第2話「大昔でバースディを……」壱
荒野に吹き抜ける風が砂を巻き上げる。
その風を合図かのように、三人も目を覚ました。
「みんな、大丈夫?」
イズルは、三人が起き上がるのを手伝う。
「ここは、どこですの?」
結花乃は、はっきり意識が戻らずとも、気丈な口調だった。
「わからない、気付いたらここに」
淡々と話すイズルの後、フェイドアウトしたようなしばらくの沈黙は、突然の出来事を飲み込めない、という事実を物語った。
また、寂しそうな音を立て、風が吹きぬける。
「電話、失くしちゃったの〜!」
突然沈黙を破り、ひかるはポケットを探し出した。
「ひかるさん、大丈夫ですかっ?」
と、いいつつオロオロするだけの庵野。
「そうか、電話通じるかも!」
イズルは急いで携帯電話を取り出し、
「あ、充電が切れている」
と、携帯電話のソーラーパネルを空にかかげる。
すると瞬時に充電が完了し、それと同時に着信が来た。
「あ!ひかるの携帯から着信が着た」
「よかったなの〜」
「誰か拾ってくれたんだね」
通話ボタンを押すと、立体映像映写機から、白衣姿の井之頭の立体映像が映し出され、その、瓶底眼鏡が光った。
「先生!」
〈準備室に、この電話が落ちていたんだ。宝路、呼び出しておいて済まなかった〉
「い・いえ、大丈夫ですけど。それより、準備室にあった機械何ですか」
〈やはり、飲み込まれたのは君達だったか〉
「飲み込まれた?」
〈そうだ〉
「一体何なんです?」
〈……隠しても仕方がないので、正直に言う。君達が飲み込まれたのは、時空の狭間だ〉
「時空の狭間?」
〈今日、2XX7年4月20日と、まだ調査しないとはっきりはしないが、数百年前のある時代の時空の狭間が交差しているらしい〉
「交差しているって?それに、数百年前って」
〈つまり、君達は時間を遡ったんだ〉
「そんな、まさか。だって、電話繋がっているじゃないですか」
〈まだ少しだけ時空の狭間が重なっているので、この機械を通して、重なって辛うじて電話だけは繋がっている〉
「僕達を帰して下さい」
〈今は、無理だ。いいか、よく聞いてくれ。 次、時空の狭間が繋がるのは、こちらの明日、そして、そっちの約三ヶ月後だ。その時には、帰って来る事が出来る〉
「さ、三ヶ月」
〈そう。何とか、三ヶ月無事でいてくれ。必ず助ける〉
イズルは立ちくらみしそうになったのを、何とか知られないように押さえた。
〈一応翻訳モードでそっちに行ったので、言葉には困らないはずだ〉
「でも」
その時、井之頭がいつもの瓶底眼鏡を外し、イズルは言葉を止めた。
意外にも美形な顔立ちもそうだが、その隠れていた目元が、あまりにも似ていたのだ。自分に。
〈帰ってきたら、君に話したい事がある〉
「先生は、一体」
〈君は、本当に……よく似ている〉
イズルの瞳を見つめる井之頭の瞳は、優しかった。
それは、教師としてでもなく、ましてや男性としてでもない、特別な暖かさだった。
「先生」
井之頭の立体映像が乱れる。
〈もうそ……そろ……切れ……うだ。頑張……てくれ〉
「先生!」
〈ど……か、無事……イズル……〉
そして、完全に消えた。
「ど、どうしろって言うんだよ……」
荒野を走り抜ける風が、更に強く、強く、勢いを増しせせら笑うように通り去っていった。




