表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

第1幕

 “魔女の女子高生”と聞けば貴方は何をイメージするだろうか?



 何かこう『魔女の宅急便』に出てくるキキちゃんとかのような、魔法を使える可愛い女の子が青春を謳歌するお語りを想像するだろうか? 人それぞれだろうが、きっとそこには夢のような世界が広がっているのだろう。アッコちゃんにしてもサリーちゃんしてもアニメの中のおとぎ話である。




 山口県萩市。越ヶ浜駅。海と山に囲まれた田舎の駅。そこに立つ高身長の少女。目元には不健康な隈ができている。地毛が薄赤い彼女の名前は、偶然と言うか皮肉にも、“アカガミ”だ。そして彼女こそがこの世に実在する“魔女”である。



 そして、そんな彼女が私の唯一の友達だ。



 私は蒼井雪。何ていうか……普通の女子高生だ。多分。強いて言うならば、人と話すのが苦手な人間だと言っておく。趣味は推理小説を読むことぐらいだ。まぁ、そんなところだ。雪と言う名前なのだが、この風貌から“たまちゃん”と呼ばれる。某人気アニメのキャラクターの由来でも、至極気に入らないのが本音だ。



 私たちの通う阿武高校は、ここ最近になって進学校と言われるようになった。だが、実際は特進コースというクラスに所属する一部のエリート層の活躍が話題になっているだけの話であって、普通の学力があれば実は誰でも入れる高校である。



 大昔は生まれつきのそれも、選りすぐりの貴族のコたちが学ぶ由緒ある学び舎であったとか云々の話を聞いたことがある。もちろん現代となっては、ただの田舎のごく普通の高校に変わりない。ここ最近は精鋭組の活躍が目覚ましくもあれば、マナーの悪い生徒たちの振る舞いが地域で話題となっているのも事実だ。うまく言えば人種のるつぼ的な学校であるが、異人種間同士で仲良く共存することはなく、エリート階級と私たち凡人の校舎は皮肉にも分立して存在する。



 そして見かけによらず、私は凡人で彼女は優等生であった。



 私の家は学校のすぐ近くにあるが、阿武高校前駅まで彼女を迎えに行くことが私の習慣であり日常だ。特進組とつるむ一般生徒など珍しいのかもしれないが、これも何かの縁というヤツだろう。しかも相手は普通の人間ではなく魔女である。



 高校前駅の前に到着した。やがて、改札口から出てくる彼女を見つけた。



 赤神茜。長身の身体にポニーテールがよく似合う薄い赤毛。しかし、両目の黒く濁った隈と如何にもやる気のない猫背が特徴な女子だ。まさに魔女。でもそんなことを想像する人間は誰もいないだろう。




 私がそっと手を振ると、彼女はそっと微笑み、即座にウインクを送ってきた。同時に謎の風が発生し、私のスカートがゆさゆさと揺れた。


「きゃあ!」


私は必至に両手でスカートを抑えた。ううむ。久しぶりに不意打ちを仕掛けてきたようだ。危うく最悪の事態が起きる寸前だった。彼女の悪戯は不定期であり、油断も隙もあったものじゃない。実に困った小悪魔である。



「おっす。今日はいい天気だね!」

「おはようもうっ! 止めてよ! もう少しで恥かくところだったじゃんか!」

「え? ああ! ピンチだったねぇ~。こんな日にあんなところで風が吹くなんてさ」

「茜がやったんでしょ! 全く! 全然懲りないんだから……」

「えへへ。ばれつった」



 茜が無邪気な笑顔で八重歯を見せる。不覚にも可愛いと感じてしまうのは仕方ないことだろうか? どんな悪戯もこれ一つで許してしまう。実に困った小悪魔だ。



私は“彼女の正体”を知る唯一の人間だった。そして、そんな秘密をこの3年間守ってきた。それは私と彼女の関係上、然るべきものだと考えてもいい。私には彼女しか友達がいなく、彼女も私しか友達がいないという。とんだ腐れ縁である。



 そんな茜との出会いは一昨年の春。入学して間もない頃の話。放課後夕暮れ時、下駄箱の片隅の方で、とあるDQNに絡まれてしまった時の話だ。それまで不良という不良に絡まれたことのなかった私は、凍てつくような恐怖に怯えきっていた。



そこに、スッと背の高い同学年の女子が現れた。髪はボサボサで、まるで身だしなみがなってない女子。よく見ると特進コースのバッジを胸につけている。私の表情を見るや否や、躊躇せずに彼女は不良少年たちに言い放った。

「おい。やめてやれよ」

「ああ? 何だ? お前? お嬢ちゃんのお友達か?」

「違うけど。弱い者いじめは見ていても気持ち悪い。大きい声なんか出してさ」

「おい? なんか俺たちに文句でも言いに来たってでも言うのか?」

「別に。どうでもいいからその子を離せ。相手なら私がしてやる」

「おいおいおい。なんか面白い馬鹿が来たなぁ!」

「ウヒョー! なんならコイツを犯ってやろうぜ! よく見たら中々の上玉だぁ~」

「3対1だぞ? クックックッ! 後悔させてやる!」

「ふん。お前らみたいな雑魚など1秒でけりをつけてやる!」

「ちょ……やめ……!?」




私が何かしら言おうとした瞬間、輩共は場外へと吹っ飛ばされた。その直後に「痛い! 痛い!」とのたうち回り始めたが、3人とも異常に不自然なぐらい急に土下座の姿勢になって止まった。止まったはいいが、彼らの「痛い! 痛い!」の声は止まらない。金縛りか?明らかに何かの怪奇現状が起きている瞬間だった。



「フッフッフ! 馬鹿面していろ。この学校にチンピラはいらないのさ! 小僧共!」

「ひぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

「フッフッフ!」



 彼女に視線を戻す。彼女は小さなペン(?) を音楽の指揮を執るようにゆっくりと動かしていた。さきほどまで土下座していた男子たちは急にコマネチをしたり、互いの制服を脱がせあったかと思えば、その後パンツ一丁でプロレスを始めたり……という異様な光景を目の当たりにした。さきほど体感した恐怖とは別の恐怖が体を固まらせる。何より奇妙なのは、急に変態行動を始めた輩達が全員泣きそうな顔をして、「やめてくれ!」と懇願していることだった。



 まるで某漫画の悪党キャラを彷彿とさせるが、ここは漫画の世界でなく現実だ。



 私は意識を奮い立たせ、勇気を出してその場を逃げ出すことにした。



「しまった!」



 彼女の大声が聞こえた。私は走りに走って、無我夢中で逃げた。後ろから付いてくる気配は感じなかったが、学校より少し離れたホームセンターのトイレに一旦避難した。激しい息切れは止まっても、心臓のバクバクは止まらなかった。




 それから1時間はそこにいただろうか? 周囲を慎重に警戒しながら私は帰った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ