第1話「東の国より、ひかる・イズル?」弐
それから、十数分経ったであろうその時、
「イズルちゃ〜ん、学校いこ〜!」
玄関の方で透明感のある高い声が響いた。
「げ、ひかるだ」
イズルは、反射的に布団を深く被る。
と、同時に使用人がイズルの部屋をノックし、ドア越しにイズルに声をかけた。
「あのう、イズルさん、ひかるさんがお迎えに来ていますが」
ひかるは、イズルの幼馴染。
イズルよりひとつ年下で、兄のようにイズルを慕っている。
イズルを迎えに行くのはひかるの日課だった。
「すみません、今日僕学校を休むので、一人で行くように伝えて貰えますか」
「そうですよね、わかりました」
使用人が玄関に戻った。
すると、玄関は遠くてよく聞こえないが、何か言い合いのような声が聞こえる。
少し続いたあと、廊下をドタドタと歩く音が聞こえた。
イズルは部屋のドアを少しあけ、そっと廊下を覗いた。
「イズルちゃん!」
イズルがわずかに開いたドアは、急に大きく開いた。そこには、ひかるがいた。
白いセーラー服がよく似合う少女。栗毛色のふんわりとした巻き髪が揺れ、大好きなイズルを発見した大きな瞳が輝く。
「おはよう〜、イズルちゃん。ひかる、迎えに来ちゃったの〜」
ひかるは、容赦なくイズルに抱きついた。
「あのね、今日僕は学校休むから……」
「なあに?元気そうじゃない」
と、全くイズルの話を聞かずに言うと、額をイズルの額に当て、
「お熱もないみたいだし」
両手で、頬を触り、
「顔色もいいの〜」
そして、むんずとイズルの手を取り、
「さあ、学校へ、レッツ・ゴーなの〜」
突然、宝路家の長い廊下を爆走した。イズルはついて行けず宙に浮く。
「うわッ!ひ・ひかる、ちょっと待った!」
ひかるは、急ブレーキ音をあげ、急停止した。
それにと半拍遅れに「ぷりん」と幼い顔に似つかわしい、ひかるの巨乳も静止した。
ひかるはきょとんとした顔でイズルを見ている。
「あのね、僕ね、今日は本当に調子悪いからさ、ごめん」
イズルは部屋に戻り、ベッドに座った。
後を追って部屋に入ったひかるが、少しふくれっ面で言う。
「だめ」
「もう〜。だから僕は……」
「だって、今日のイズルちゃん、何だか悲しそうなの。一人でいちゃ駄目なの」
「ひかる……」
「ね、学校行こうよ、外は晴れて気持ちいいよ。ひかるがイズルちゃんを元気にするの〜」
ひかるはぎゅっと後ろからイズルを抱いた。
「今から行っても遅刻だよ。それに僕、まだ教科書とか準備してないし」
「い・い・の。ひかる、待ってるの〜」
「はあ、ひかるにはかなわないな」
イズルの言葉を聞いたひかるは、無邪気に笑った。




