三回まわってほしかったんだけど……一応、かかってるよね?
「名前は?」
「……緑埜航平」
よし! 大丈夫そうねえ。
「黒咲葉菜のことは? 知ってる?」
「うん……、もちろん」
やっぱり、知ってるのかあ。
どこまで知ってるんだろう。
「黒咲葉菜の、何を知ってるの?」
「顔……と、名前。趣味が……、読書。女子大生……愛犬がトイプードルのマルク……」
そのほか、誤情報も含めていろんなことを言ったけど……
葉菜様が漆黒の淑女だってコトは知らないようねぇ。
「黒咲葉菜のことを、どう思ってる?」
「大好きや」
食い気味に答えが返ってきた。
大好き?
なぜ??
「あなたは、黒咲葉菜の敵じゃないの?」
「敵やない。何があっても味方や」
わからない。
葉菜様はこの男のことを敵だと言った。
この男は葉菜さまのことを味方だと言う。
どういうこと?
「あなた、いったい何者?」
「ぼ、僕は……、と、特警戦……隊、ボウエイジャーの……」
「――!」
「……緑の拳士や」
こ、こいつが……、ボウエイジャーの緑の拳士!!
大物ゲーーーーット!!!!
「キュピーン!」
わたしは右手に持ったうずまきキャンディーを掲げた。




