第2話「大昔でバースディを……」四
「どうかしまして?」
「いや、会長、今、見えなかった? あの岩の影に」
イズルは、思わず立ち上がった。
「人が」
「ほ・本当か、宝路」
「うん。庵野は見なかった?」
「見ていないよ。まさか、獣じゃないだろうな」
庵野の声は震えていた。
「……行ってみよう」
「えええ? やめろよ、何が起こるか」
「じゃあ、庵野はそこで待ってて」
イズルは歩き始めた。
「あっ、イズルちゃん、どこ行くのなの〜、ひかるも行くの〜」
「わたくしも、行きますわ」
二人はイズルの後を歩く。一人取り残される庵野の前を、夜風が駆け抜ける。
「え? ちょ、一人にしないでぇ〜!」
結局、庵野もイズルを追った。
そこにたどり着いた三人は、イズルを先頭に、おそるおそる、岩陰に回り込む。
しかし、そこには、人はいなかった。
だが、岩の裏に意外なものを見つけた。
岩に、四人とほぼ同じ大きさの、仏像が壁面に刻み彫られている。
「こういうの……」
イズルは仏像に見入った。
「教科書に載っていた。しかも、風化してない。奇麗なままだ」
その言葉に、他の三人もまじまじと、岩肌に刻まれた仏像を見つめた。
「本当にここは、数百年前なんだ」
声を出すのがやっとだった。
初めて叩きつけられた過去の姿に、背筋が凍った。
「教科書に載っているのは、神殿みたいに大きいのだけど、こんな小さいのもあるんだ。でも、多分これ、僕らの時代には無くなっている……よね」
仏像が、月明かりに、わずかな微笑みを浮かべる。
しかし、その穏やかな笑みさえ、戦慄に思える程、そこにいる全員は憔悴しきっていた。
「僕たちは、か、帰れるのか?」
庵野の声は震えた。
「三か月、生き抜くんだ」
イズルは、そんな事出来るのかという不安を抑えて言った。
「こんな、電気も何もない所で?」
「でも、やるしかない」
「む、無理だ。僕たちは終わりだ」
庵野は、岩を背に座りこんだ。
「しっかりしろよ、な? とにかく人をさがすんだ。町もあるかもしれない」
「その前に力尽きるよ」
庵野の言葉を返せなかった。
約一日、飲まず食わずで、不安の中、ずっと歩き続けた。
肉体的にも、精神的にも限界だった。
ただ、そこにいる事しか出来ない状態。
全員が黙りこんだ。
「フフフッ……」
突然、岩陰から、笑い声が響き、四人が息を飲んで顔を合わせた。
イズルが他の三人の前に立つ。
すると、頭にベールをなびかせ、甲冑をまとう少年が、四人の前に現れた。




