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月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~  作者: 沢鴨弓摩
第三章

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第二話 脇の甘さ、解ける固さ

「そこにある長いドライバー取ってください」


 多駆郎の家。

 一部の機器が稼働音を響かせている。

 正式な開発品ではなく試作品から始めてみることに。


「プラス? マイナス?」


「ああ、マイナスで」


 使いたい機器が思うように動かない。

 結局メンテナンス時間となってしまっている。


「これは厳しいかな」


「動かないの?」


「いや、こいつは時間を掛ければなんとかなるけど……自分が、ね」


 片手を口に当ててクスクスと笑っている。


「ちょっと。大学生がそんなこと言わないで」


「二日連続で厳しい態勢を続けていたら、歳は関係なく厳しいと思う」


「確かに何屋さんか分からなくなってきているわね」


 設備の隙間に挟まるようにして裏側で修理をしている。


「ほんとだよ、まったく。せっかくやる気を出したというのに」


「やる気が出てなかったの? それ、結構私はショックを受けるのだけど」


「……そうだね。ごめん」


 多駆郎との仲が打ち解けてきている。

 それは言葉遣いから容易に伺える。


「そろそろ休憩にする? 身体が疲れたら仕事どころじゃなくなるし」


「そうだね。研究所の方に頼んだ方が良さそうだ」


「それなら私から連絡しておくわ。そういう雑務が役目でもあるから」


「そういうのを頼めばいいのかな。なんだか申し訳なくなっちゃうんだ」


「私の仕事だから頼んでくれないと、所に怒られちゃう」


「……なるほどね。遠慮するところじゃないのか」


「その通り。どんどん言いつけてくださいませ」


「苦手な事なんだよな、そういうの」


 軽く笑い合って作業に区切りをつける。

 気楽に話せるようになって、多駆郎も肩の力が抜けてきたようだ。

 すっかり多駆郎宅内での動きがスムーズになった浜砂。

 すぐに休憩用の紅茶を用意する。

 そして徐々に浜砂ナイズされている事に多駆郎は気づいていない。


「さあどうぞ。今日は紅茶を持ってきたので、お口に合うといいな」


「家で喫茶店のような飲み物が飲めるのはありがたい」


「お店のようには美味しくできないけれど。少しは良いものにしているわよ」


 食卓に座り向かい合う。

 この光景が当たり前の毎日になってきた。

 多駆郎は目を合わせて話をするようになった。

 浜砂も固く感じた空気が柔らかくなっていることを実感しているようだ。

 お茶の飲み方もリラックス感を感じさせている。


「この後どうする? 設備が直ったらすぐに始められるように作業フローを作る?」


「それがいいだろうね……というか、それぐらいしないと所の仕事をしている気がしないし」


 後頭部をかきながら話す多駆郎。

 まだ申し訳ないと思っているのかもしれない。


「もお、私に合わせてどうするのよ。助手よ? あなたの思うようにするために来ているんだから。今後遠慮は無しね! じゃないと私は怒られるんだってば」


「そうは言ってもね。なかなか切り替えるのは難しいよ」


「それなら遠慮するたびに私が修正するから。その都度直してみてよ」


「……それなら、やれるかも」


 手先は器用でも心が不器用な多駆郎にとって、有難い提案と言えるだろう。

 何をすれば良いのか道を示してもらえば動ける。

 不器用なのは、行動を起こすための道を探せないということなのだから。

 また、動きの方針が決まった浜砂。

 多駆郎の隙へ畳みかけるように入り込んでゆく。

 脇の甘くなった多駆郎は受け入れるのみとなっていた。

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