第2話「大昔でバースディを……」拾
「……宝路、大丈夫か」
「何も出来なかった……!」
「悔しいけど、い、今は仕方ないよ。それより、止血しなきゃ」
庵野は、イズルの上着を開けようとした。
「いや、大丈夫。触らないで」
とっさに庵野の手を払う。
「だ、大丈夫なわけないだろ」
「それより庵野は大丈夫?」
「う、うん」
「良かった」
更に急激な目まいが襲い、イズルは座り込んだ。
「た、宝路!」
庵野の声が、辺りに響く。すると、木々の奥から、草をかき分け何かが近づく音がした。
「庵野、しっ」
イズルが庵野の口を押さえる。辺りが静まり返ると、人の声が聞こえた。
「いた?」
「いえ、見当たりませんね」
女と男の声。明らかに何かを捜している会話だった。
「さっきの総馬の話だと、この町の人は、よそ者は殺すとか言ってたんだ」
イズルの言葉に庵野は、思わず息を飲む。
「向こうを捜してみましょうか」
男の声が響くと、足音が遠ざかった。
「行ったみたいだ」
イズルは庵野の顔から手を放した。緊張から解放されると、腕が激しく痛みだし、息も上がってきた。
──痛い。
意識が遠くなる。
「うわあああああ!」
突然、庵野が後ろを向いて叫んだ。その叫びで、また意識が少し戻り、後ろを向くと、そこに、いつの間にか、眼鏡をかけた長髪の男が立っていた。
その右手には、研ぎ澄まされた剣が握られている。
「おや……そのいでたちは、異国の方で? こんな夜更けに、我が五源商団に何の用でしょう?」
やわらかな口調とは裏腹に、男の目が鋭く光る。
「僕達は……」
一か八か、イズルが助けを求めてみようとした、その時。
「亮!」
気の強そうな、派手で、豊満な身体の女も現れた。
「客人のようです」
「ふーん、果敢にもウチに来るなんて。珍しい事もあるもんだねェ」
「貴方達に恨みはありません。しかし、我が五源の掟──よそ者は、ただちに消えてもらいます」
男は、剣を振り上げる。
「お願いです! 聞いて下さい!」
イズルの叫び声もむなしく、剣は振り下ろされた。




