表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/21

第1話「東の国より、ひかる・イズル?」七

「大丈夫ですの?」

 結花乃が救急箱から、消毒液のついたガーゼを取り出し、イズルの頬に当てた。

 少し薄暗い生徒会室に浮かぶ、二人のシルエット。

「あの、話は」

 イズルが静かに、口を開く。

「いいのよ、何も言わなくても大丈夫ですわ」

「じゃあ、どうして僕を呼んだんですか?」

 イズルの言葉に、結花乃がうつむく。

 潤んだ瞳は、先程から想像もつかないような、少女の瞳の色だった。

「話がないなら、僕教室戻ります」

「宝路君」

 結花乃は、イズルの向かいに座った。唇が、少し震えている。

「宝路君、あのコがあなたの恋人なんて嘘よね? あなたがあんな子供っぽいコを相手にするなんて」

 結花乃の声は、弱々しかった。イズルは思わずため息をつく。

「何だよ、みんなして。あいつはただの幼馴染なのに」

「本当? よかった……」

 誰にも見せた事のない柔らかい結花乃の笑顔。 

 この顔を誰が想像出来るであろうか。

 しばしの沈黙。

「もう、いいですか?」

 沈黙の糸をちぎり、イズルが立ち上がろうとした瞬間、結花乃の手が、机の上にあったイズルの両手を包んだ。

 イズルは眉ひとつ動かさず見ている。

「待って、宝路君。私、あなたの事が……」

 イズルは、結花乃の言葉を最後まで聞く事なく、素早く結花乃の手から離れた。

 結花乃はショックを隠しきれない表情でイズルを見上げる。

 何かを乞うように、揺れる瞳。

「悪いけど、僕はアンタの気持ちに応えられない」

 唇を噛み締める結花乃。

 イズルはその結花乃を見る事もなく、生徒会室を後にした。

 閉じた扉に背もたれ、空を仰ぐ。先程より更に深いため息が、騒ぎの疲れを吐き出すように漏れる。

 そして、ふと、横を見ると、トーテムポールのように縦に並び、生徒会室の壁に向かい、耳をそばだてているユーゴとマリンがいた。

 イズルに気付かれてしまった二人は、とびっきりの愛想笑いでその場をごまかそうとしている。

「お前ら、何やってんの……?」

 イズルは、ユーゴとマリンに、呆れた口調で言い放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ