第7幕
翌日気がつくと、私は慣れないベッドの上で横になっていた。部屋中が本棚に囲まれており、どれも英語で書いてあるようなボロボロの古書のようだった。どうやら、疲れたままバタンキューしてしまったみたいだ。
台所に行くと、エプロンを付けたスッピンの茜が、味噌汁とご飯を用意していた。なんとも家庭的な雰囲気。そして、あまり似合ってなかった。
「おはよう。雪。早いねぇ~」
「ううううん……今何時?」
「8時ぐらいかな? ほら爺ジも起きたのなら、目を覚まして」
名月さんも眠そうにしながら机に座っていた。
「じゃ、じゃ、じゃから茜ちゃん、本当にその日の昼間に火山が噴火するんよ~。昔なら指一本で止めてやれたが、今はこのとおり老いぼれての、うにゃむにゃ……」
名月さんの話は、どこかごく普通の年寄りの寝言のようだった。まるで信憑性がない。しかし、この年寄りの独り言に茜は悩んでいると言うのだ……。
「もう、爺ジ、その話は止めてってば」
「ワ、ワ、ワシ、ここで死にたくないのよ。せめて富士山のてっぺんで逝きたい」
「そういう話もやめてってば!」
「うにゃむにゃ……」
もはや漫才である。
朝食を済ませて私はお世話になった赤神家の家を出ることにした。今日は日曜。学校もない。このまま茜と一緒に街まで遊びに行っても良かったが、茜が遠慮したいというので、無理強いはしないことにした。名月さんを抱えているのだ。そりゃ無理もないが、普段から茜が面倒を見続けていると言うのだろうか……?
玄関先にてギャル主婦チックな茜と会話を交わした。
「なんか何も手伝わなくてごめんね」
「ノー・プロブレム。楽しんで貰えたら何よりだよ」
「うん。楽しかった! また明日色々話そうね」
「うん……雪……」
「何?」
「実はね、明日から受験の関係で1か月間ほど東京に行くの……」
「え?」
「いや、話そうとは思っていたけどさ、凄く話しづらいなって思っていて」
「そう……」
「ごめんね。実はそれを伝えようと思っていて……」
「ううん。気にしないで! 受験頑張って!」
「雪……」
「別に離れたって、今の時代、メールだって出来るんだし、気にすることないよ」
「そ、そうだね!」
「どこに行こうと、どんなに距離が離れていようとも、私たちは友達だよ! 茜!」
「ありがとう。雪! 大好き! 愛しているよ!」
茜は、泣き顔になって私に抱き付いてきた。魔女でも友達は友達。私もしっかり受け止めた。気がつけば、私も一粒の滴を頬に垂らしていた。
まさかこれが最後のお別れであったとは思ってもいなかった……