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第6幕

 家に入ってすぐ、痩せ細ったヨチヨチ歩きのお爺さんが私たちを出迎えてきた。短髪の白髪と茜とほぼ同じ輪郭と目つきを見て、茜の祖父にあたる人物だとすぐ認識できた。もっとも、茜のように両目の下に隈などはないが。



「よ、よ、よ、ようこそ、お嬢ちゃん。え、え、ええと……なんじゃったっけ?」

「蒼井雪。この子が雪ちゃん。爺ジ、ちゃんと挨拶して」

「おお! ゆ、ゆ、ゆ……なんじゃったっけ?」

「もうっ! こちら赤神名月。私のお爺ちゃんで、私の一族の長よ」

「あ……はい。よろしく。名月さん」

「よ、よ、よ……よろしゅう」



 茜の祖父である名月さんはお辞儀をすると、よろけだしてこけそうになった。その瞬間に茜が魔法のペンを取り出して、慣れたように魔法で名月さんの転倒を予防した。名月さんはそのまま宙に浮いた状態で、茜によって奥の方へと運ばれた。




 なんとも奇怪な光景を目の当たりにしたが、茜の魔法は既に見慣れているので、特に驚くことはない。茜はそれを知ってか、溜息をついて話を切り出した。



「爺ジが言うには、この先の笠山火山が来月のあたまに噴火するのだってさ」

「噴火!?」

「信じられないよね。何千年も噴火したことのない火山が噴火するなんてね」

「名月さんがそんなことを言い出しているということ?」

「そう。最近ずっとそういうことばかり言っていてさ。でも、馬鹿にはできない。爺ジは私たちの血筋の中で最高の力を持っていると言われる人物。今はほとんど衰えたけどね。あの調子じゃ、ただのお爺さんの妄想事にしか聞こえないけどさ」

「あなたたちって一体何者なの?」

「そうだね。それを話さなきゃ何もはじまらないよね」



 茜は目を閉じ、天井を見上げて話を続けた。



「私たちの家系は、明治時代にヨーロッパから渡ってきた魔術を習得されたらしいんだって。目的はわからないけど、どこかの貴族の命令を受けたらしいよ。勿論、私たちの血筋にある全員が魔法を使えるわけじゃない。でも魔法の存在が世間に知れ渡ってはいけない為、使える人間は隠居を強要される……って『人類魔術機構』っていうところのお偉いさんが大昔、爺ジに懇切丁寧に教えたんだってさ」

「茜それじゃあ……茜は」

「雪と同じようなものだよ」

「そうだったの……」

「さ! 銭湯にでも行こうか!」

「え? ちょっと! 名月さんを置いていくの!?」

「大丈夫よ! “私たちは不死身だから”ねっ!」




 茜に腕を引っ張られ、それから私たちは少し離れた町の温泉へ行った。茜曰く、温泉への同行こそが私にして欲しい“手伝い”らしかったが、きっと嘘なのだろう。



 茜との温泉はゆったりと言うより、はしゃぎすぎてあっという間に過ぎた時間だった。もちろん茜の悪戯魔法も至る場所で発揮された。それを止めずに楽しむ私も非常識な人間なのかもしれないが、これが私たちの青春だ。特に風呂上がりの際に、番頭のおじさんのかつらを取りあげたのは最高傑作の瞬間であった。



「ちょっと! 茜! これは酷すぎるよ……おっほっほっ!」

「アハハハハッ! でもこりゃあ傑作だ! あんまり爆笑していると、ばれるかも?」

「そっ……そうかなぁ?でも茜の仕業だなんてどうやったらわかるって言うの?」

「クククッ! コツがあるとしたら、頻繁にしないことだよ。雪……痛っ!!!」

「茜! 大丈夫!? 血が出ているよ!」



 茜は指を滑らして、缶ジュースの飲み口部分の鋭利な部分で傷を負った。魔女でも罰が当たるものなのだろうか? 間抜けな怪我の仕方だが、出血量が酷くて笑えない。ひとまず止血の処置を施そうとした。



「!?」



 茜の指先から出てくる血は自然に止まり、不自然にも薄くなり、傷口も数秒の内に塞がって消えた。



「茜……今のって?」

「ああ。私が魔女であるという証拠だね。なかなか便利でしょ?」

「そうだけどさ……」

「雪。安心しなよ!このとおり、私は不死身だ! がっはっはっ!」



 茜は私に満面の笑顔を見せた。茜の笑顔は、どこの誰のそれより安心感があった。もっとも私という人物に限ったことなのかもしれないが、やはり私にとって赤神茜は友達以上の特別な存在なのかもしれない。



 赤神家に戻ると、茜が外に呼び出し見世物をやると言うので、しゃがみこんでいる茜の横に並んだ。すると茜が例の小道具を取り出し、キャップ部分を取り外した。どうやら推測通り、ペン形式の小道具であった。そして、露わになったのは白いチョークだった。



 茜は、アスファルトの地面の上に何かを描き始めた。傍から見れば、きっと田舎の女子高生の落書き遊びに見えるだろう。でも茜が描いているのは、世間一般的に言われる星が入った魔法陣だ。茜は魔法陣を書き終えると、目を閉じて両手を合わせ「ドン!」と唱えた。










 描かれた魔法陣が赤く光り輝きだす。魔法陣からは、さらに小さな光の結晶が飛び出し、馬やライオンやサソリなど様々な動物となって魔法陣の中を舞った。茜が微笑み、私は「綺麗……」と幻想的な見世物にひたすら見惚れた。








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