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月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~  作者: 沢鴨弓摩
第二章

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第九話 初めての喧嘩

 雨の月曜日。

 梅雨入りして二週間が経った。

 今年は梅雨入りすると雨が降らなくなる、なんて言葉を聞くことが無い。

 強弱はあるものの、雨は毎日降り続いていた。


 三年C組ではいつもの三人が集まって会話中。

 場所も奏の席だ。


「お泊り会をしたのですか!? ああ、私も混ざりたかったです」


「ごめんね~。奏から聞いた案だったから呼ぼうとは思ったんだけど、弟がさ」


「弟さん?」


「そ。早貴の妹ちゃんと付き合っているからさ~。いっしょにお泊りってことになったから」


 驚いたようで、奏は少し身を引いてから体勢を戻した。


「そうなんですか! 二人の周りでは色々なことが起きているのですね」


 早貴と千代が苦笑顔になる。


「弟さんと妹さんが付き合っているって、どんな感じなんでしょう」


「そうねえ、ウチらって幼馴染だから弟と妹ちゃんも幼馴染なのよね」


「なるほど」


「でさ、早貴の妹、香菜ちゃんは学校で超人気らしいのよ」


「さすが姉譲り、あ、続けてください」


 早貴が首を傾げて尋ねる。


「アタシ譲りって言った?」


 奏は咳払いをして話を逸らす。


「妹さんが人気だと何かあるんですか?」


「やっぱりさ、告白されまくるわけよ。仲の良い友達が守ってくれているらしいんだけどね」


「守られる程に凄い人気というと、二人程会ったこと、あ、どうぞ」


「ん? そういう人に会ったことあるの?」


 逸らし技の咳払いは使ったために一瞬悩んで両手を叩いた。


「そうだ! 私、香菜ちゃんさんに会いたいです!」


「ああ、そうね。今度奏と綾に紹介しようか」


 奏は握った両手を胸の前に構えて上下に振ってみせる。


「是非是非!」


「あは~、奏可愛い」


 拳の上下振りを止めた奏が頬を膨らませる。


「そういうのはいらないですう」


「可愛いんだから奏が悪い」


 そう言って早貴が大好きな奏の頬を指先で押した。

 奏はそれを払って対抗する。


「やっぱり綾に簀巻きを頼みます!」


「早貴ってば。奏を怒らせないの!」


「怒っても可愛いんだもん」


「千代ちゃんの教育がなっていませんね」


「き、教育!?」


「アタシは千代のペットか!」


「同じようなものですう」


 千代は早貴の腕を掴んで教育をしてみる。


「早貴、お止め」


「ああ! ペットにしたなあ!?」


 奏はそれを見て噴出し笑いをした。


「あはは、そうです。早貴ちゃんはもっと教育してもらってくださいね」


「奏さん? ちょっと酷くない!?」


 千代が奏の肩を軽く二~三度叩き、二人で笑っている。


「もう! それより香菜の話はどうしたのよ」


「そうだった、あはは。脱線しちゃったね」


 早貴はプイッと横を向いた。

 千代が話を本線に戻す。


「それでね、あたしが弟に香菜ちゃんを守りなさいよって話をしたの」


「うわあ。幼馴染ならではのお話ですね」


「その話をしてから何日も経たずに弟から告白したって報告受けてさ」


「凄い。急展開です」


「でしょ? あたしもびっくりしたわよ。最終的にそうなってくれたらとは思っていたけど」


「千代ちゃんはお二人に付き合って欲しかったんですか?」


「うん。だってどう見ても小さい頃から相性良さそうだったしね」


 早貴はずっと横を向いていた首を戻し、痛くなった首を揉み始めた。


「お姉ちゃんの失敗を見てきているからとか言ってさ。香菜はアタシをモルモット扱いよ」


 それを聞いた奏が左手のひらを右拳で叩いて目をキラキラさせた。


「やっぱり私が思っていた通りなんですね! 姉譲り……」


「さっきから何よ奏、姉譲りって」


 思わず口を両手で塞ぐが時すでに遅し。


「あ、その、恋愛経験が豊富な早貴ちゃんを見ていたからという部分で」


 早貴は腕を組んで背もたれに寄りかかった。

 息を吐きながら話す。


「姉譲りなら失敗しなさいよって言いたくなる。失敗したら失敗しないでよって言うけど」


「姉の複雑な気持ちね。生々しい」


 早貴のポケットの中で携帯が震えた。


「ですね。私は一人っ子なので兄弟姉妹の方たちが羨ましいです」


 話は千代と奏に任せてポケットから携帯の通知を確認する。

 チャットの通知だった。


『久しぶり』

『足首の方はそろそろ治った?』


 相手は木ノ崎だ。

 早貴は即答した。


『もう治ったよ』

『心配してくれてありがとう』


『そりゃ良かった』

『会って話がしたいんだけど』

『時間は取らせないんで』


「もうさ、完全に香菜ちゃんが主導権握っているから弟見てると面白くて」


「弟さんってお名前は?」


「とおる、だよ。」


 千代と奏の話が盛り上がっている中で早貴と木ノ崎は会う話を進めている。


『そうなの?』

『怪我のことならもう何も無いと思うけど』


『別の話だよ』


『少しでいいなら学校の空き時間で』


『良かった』

『じゃあ昼休みの来られるタイミングで』

『渡り廊下でいいかな』


『わかった』

『向かう時に連絡するね』


 全く話に加わらず、下を向いている早貴に気付いた二人がジッと見ていた。


「早貴、黙ったままだけどどうかした?」


 携帯をポケットに仕舞いながら答える。


「なんでもないよ。あの二人に関してはアタシと千代の情報レベル一緒だし」


「そう言われればそうだね」


 担任が教室に入ってきたのを合図に話は終了した。



   ◇   ◇   ◇



 昼休み。

 昼食を終わらせた早貴は席を立って約束の場所へ向かおうとしていた。


「どしたん?」


「ちょっとお花を摘みに行ってきます」


「ああ、はい。行ってらっしゃい」


 教室を出てから携帯を取り出す。

 全て約束通りに早貴は動いていた。


『今向かっていますよ』


『お、早いね』

『真ん中辺りにいるんで』


『(了解のスタンプ)』


 渡り廊下に差し掛かかる。

 廊下の壁際に少数のグループが点々といるのが目に入った。

 空いているスペースで壁にもたれかかっている木ノ崎を見つける。

 見つけられた視線を感じたのか、木ノ崎も早貴の方を振り返った。


「お待たせ」


「いや、思ったより全然早いよ。友達いるし、中々来られないと思っていたから」


「そこはどうにかしますよ~。それより、何?」


 木ノ崎は手に持っていたモノを早貴に見せる。


「チケット?」


「そう、映画のね。こういうのがやたら手に入る奴っているだろ?」


 どんな映画なのかが分かるように早貴に一枚手渡す。


「これっていろんなところで話題のアニメじゃない」


「俺よくわからないんだけどさ、凄く面白いらしいな」


 渡り廊下で話すのが恒例となっているグループの生徒達が、少々ざわつき始めた。


「アニメってどうかなとは思ったんだけど、良かったら一緒に見に行けないかなと思ってさ」


「映画かあ。映画館で観るなんて久しぶり」


 目をキラキラさせながらチケットを眺める早貴に木ノ崎は釘付けになっていた。


「アタシ、アニメ大丈夫だよ。というかこれ観たいなと思っていたから」


「そ、そうか。じゃあ、行く?」


「いいよ。これってもう上映されているのかな」


「今週金曜日からだから土曜日とか空いているならどう?」


「大丈夫だよ。時間は朝一番の回ならゆっくりできるかな」


「いいの? ゆっくりしても」


「映画久しぶりだもん。それに中々市駅の方へ行かないからどうせなら、ね」


 木ノ崎は軽く拳を握った右腕を腰の高さにしてガッツポーズをとる。


「よっしゃ、決まりな。でも俺とでいいのか? ここまで話しておいてなんだけど」


「色々心配してくれていたし、アタシも何かお返ししたいとは思っていたから。映画に付き合うぐらいで良ければ」


「あの事故は綿志賀さんが気にすることないからな、ほんとに」


 周りのざわつきが増してきたことに二人はようやく気付く。

 それをきっかけに教室へ戻ることにした。


「それじゃあ、なんだか戻った方が良さそうなんで」


「うん、それじゃあ」


 二人が離れた後は、各グループのトレンド一位となって話に花を添えた。



   ◇   ◇   ◇



 帰りのスクールバス。

 綾がバス一本遅ければ一緒に帰れるということで、奏は綾を待つことになった。


「なんかさあ、午後になってから早貴の顔が緩んでいるんだけど」


「ん? 普通だよ」


「普通じゃないよ。ニヤけてるもん」


「ニヤけてないってば」


 千代がグイッと早貴に迫る。


「自分じゃ表情分からないでしょ? あたしが見て言っているんだからそうなの!」


「どうしたの千代?」


「何かあるんでしょ?」


「何も無いよ~」


「何も無いのにそんなニヤけ顔にならないでしょ?」


「な~に? 今日は攻めて来るねえ。甘えたいの?」


「誤魔化されないんだからね!」


「ちょっと~、本当に何も無いよ?」


「ふ~ん。後で何かあるのが分かったら承知しないから」


「んもう、何かに嫉妬しているみたいだねえ。何かあるなら言っているでしょ?」


「それを言わないから聞いているの!」


「これは困りましたねえ」


 千代の勘が鋭い事に驚く。

 早貴は一つため息をついた。

 どうやら観念したようだ。


「わかった。多分あの事かな」


「やっぱりあるんだ。ん? 多分って?」


「いやあ、久しぶりだから顔に出ていたのかなあっていう事が一つはあるんだけど」


「あるんだけど?」


「うん、それ以外はいつも通りだから、それかなあって」


「まあいいや。それって何よ」


 息を吸い、ゆっくりと吐いてから答えた。


「木ノ崎君と映画に行く約束をしたの」


 早貴に迫ったままの千代が一瞬固まる。

 それからゆっくりと座り直し、早貴の腕を少々力を入れて叩いた。


「痛いっ! な、何?」


「浮気者……」


 千代は俯いてむくれていた。


「なんでそんな話になっているのよ?」


「なんでって、アタシも何かお返ししなきゃと思っていたところで話があったから」


「早貴がお返しすることなんて無いじゃない。怪我したのは早貴だよ」


「保健室へ連れて行ってくれたし、その後も時々心配して様子を聞いてくれていたの」


 それを聞いた千代は、自分の太ももを拳で叩いて怒りを露わにした。


「怪我が治ったんだからその件は終わりでしょ? なんで続くのよ」


「そんなに悪いことなの? アタシ、映画久しぶりだから楽しそうだなあって思っただけだし」


「相手はそれだけじゃないよ? 下心あるんだよ? 分かってる?」


「そんなの分からないじゃない! ただ映画を見に行くだけだよ? なんなの!?」


 千代に畳みかけられて、早貴も思わず声を荒げてしまう。


 他の生徒達がざわつきだした。

 当然だ。

 有名人二人が珍しく喧嘩をしているのだから。

 話の内容も聞こえてしまった。

 既に木ノ崎と二人で話していたという早貴のことは一部で広まっている。

 そこへ駄目押しをしてしまったようなものだった。


「じゃあ行けば分かるよ。その約束をしたことでどうなるのかが」


「千代に言われなくても約束したんだから行ってきますよ」


 売り言葉に買い言葉。

 珍しく二人は衝突してしまった。

 お互い引くに引けなくなる。

 こんなことは今までに無かったのだが。

 やはり関係をワンステップ進ませた所為なのか。


 バスの中は静まり返っていた。


 そんなことはお構いなしに二人は対立したまま。

 他の生徒も話が出来ず終いで日向駅に到着した。


「お疲れ様。仲良くしなよ」


 いつも言われる側の運転手が珍しく声を掛けた。

 それほどに珍しい光景だったのだ。


 バスを降りてから二人はこの状況で一緒に歩くはずが無く。

 早貴が先を行き、千代があえて距離をとって後ろを歩いた。

 いつものお別れポイントも素通り。

 千代は一旦ポイントで立ち止まったが、プイっと顔を横に向けて自宅へと向かう。


 ただ黙々と歩き続けた早貴は、自宅に着くのがいつもより早く感じられた。

 当然だ。

 歩きが速い。

 千代とお別れポイントで話をせずに真っすぐ自宅へ。

 近寄ってくる猫を構い、考え事をして歩みを止めるということも無かった。


「ただいま」


 母の時子が挨拶を返す前に早貴は二階へ上がっていった。


「おかえり……あら? もう上に行ったの? 何かあったのね」


 周囲から見て早貴がいつもと違う行動をとっている。

 それだけで何かあったのだと分かる程いつも同じ生活パターン。


 自室に入るなり、荷物を床へと雑に落としていく。

 そのままベッドへと倒れ込んだ。


「もう、なんなのよ! 別に映画ぐらいいいじゃない」


 寝返り、腕を枕にして呟く。


「久しぶりだから楽しみなだけなのに。アタシが楽しむことの何が悪いの?」


 そのまま香菜に声を掛けられるまでブツブツと呟いていた。



 五代家にて。

 自室で千代はデスクに突っ伏していた。

 そして突然顔を上げる。


「ああ! もうなんであんな風に言っちゃったかな。完全に嫉妬だ」


 頭を掻きむしりながら自分の失敗を悔やむ千代。

 髪をクシャクシャにしてまた突っ伏す。


「でも、なんで初めて会った男子をそんなに気に入ったのかな」


 転がっていた消しゴムで意味もなく机を擦る。


「なんだかすぐ付き合っちゃう子だけど、今の立場だと前情報くれてもよかったと思うんだ」


 消しゴムはゴシゴシと擦られている。


「そりゃあ、あたしは女だし男とは違うわよ。でもさ、でもよ! 付き合っている仲じゃない!」


 黒い汚れの付いていた消しゴムの先は、キレイになった。


「あ、キレイになった。でも机の光沢が消えている」


 机にへばり付いたカスを指で撫でる。


「やっぱり男がいいのかなあ。でも早貴って天然だし。先の事あんまり考えないんだよね。名前は早貴なのに。名前負けしているぞ~。こら、早貴」


 そう言いながら消しゴムをツンツンと突いてみる。


「はあ。早貴は悪魔だ。妹は小悪魔だし。あの姉妹にはみなさん注意してくださ~い」


 消しゴムは親指から放たれた人差し指によって机上の棚にシュートされた。


「こんなに好きにさせたんだから、放ったらかしにしないでよ」


 消しゴムの次に起用された机上の鏡を顔の前に持って来る。

 自分の顔を左右に軽く振りながら全体をチェック。


「あんまり可愛くないのかなあ」


「えっ! 千代ねえちゃん、可愛いよ!」


「へっ!?」


「ああごめん。声を掛ける前に中から聞こえちゃったから香菜が反応しちゃった」


「二人でウチに来てたんだ。姉さんがいるのに堂々と」


「ちがっ! ああ、もうそういう面倒臭いのはいいから。んで、どした?」


「何が?」


「千代ねえちゃんが可愛くないとか自分で言うから」


 二人の方へ椅子を回転させる。


「どこから聞いてた?」


「その、可愛くないのかなあってとこだけど」


「ならよし」


 香菜と透はお互いに顔を合わせ同じことを気にしたことを確認した。


「何かあったんだね?」


「う~ん、言うべきか否か」


 香菜が千代に近づいて顔を覗き込む。


「その言い方は、どちらかというと言いたいってことでしょ?」


 香菜の戦術を垣間見たような気がしたのか、顔を見ながら感心する。


「なるほど~。香菜ちゃんはこうやって攻めるのか。そりゃ男子はいちころだわ」


「なんのこと?」


「またとぼけて~。透もこれで連敗しているでしょ?」


 明後日の方を向きながら透は軽く頷いた。


「でも、これは可愛いわ。香菜ちゃん可愛い! 妹になってくれてありがとう!」


 千代は香菜の首に両手を回してグイッと抱き寄せる。


「千代ねえちゃん? この体勢は苦しいよ」


 そう言って床にちょこんと座り込んだ。


「私も千代ねえちゃんがおねえちゃんでいてくれるのは嬉しいんだけど」


「だけど?」


「呼び方をね、呼び捨てにしてくれる?」


「ほう。んじゃ香菜で」


「うん。私はおねぇちゃんと区別しなきゃだから千代ねぇちゃんになっちゃうんだけど」


「それでいいよ。にしても可愛い子だ~」


 千代はそのまま頬ずりをして香菜を可愛がった。

 透はどうしたものか、自分の居場所が無いような状況に困りかけていた。

 それに気づいた千代は香菜から離れる。


「ごめん。彼氏が困っているから戻ってあげて。二人の時間を邪魔して悪かったね」


「そんなこと気にしないでよ。嫌なら来ないし。千代ねぇちゃんを嫌なわけもないから」


「ありがと」


 二人に手を振りながら、千代は少々羨ましく思った。


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