第2話「大昔でバースディを……」伍
「お困りのようだね」
少年はやや低い声で言うと、四人を見つめた。
ベールから垂らす長い前髪の隙間から、大きい黒目の、エキゾチックな瞳が覗く。
見た目は女性的で、年齢も四人と変わらないように見えるが、ずいぶんしっかりした口調だった。
「君達のようなお若い男女が、こんな所で彷徨っているとは。何か事情があると見た」
「はい……あなたは?」
イズルが真っすぐ見据えて問うと、少年は、口の端を上げて微笑んだ。
「我々は、この辺りで商売をしている者です。僕の名は、総蘭。皆は蘭舞というあだ名で呼びます。どうぞお見知り置きを」
「僕は、イズル、宝路イズルといいます」
「よろしく、イズル。今、ひと仕事終えて、これから、街に帰るところです。
もしよろしければ、ご一緒にいかがでしょう?」
「宝路、助けて貰おうよ」
庵野が、サッとイズルに耳打ちした。
──大丈夫かな。でも、今は、他に方法がないしな。
「フフフッ。見ず知らずの人間に付いて行くのが不安と見た。ご心配は無用。街はもうすぐですし、ただ帰るついでなので、ご安心を」
蘭舞と名乗る少年は、また、口の端を上げて微笑んだ。
「みんな、どうする?」
イズルの問に三人は、うなずいて、OKのサインを出した。
イズルもうなずいて返した。
「是非お願いします」
「わかりました。今、仲間を連れて参ります」
蘭舞は一礼すると、ベールをなびかせ、足早にその場を去っていった。
「あの、蘭舞というお方、わたくし達と同じ位の歳でしょうか」
「多分ね。随分しっかりしているよな」
「イズルちゃんもしっかりしてるなの〜」
「ひかるさんッ、こんな奴の事、褒めなくて良いですよ!」
「こんな奴、じゃないの〜!」
「こんな奴、じゃないですわ!」
ひかる、結花乃に同時に非難され、庵野がたじろいだその時、地を叩く無数の音が近づいて来た。
四人が驚き、音の鳴る方を見ると、辺りに激しい土煙りが立ちこめ、数十人の馬に乗った男達の隊列が、こちらに近づいて来る。
先頭集団には、高い襟のマントをまとい、黒い髪を束ねた長身の男がいる。
その男は、集団の頭であろう。
いやがおうにも、その男の迫力が目についた。
そして、その先頭集団の一角に、先程の蘭舞がいた。
「こんなの、初めて見た」
イズルは、思わず呟いた。
開いた口が塞がらない。
騎乗した男たちの隊列は近づき、四人の前に止まる。
それは、実に見事なさばきだった。
決して穏やかには見えない馬を操る、鎧をまとった男たちは、イズル達の時代には決してない気迫を帯びている。
中でも頭と思われる男は、その瞳だけで、人の心をふるわす威厳にあふれている。
四人は、ただただ、放心に近い状態で、騎乗する男達を見上げた。
【次回の話より、基本的に毎月5・15・25日に更新致します】




