第1話「東の国より、ひかる・イズル?」八
「なあ〜、許してくれよ、イズル、この通り!」
強く掌を合わせた音が教室に響く。深々と頭を下げているユーゴ。
イズルは生徒会室での一件を盗み聞きされて、ご機嫌斜めだ。
「もう、やらない?」
「勿論だって! ほら、マリン、お前を謝れよ!」
ユーゴがマリンをひじで軽く突付き促す。
「悪いけど、僕はアンタの気持ちには、むぐっ……」
イズルの口調で話し出すマリンの口を、ユーゴが慌てて塞いだ。
「馬鹿っ、お前!」
裏返った声で、ユーゴがマリンを叱る。
「ゴメンヨー、イズルクン、ボクハ、ワルギガナカッタンダヨー」
ユーゴは、後ろから両手でマリンを操り人形のように操り、裏声で話した。
さすがのマリンも愛想笑いをしている。
「……今度からしないでよね」
イズルが呆れながら、ぽつりと呟いた。
「勿論さあ! さすが、イズル。心が広いぜ。あー良かった! ははは!」
ユーゴが豪快に笑いながら、イズルの肩を叩いた。
マリンは、何を考えているか掴めないが、楽しそうだった。
イズルは、この感じが嫌いではなかった。この友達二人といると何か安心するのだ。
「さ、昼休みだし、体育館にバスケしに行こうぜ!」
ユーゴが率先して教室を飛び出した。昼休みのバスケットボールは三人の日課だった。
イズル、ユーゴ、マリンは、学校でわりかし目立っていた。
その中でも、イズルの人気は抜群で、昼休みには、イズルを見る為に女子生徒が体育館に集まった。
イズルは、コートの上で、実は女とは思えない程の活躍をしている。
その度、黄色い歓声が沸く。
いつもの光景。
だが、今日は居心地がかなり悪かった。
原因は、あの、父の言葉。
イズル、女に戻れ
──僕は、一体誰なんだ……。
「たかみちクーン!」
「イズルくーん!」
体育館に声援がこだまする。
──みんな、あんな風に騒いでいたって、本当の僕の事、何も知らないじゃないか。
イズルちゃん
宝路君
──ひかるも、会長も。
イズル!
イズル
──ユーゴも、マリンも。僕は友達まで騙しているじゃないか。
イズル、お前は女だ
──父さんだって、どうしていきなり……。
イズル、お前は私の子ではない
──どうして? 僕は今まで、父さんの為に……。
たかみちクーン
イズルくーん
イズルちゃん
宝路君
イズル
イズル……
──僕は、一体誰なんだ……。




