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25.緑埜航平「唸りの原因」

2019年8月26日 「プロローグ」を改稿しました。

※本筋は変わっていないので、読みなおさなくても本編を読むのに影響はありません。

 ヴゥーーーー、ヴゥーーーー


「ちょっと、誰か、ケータイ鳴ってんじゃないの?」


 残念やけど胡桃沢、それは僕の(うな)り声や。

 僕が唸ってる原因は沢山(ようさん)ある。



【唸りの原因①】


 昨日の晩、帰宅した後に自分の部屋でいつもの「女々しいチェック」をした。

 胡坐(あぐら)をかいた脚の上に、ミニチュアダックスのマルクを乗せて。


「なんでや!」


 大声で叫んだらマルクが一瞬びくっとしたけど、そのあとすぐ、僕の顎をペロペロ舐めた。


 自信はあった。自信を持つ根拠もあった。

 せやのに。


 10位 緑の拳士(グリーン) 10,743票


 ランクダウンや……

 ゼラチンマン戦では、結構活躍したはずや。

 せやのに夜のニュースで、僕はほとんど映ってなかった。


 ようあそこまで上手いこと、緑の拳士(グリーン)が映らへんように編集できたもんや。

 ある意味感心するわ。

 ニュースではいつの間にか漆黒の淑女(ブラックプリンセス)のほっぺたに傷がついてたし。


 せやけど、悪いことしたな。

 黒革の鎧(レザースーツ)で覆われたとこに()てるつもりやったのに、まさか顔に(あた)ってまうとは。


 けど、自分で『淑女』を名乗るような痛いヤツや。

 だいたい、自画自賛する名前を付けるもんに、ロクなヤツはおらへん。


『誠実ファイナンス』なんていう貸金業者があったら、怖くて借りられへんし。

「国内最高の評価!」って(うた)ってる企業にも根拠があらへん。

『○×信用金庫』は……、まあ、それはええとして。


 とにかく、「淑女」っちゅう言葉は漆黒の淑女(ブラックプリンセス)なんかより、葉菜さんにこそ相応(ふさわ)しい。



 で、僕は、ランクダウンが原因で叫んだ……、わけやないっ!!

 それよりも、こっちや!!


 8位 ゼラチンマン(妖魔獣) 36,021票


 いやいや、あいつ、なんも活躍してへんやんけ!

 けど、イケメン好きの女とか、美人好きの男からの票を集めたらしい。

 どうせ投票したんは、オッサンとかオバハンに決まってるけどな。

(※負け惜しみ)


 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-


 ダルメシアンが二足歩行で近寄って来た。

 正確に言うたら、ダルメシアンの着ぐるみ姿の胡桃沢や。

 明らかに何かを怪しんでる顔や。


「さっきからケータイのバイブが鳴ってんのに、そのケータイが見つからないから、おかしいなって思って音源を辿ってみたら……」


 胡桃沢は僕の口元を見て言うた。

 ふん! どうやら、気付いたようや。


「ミドくん……、ケータイ食べた?」

「食うかっ! 雑食にもほどがあるやろ! 餓死寸前でも食わへんわ!」

「え? でも、ミドくんの口の中から音がしてんじゃん!」

「悩んどんねん! 考えとんねん! 唸っとんねん!!」

「あ、そういうことか。ま、どっちでもいいから、唸んのやめて! うるさいから!」


 そうや。うるさいからや。



【唸りの原因②】


「ちょっと、コウちゃん、うるさいよ!?」


 僕が叫んだせいで、妹の若葉が部屋に入ってきた。

 若葉は僕のことを「コウちゃん」って呼ぶ。


 マルクが若葉の足をペロペロ舐める。

 マルクよ、若葉はブーツを長時間穿くタイプの女やぞ。


 そうや! 妹でも女や!


 腐っても鯛や!

 ネズミでもミッ○ーマウスや!

 若葉でも女子大生や!


 若葉に相談してみよ。

 ちゃうちゃう。どうやったら、緑の拳士(グリーン)に人気が出るかを訊くわけやない。

 葉菜さんのことや。


「あんな、若葉。ちょっと相談に乗ってくれへん?」


 そう言うたあとで、何を相談したらええか戸惑った。

 今、教えてほしいことゆうたら、「どうやったら葉菜さんに会えるか」や。

 けど、そんなこと訊いても、「知るか!」って言われんのがオチや。


「あのさ、コウちゃん。相談に乗ってほしかったらさ」

「なんや」

「なんか買ってあげるとかないの?」

「は? どういうことや」

「だから、カワイイ妹に服とかアクセとか、買ってあげようとか思わないの?」

「可愛い妹の場合()()、買うたろと思うわな」

「やったーっ!! じゃあさ、若葉、欲しいバッグが……」

「意味わかれや!!」


 若葉は、キョトンとした顔を見せやがった。


「可愛い妹には買うのに、お前に買わへんってコトは、お前が可愛いないってコトやろ!」


 若葉はゆっくり頷いたあと、人差し指を立てた。


「それって、タマゴが先かニワトリが先かってコトじゃないの?」

「哲学的な話か?」

「だから、可愛くないからバッグを買ってあげないって言うけど、バッグを買ってあげるコトによって、可愛くなるかもしれないじゃん」

「ならへんかもしれへんやないか!」

「けど、なるかもしれないじゃん!」

「なんで俺がそんな、ハイリスク・ローリターンの博打(ばくち)せなあかんねん!」


 妹に対しては一人称が「俺」になる僕や。


「だいたい、無料(タダ)で家に住まわしてもろてるだけでもありがたいと思え!」

「出た! 誰のおかげで生活できてると思ってんだ! はい、昭和の親父ぃ」

「全然ちゃうやろ! 元々、俺にお前を養う義務はあらへんねん!」


 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-


 そんな不毛な喧嘩をしたあと、結局(なん)か買うたるコトになってもた。


 ポペポペッ♪


 スマホにメッセージが届いた。若葉からや。

「若葉、コレにする」っていうメッセージと、高級ブランドバッグの写真や。


 スマホ画面を見てたら、また、二足歩行ダルメシアンがこっちに来た。


「ちょっと、ミドくん。やめてくんない?」

「は?」

「LINEの着信音みたいな唸り声!」

「できるか! わしゃ天才か!」


 ツッコミのときには、一人称が「わしゃ」になることも多い僕や。



【唸りの原因③】


 昨日は戦闘(バトル)のあとすぐ、葉菜さんと行った喫茶店に向かった。

 用事を済ませた葉菜さんが、戻って来てるかもしれへんからや。

 天才や!


 喫茶店に向かう途中、『小江戸屋』の前で赤羽さんに(めし)に誘われたけど、そんな場合やない。


 ……けど。結局、喫茶店に葉菜さんはおらへんかった。


 葉菜さんと連絡を取りたい!


 キャバクラは辞めた言うてたから、待ち伏せもできへん。


 ダルメシアン胡桃沢に、葉菜さんの連絡先を訊くっちゅう方法は既にやった。

 けど……


「無理! そんな、どこの誰かもわかんないミドくんに、親友の個人情報を教えれるわけないじゃん!」


 ミドくんやん! 国防省特殊警備隊のミドくんやん!


「ほな、学校の名前だけでも!!」

「絶対無理! 学校に来るつもりだよね! ホント! マジ、タピオカなんだけど!」


 意味はわからんけど、怒ってるのはわかった。


 -・-・-・-・-・-・-・-・-・-


 結局、自分でええ方法を考えるしかないわけや。


 僕は、スマホでモーツアルトの音楽をかけた。

 モーツアルトの音楽は、頭が良くなるらしい。

 せやから、ええ案が浮かぶはずや。知らんけど。


 俯いて考えてたら、視界に影が入ってきた。

 顔を上げたら、そこにおったんは、二足歩行ダルメシアンや。


「ちょっと! 『ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調 戴冠式(たいかんしき) 第三楽章』みたいな唸り声、やめてくんない!」


「わしゃ天才か! ほんで、お前も天才か!!」

久々、緑埜視点の物語です!

が、久々だと、大阪弁の地の文の書き方を忘れてしまいますな^^;

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