18.桐山真司「魅了獣 ゼラチンマン」①
緑の拳士が最後にやってきて、【特警戦隊ボウエイジャー】が全員揃った。
少しでも被害を少なくするためにレヴナントと戦っていた俺たち国防隊員だが、彼らが全員揃えば、民間人の交通規制や野次馬の整理にまわる。
戦場である表参道の交差点の四方を国防隊員が封鎖した。
ボウエイジャーと妖魔獣の戦闘にはパターンがある。
まず、20体ほどの下っ端、レヴナントとの戦闘があり、そいつらを全員倒した後に主要となる妖魔獣との戦闘になる。
俺たちは戦ったとしても、レヴナント戦までだ。
しかし、なぜ国の組織である俺たち国防隊が、民営ヒーローのボウエイジャーの援護をしなくてはならないのだ。
これならまだ、緑埜のように総務三課にまわされた方がマシだったかもしれない。
同期入社の緑埜航平は、俺と一緒に国防隊員として第一線で活躍するために、日々訓練を積んできた。
しかし、あいつは一年半前、突如として総務三課に異動になった。
国防隊員としての資質がないと判断されたのだろう。
しかも、国防省施設の一階に窓口として存在する花形の総務一課、二課とは違い、総務三課は最上階の八階に部屋を構えている。
国防省の資料や不要になったものが保管されている倉庫、つまり三課は倉庫番だ。
要は、国防省のお荷物として三課に異動させられたのだ。
俺たちみたいに、国民のために命を懸けることもなく、ヤツは気楽に毎日を過ごしていやがる。
【特警戦隊ボウエイジャー】の5人が、横一列に並んだ。
センターに赤の剣士、その横に青の槍士と桃の術士、両端に黄の戦士と緑の拳士だ。
漆黒の淑女は、表参道交番の屋上に立ち、5人を見下ろしている。
そして、ここから5人がそれぞれ、自己紹介と決めポーズをするのだが……、ここ半年近くは、黄の戦士と緑の拳士の自己紹介を聞いていない。
その理由は、これから始まる彼らのそれを見ればわかる。
まずは、いつものように赤の剣士が先陣を切った。
「燃え盛る深紅の炎が焼き尽くす! ボウエイ赤の剣士!」
赤の剣士が大仰なポーズを決めた。かっこいい。
次は青の槍士だ。
「不可避の刃は絶対零度! ボウエイ青の槍士!」
冷静沈着な青の槍士に調和した、流れるようなポーズだ。
ただ、問題なのは次の桃の術士だ。
「豊胸手術で胸の谷間をつくりたい! これがホントのシリコンバレー! ボウエイ桃の術士!」
とても正義の味方とは思えない。
「何を言うとんねん! お前の乳の改造計画なんか、誰も興味ないわ!」
「あー! 緑の拳士、また大阪弁でてるし!」
こんな感じで、緑の拳士と桃の術士の言い合いが始まる。
「特警戦隊!」
それに構わず、赤の剣士がきっかけのセリフを言うので、
「「「「「 ボウエイジャー! 」」」」」
5人は声を揃えてポーズを取るしかない。
黄の戦士と緑の拳士の人気ランキングが低いのは、この一連の流れも要因のはずだ。
「はぁーっはっはっはっは!! 貴様ら! ボウエイジャーを殲滅してしまえっ!」
漆黒の淑女が、いつもより一際大きな声で指示を出すと、残っているレヴナントが、ボウエイジャーに向かって行った。
しかし、レヴナントなど、5人にとっては子どもを相手にするようなものだ。
ボウエイジャーはレヴナントを次々と、そして鮮やかに倒していった。
そして、妖魔獣『ゼラチンマン』が、ゆっくりと5人に向かってきた。
しかし、このゼラチンマン……、過去最強の敵と聞いていたのだが……。
手にはフェンシングのフルーレを持っているものの、見た目は人間。
身体の線は細く、所謂王子様のような恰好で、いかにも弱そうだ。
きっと、ボウエイジャーが瞬殺で勝負を決めるだろう。
彼らの強さと頑張りを、総務三課の緑埜も見習うべきだ。




