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彼らが覚悟する話

「取り敢えずはそれで良くなる筈だ。批判コメントが来たらこっちのものだ。運営からの改善要求が来たら、ほぼ目的達成だ。それだけの読者の心を抉れた証拠だからな」


「はぁ…如月は何というか『受けの美学』を小説でやる変人だからな。炎上系作家、みたいなものだ。基本的に万人に嫌われるが文章力と世界観とゴア、グロでゴリ押しして黙らせるような奴だ。お前達が目指す必要は皆無だ。ただ、目指すならとことんまで穿て、と。まぁそういう事だ」


榎本先生はそう締めくくると手を一度ポンと叩いた。お開きらしい。

荷物を纏めると教室を出た。

窓から覗く景色はどっぷりと陽が落ち切っており寒々しい印象を受ける。


「なぁ、懐。俺たち真っ当な青春を過ごしちゃいないけど。今この瞬間だけはマジで青春してるって感じがするよな」


「何だよいきなり。感傷に浸るなんてらしくないぞ」


「かも、な」


駐輪場から自転車を出す。

なんて事ない帰宅風景だ。

真田がくだらない話をして、俺はそれを聴きながら明日も嘘がバレないように願う。高尚な事は一切ない。ただのつまらない餓鬼のリアルだった。


「懐、お前は最近変わったよな」


「そうか?確かに若干夜更かしはするけどそこまで不摂生はしてないし」


「違う違う」


どうやらそう言う事では無いらしい。


「だからーー何だ、お前は前より明るくなったよ」



「俺は彼女を先輩に取られてから寝取ったら寝取り返すクソ野郎として、懐は嘘をついた罪悪感を感じたくてーー誰かに悪だと断じて欲しくて、それぞれ真っ当な青春をかなぐり捨てた」


「……」


「なのに、さ。俺たち今、女の子の取り合いして、文章を書いてみてよ。んで、デカイ目標があって、それに向かってる。サムいラブコメみたいな展開だよな…」


真田の口調には確かな哀しみがあった。

ラブコメ同盟は奪い取る男と嘘をつく男が捨ててしまった日常を取り戻すーーいや、違うか。互いの傷を舐め合う為に生まれたグループなのだ。

名前にも勿論由来がある。

敢えてラブコメに程遠い俺たちがラブコメを名乗る事でラブなコメディーに対するアンチテーゼとして誰かに訴える、と言う意味がある。


誰もが人並みに彼女を持って幸せになる訳じゃねぇんだよ、と。


声の無い慟哭のような名前だ。


「確かに、今時流行らないだろうな。こう言うの」


「でもさ…ニヒルに振舞って、妬んで。そんな生き様よか万倍良いと思わねえ?」


「ああ、…そうだな」


今の生活はラブコメ同盟の趣旨にはそぐわない。

けれども毎日毎日エロゲで文章を学んで頭を捻っては展開を模索し目標に向かってわき目も振らずに突き進む。

そんな生活は案外楽しかった。


真田の家でメシ作って。

イ●ヤが死ぬシーンではハンカチを用意して。

文章書いてはあーだこーだ言い争って。


「勝ちたいな」


だから純粋にそんな言葉を口走っていた。

我ながらクサいと思う。後々思い出しては頬を染める事になるだろう。

けれど、今だけは。

今だけはこの感情に任せて願っても良いだろう。


「勝ちたい、じゃなくて勝つんだよ!ほら、俺たちは二人で一人の小説家だろ?」


「何だよそれ、サイ●ロン、●ョーカーって奴か」


「それ何年前のライダーだよ…」


「ぷっ」


ぷはは、と真田と同時に吹き出した。

何だか与太話に過ぎなくても無性に笑いたくなったのだ。


笑えるのだ。


「んじゃ、全部解決して…ラブコメ同盟はお終いだ。そっからは俺たち…きょうび聞かねえけどよ」


そこで珍しく真田が言葉に詰まった。


「何だよ?」


「あー、何だ。言いにくいな。その、何だ」



「世で言う、親友ってのになれるのかな」


「なれるさ。何にしろこの戦いを終えてからだ。そうだろ?」


「そうだな。よし!帰ったら取り敢えずエロゲやっか!」


どうしてそうなるのやらと思わないでもない。

けど、真田はそんなヤツだ。

下衆くて、酷く世俗的で…実直で優しい。


だから俺はーー。

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