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猫である  作者: 雛木景太郎
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1.魔女と猫

 吾輩は猫である。真名はまだ無い。しかし、世間からは外見に倣ってクロという仮名で呼ばれている。


 どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。なんでも薄暗いじめじめしたところでニャーニャー泣いていたことだけは記憶している。


 吾輩はここで初めて人間というものを見た。

 しかもあとで聞くとそれは魔女という人間中で一番獰悪(どうあく)な種族であったそうだ。この魔女というのは時々我々を捕まえて煮て食うという話である。


 しかし、その当時は何という考えもなかったから別段恐ろしいとも思わなかった。ただ彼女の(てのひら)に持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。

 掌の上で少し落ちついて魔女の顔を見たのがいわゆる人間というものの見初めであろう。


 抵抗がないことを確認すると彼女はその華奢(きゃしゃ)な腕で顔前まで吾輩の体を持ち上げた。

 にやりと彼女の口の端が釣り上げられた時には食われるものだと覚悟をしたが、不思議なことに吾輩は顔の横に寄せられ、ただ頬ずりをされるばかりである。


 この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一毛をもって装飾されるべきはずの顔は冬のため池のようにつるつるしていて、そのくせ、やけに暖かい。


 そのうえ、頬はもち粉でも混ぜてこねたのではないかと思うほど柔らかく、まつげは朝露を受け止める葉であるかのように可憐でしなやかであった。


 こちらをぎょろぎょろと見つめる瞳は髪の毛と同じく空をそのまま映したかのような薄水色をしていて、その内に爛々(らんらん)とした輝きを湛えていた。



 頬による吾輩の蹂躙(じゅうりん)が終わったのは木立の隙間よりわずかに差す太陽の光が5度ばかり傾いてからであった。

 彼女は吾輩を眼前まで持ってきて口を開いた。


 吾輩はとうとう食われるのかと思ってひとこと潔く、

「ニャー(食べないでください。助けてください。どうか、どうかお慈悲を。今まで死肉をあさり、泥水を舐め、いつ死ぬかもわからぬ生涯を送ってきました。しかし、必死に生きてきたのです。死にたくはないのです。舐めろというなら靴でもなんでも舐めます。媚びろというならいくらでもしっぽを振ります。ほら、揺れているでしょう。しっぽ)」

と鳴いた。


 すると彼女は邪気も屈託もない、ついでに遠慮も思慮もない笑顔で言った。

「そうか、そんなにうれしいのか。ならば僕の使い魔にしてやろう」


 これが400年前、猫と魔女の出会いであった。


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