第10幕
暗い闇。目を開けると不思議にもその中で私と琉偉君は生きていた。琉偉君は頭を抱えて、体を震わしながら、しゃがみ込んでいる。周囲を見渡すうちに、私たちの正面の物体がオレンジ色に光り輝きだして、辺り一面を照らしだした。
「茜?」
正面に立っているのは、物体でなく人。私なら後ろ姿でもわかる。
そう。赤神茜だった。
「まったく。こんなところまで来ちゃってさ……」
「茜なの?」
「そうだよ! ちょっと話しかけないでくれる? 今から大変なんだから!」
「そ、そうだけどさ……」
茜は色鮮やかな赤と黒のドレスを着ていた。頭には赤のとんがり帽子を被り、両足には黒いハイヒールを履いていた。しかしそれよりも気になるのは、黄金に輝く茜の体そのものと、火砕流の雲の中にできた半径5mの不思議な空間だった。
茜は大きな木製の杖を震えながら、両手でしっかり持っていた。魔法を使って私たちを守っているのか……?私は次第に落ち着いてきた。
「茜、これから何をするの?」
「話しかけないでってば!」
「教えてよ! なんで東京行くなんて嘘ついたの?」
「…………」
「私、茜に嘘なんかついたことないのに酷いよぉ……」
気がつくと、私は堪え切れずに泣いていた。これまでにないぐらいに泣いていた。茜に助けて貰えたこと、茜と再び会えたことがたまらなく嬉しかった筈なのに、その時は何とも言えない感情が私の胸を苦しめていた。私の嗚咽が始まってから暫くして、茜が重たい口を開けてくれた。
「信じるか信じないかは貴女に任せる。簡単に話せば、この噴火は事実じゃない」
「!?」
「私と爺ジを釣る為の餌として『人類魔術機構』が作った罠」
「どういうこと?」
「爺ジは魔術機構に良いように利用されるのを嫌って、組織を抜け出した。私も生まれながらにして普通でなかった。それを爺ジは知っていて、私を引き取った。だけど、私たちは彼らにとっては希少な存在。だから何が何でも組織の手で捕まえようとしているらしいの。それでこんな事を企てて、私たちを呼び出そうとした」
「待って……こんなことをできる人が魔術機構ってところにいるって言うの?」
「じゃなきゃ、こんなことにならないでしょ?」
「関係ない一般市民まで巻き込むなんて……」
「だから“事実”じゃないってば!もうっ!今から私たちが使う術でこの噴火の作り話はなくなる。まぁ、私たちが使わなきゃ、これが事実になるのだろうけど……」
「え……?」
「もういいや! 難しい話は嫌い! しない! ほら! これを使って!」
茜が普段愛用しているペンをポケットから取り出して、私の前に投げた。ペンは茜の体と同様に黄金色に発光している。触れてみると、それには温かみがある。
「これは?」
「いい? 大きく丸を描いて、その中に直線で結ぶ三角を描くの! ほら! やって!」
「う、うん……わかった」
「できたら、ペンを大きな円の中に投げたらいいよ。でもその前に一つ言わして」
「うん。何?」
「雪! 大好き! 愛しているよ❤」