表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原案×イラスト×小説企画 作品集  作者: 原案×イラスト×小説企画 参加メンバー
5/8

小さな賢者と神話の少女

・原案:

 -「純愛」(カラス TwitterID:@crow_mkX)

 -「魔術書の図書館」(日凪セツナ TwitterID:@ud0104418624)


・小説:日凪セツナ(TwitterID:@ud0104418624)


・イラスト:里崎(なろうID:565366)

 王宮の隅には、重い扉で閉ざされた図書館がある。銀の鍵を鍵穴に差し込んで半回転、がちゃり、と金属が動く音がして、扉が少しだけ揺れた。

 扉の前に立つのは、一人の少年だ。背丈はまだ扉の中ほどまでで、手には分厚い本をいくつも抱えている。纏うのは緑と水色の間のようなゆったりとした服で、頭に乗せた帽子のヴェールが隙間風に揺れていた。幼さの残る大きな瞳をゆっくりと一度瞬きさせて、少年は扉に手を当てる。小さな体を傾けて、全身で扉を押し開けた。殆ど黒に近いこげ茶色の扉は、蝶番を軋ませながら少年を迎え入れた。

 扉の先に広がるのは、四方の壁全てが本棚になっている空間だ。勿論壁以外にも、少年の背をゆうに超す背丈の本棚がいくつも並び、見上げる程の高い天井へのびる螺旋階段が、ひっそりと部屋の隅を彩っている。几帳面に並んだ本を焼かないようにと、数少ない窓には暗幕が掛けられていた。室内を照らすのは、天井から吊るされているシャンデリアの淡い光だ。だがその光も当然本物の炎ではなく、蝋燭を模した魔力結晶に、魔力で光る赤水晶が乗せられている燈だった。

「今日も、来ました」

 少年が、そう虚空に向かって呼び掛ける。と――――

「うん、待ってました!」

 どこまでも澄んで、明るい声が降ってきた。

「それじゃあ、今日の授業を始めようね」

本棚の上から少年を見下ろすのは、桃色の髪の少女だった。日の光の入らない図書館は長袖でも肌寒いというのに、少女は暁色のワンピースに白の布手甲、そして透けた淡い夕焼け色のヴェールという服装だった。剥き出しの肩や首元は陶器のように白い。

 ひら、とヴェールを躍らせながら、少女は本棚から飛び降りてきた。少年は持っていた本を、入り口近くの移動書棚に置く。

「今日は何の勉強にする? 召喚獣? 精霊? 妖精? 呪い? まじない? お姉ちゃんが何だって教えてあげるから」

 少女は両手を広げて朗らかな笑みを浮かべる。よく見れば、その体、特に四肢は少しばかり透けていた。

「うーん……」

 少年は本棚を見上げる。埃一つなく、立派な装丁が施された本は全て、国内外から集められた魔術書である。その内容は実に多岐にわたり、全てを極めるとなれば人間の一生が五度あっても足りないだろう。

「じゃあ、星の子の使役術を」

「はいはーい。星の子は私も好きよ。可愛いもの」

 少女が床を蹴ると、その体は煙のように浮き上がった。ヴェールからは橙の光の粒が零れ、それが空中に少女の軌跡を描く。

 少女の指先が、一つの本棚に触れる。途端、行儀よく並んでいた本が、一斉に空中に飛び出した。


 周囲をいくつもの浮かんだ本に囲まれて、少年は羊皮紙に文字を綴る。そこに描かれる魔法陣は、王のそばに控える、髭をたくわえた魔術師も描けないような精度の召喚陣であった。本に混じって少年の背後に浮きながら、少女はその陣を覗き込む。

「本当、日に日に上手になるねえ」

「そうですか?」

「うんうん。これなら星の子も来てくれるんじゃないかな。成功したら、ご褒美は何が欲しい?」

「お姉さんの名前」

 きっぱりと言って、少年は少女を振り返る。真っ直ぐな瞳に、少女は曖昧な笑みを返した。

「だーめ。名前を教えたら、お姉さんここにいられなくなっちゃう」

「じゃあヒント」

「それはいつも言ってるでしょ? 建国神話を隅々まで読みなさいな」

 唇の前に指を立てて、少女は笑って見せる。少年はやや俯いて、唇を尖らせた。浮いている本を数冊取り、少年は少女に背を向ける。

「……もうーっ! 不機嫌になっちゃって」

「うわっ!?」

 少女は両手を少年の頭に乗せ、帽子ごとその頭を撫でた。

挿絵(By みてみん)

「さっ、そんな話は終わりにして。いよいよ召喚をしてみましょ!」

「……はい」

 様々な言葉を飲み込んで、小さな賢者は少女を見上げて笑って見せた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ