第1話「東の国より、ひかる・イズル?」参
イズルは手早く準備をして、そして、二人で外に出た。
ひかるはイズルと一緒の登校で、まるでまわりに音符が飛び散っているようにご機嫌。
イズルは道を歩いているものの、父との一件で上の空だった。
「ねえ、イズルちゃん」
「うん……」
「すっごくお空が晴れているの〜」
「うん……」
イズルはどこか遠くを見ている。ひかるの声は届いていない。
「ねえ、イズルちゃん?」
「うん……」
ひかるは少しうつむき、頬を染めて話す。
「ひかるは、今十五歳で、イズルちゃんは、明日で十七歳よね?」
「うん……」
「来年、ひかるが十六歳になって、イズルちゃんが十八歳になったら、結婚出来るよね」
「うん……」
「そしたら、イズルちゃん、ひかるの事……お嫁さんにしてくれる?」
「うん……」
イズルのこの言葉を聞いたひかるは、急に立ち止まった。
イズルは歩き続けていたが、ふと我に帰り、横にいたはずのひかるがいない事に気付く。
「あれ?何の話していたっけ。ひかる?」
と、後ろを振り向くと、ひかるが、感極まって震え、
星屑が飛び散るように瞳を輝かせ、イズルを見つめている。
イズルは事の見当が全くつかない。
「ひ・ひかる?」
「イ・ズ・ルちゃん……!」
「エ?何、何?」
「ひかる、嬉しいの〜!」
ひかるは叫ぶと、土煙が立つ程のダッシュでイズルに突進してきた。
「な・何だあ?!」
ひかるが、ホップ・ステップ・ジャンプでイズルに向かって飛びかかってきた。
イズルは、それをひらりとかわすと、ひかるは、そのまま勢い良く電柱に抱きついた。
「イズルちゃん、ひかる幸せらのぉ〜」
ひかるは瞳をハートマークにして、幸せ一杯に両腕両足で、しっかりと電柱に抱きついている。
「あ・危なかった。というか、僕は電柱かよ……」
イズルは呆気に取られたまま凝視し、そして、冷静に呼吸を整え、ひかるに話しかけた。
「あのー、もしもーし。ひかるー?僕はこっちだよ、よいしょっと」
と、電柱にがっしりしがみつくひかるを引き剥がした。
「あれ?イズルちゃん?」
ひかるは、ようやく我に帰り、電柱とイズルを交互に見る。
「あっ!ひかる、間違っちゃたの〜。ごめんなさいなの〜」
顔を真っ赤にして、愛くるしく笑った。
見慣れたひかるの笑顔も、今日は、いつもと違う感情で見てしまう。
──ひかるも、知らないんだよな。本当の僕の事……。
ぼんやり思いかけた時、遅刻している事を思い出した。
「ほら、早く行くよ、ひかる」
イズルはそう言うと、走りだした。
「あっ、イズルちゃん、待って!なの〜」
ひかるは、鞄を重そうに持っている。
それを見たイズルは、黙ってひかるから鞄を取り、また走り出し、振り返り手招きした。
ひかるは、また瞳を煌めかせ、「ぷりん」と胸を弾ませながらイズルの後を追った。
そして、二人が学校・トキオエクセレント高等部に到着すると、
休み時間の学校前広場は、騒然とした。




