罰されたい彼の話
俺は家に帰ると素早く着替えてすぐさま相棒の自転車に乗り込み近場のファミリーレストランに向かった。
今回は彼女と別れる為だ。
学校にいるうちに連絡していたのだ。
取り敢えずパンケーキを注文して彼女を待つ。
やって来たのは夏服を崩さずに着こなした真面目で誠実な女の子。
灯元 夕。
黒い艶のあるショートの髪と健康的に焼けた肌色は利発な印象も与える。
真面目でありながら活発なのは二次元的でなくて血の通った人間なんだと強く意識させる。
普通はどちらかにアジャストするのだろうが人間、そう簡単に属性に分類出来はしないのもまた事実なのだ。
「なっちー。私…彼女だよね?困ったら言ってって言ったのに…何で言ってくれなかったの?言ってくれたら私だって…」
心が冷えていくのを感じる。
自分の浅ましい思考回路がエラーを吐き出す。
吐き出すのは嘘だけで充分だと言うのに。
だから優しい女の子は嫌いだ。
俺の事を知ったら、嘘を許してしまうから。
俺は許されたくはない。
俺は罰せられたいのだ。
だから、我儘で、傲慢で、嫉妬深く、貪欲で、俗物で、低俗な女の子と付き合った。
彼女達は俺を罰してくれたから。
それがどれだけ薄汚く利己的なことであっても、俺には罰が必要だった。
「ごめん…」
「なっちー。私と付き合おう?なっちーはそうじゃないかもしれないけど私は本気で…ッ」
やっぱり、俺は嘘を愛し過ぎている。
なんて、ああ。
本当に最低な気分だ。
「なっちーがいくつもバイトを掛け持ちしてるの知ってるよ…。ねえ、なっちーはそれでいいの?」
「これは俺の問題だから…突っ込まないでくれないかな」
ちょうど良くパンケーキが運ばれて来る。
お金を使うのは好きではない。
こんな場合ですら惜しいと感じる俺は生粋の守銭奴かー。
「うん。SNS映えするよね。パンケーキって不思議だね」
撮りたくもない写真を撮るその虚しさ。
ナイフで切り分けて口に運ぶ。
何の味がするのだろう。
下水を煮詰めて作ったソースを腐りかけで埃塗れの挽肉をたっぷりかけてハエの死骸をトッピングして汚物で飾った様な醜悪な味がするのではないか。
平然とした微笑みの裏には自覚したくないくらいの負の感情が押し込められていた。
カメラの液晶には蜂蜜が掛かっているホイップクリーム、ラズベリーでデコレーションされた小さめなパンケーキが映っていた。
彼女にはパフェを奢った。
彼女は一切手を付けなかった。
俺は尚更罰されなければならないと感じた。
彼女の潤んだ瞳が、むくれた頬が、握りしめた手が再三俺に問いかけるのだ。
『お前はそれで良いのか』と。
良い訳がない。
あってたまるか。
『夜は眠れたかい?』とヤツからメッセージが届いた。
眠れないに決まってる。
まあ、そこのところの非難は翌朝口頭で伝えれば良いかとスルーする。
あれから俺は気不味い雰囲気をのこしたままファミリーレストランを後にした。
結局、夕は最後まで奢ったパフェを食べなかった。
そして今に至る。
強烈に胸を締め付ける様な疼痛を感じて呻く。
布団にくるまりながら幼子のようにポロポロと涙を零す。
俺は最低だとー。