第1話「東の国より、ひかる・イズル?」拾壱
──もうイヤだ、家も、学校も! どこかに消えてしまいたい!
走りながら、全て振り払いたかった。だが、どんなに、走ろうとも、拭い去れない。
今の自分も、過去も。でも、走り続けた。
そして、息が荒くなり始めた時、
〈えー、二年D組、宝路イズル。理科準備室に来るように〉
柔らかい井之頭の校内放送が響いた。
「遅いんだよ!」
偶然にも、理科準備室の近くを走っていたイズルは、すぐ到着し、荒々しくドアを開けた。
「宝路です!」
相変わらず静まり返っている部屋。
井之頭は、まだ、放送室から帰ってきていないようだ。
今度は、廊下で「イズルちゃ〜ん!」と、ざわめく三人の声が聞こえる。
「また来た。もう、今日は放っておいてくれよ」
イズルは、とっさに先程の機械が置いてあった、カーテンの中に身を隠し、息を潜めた。
「イズルちゃん、奥の準備室にいるの〜」
「ひかるさん、あんな奴、構わなくて良いですよ。帰りましょう」
「そうよ、一年生。アンノジョーも。もう、あなた達はお帰りなさい!」
理科室に三人の騒がしい声がこだまする。
「はあ」
イズルが、額を押さえ、機械を背にもたれ掛かった時。
突然、背中からまばゆい閃光が、突き抜ける風のように、目の前のカーテンを射した。
振り返ると、モニターが四角く光り、準備室は、カーテンの中だけ真昼のようになっていた。
「な、何だ? 一体!?」
_translation mode OK!
_translation mode OK!
_translation mode OK!
閃光を発する画面で、文字が心臓の鼓動のように点滅している。
何故か、その赤い文字の妖しさに、戦慄を覚えた。
「眩しい……」
片手で目を隠し、どこか、光を消す所がないか、もう片方の手で、モニターのまわりを手探りする。しかし、それらしきものは見つからない。
そのまま探し続けていると、指先がモニターに触れ、すると、突如、爆風がイズルの髪を激しく煽り、囲っていたカーテンを翻した。
そこから光が暗い部屋一面を白く染め、次の瞬間、無数にのぼる光の触手がモニターから蠢き出て、巻きつくようにイズルの腕を捉える。
「何だ!?」
手を解こうとした。だが、触手はイズルを、モニターに取り込むように絡みつく。
反抗するイズル。しかし、どんどん引きずりこまれる。
「うわあああッ!」
学校中に響き渡るようなイズルの絶叫を聞きつけ、三人は準備室に入ってきた。
既に、イズルの左腕はすっぽりモニターの中に飲み込まれている。
「イズルちゃん!」
真っ先にひかるがイズル元に駆け寄り、腰に抱きつく。
だが、どんどん体は、引きずられる。
「宝路君!」
結花乃が、イズルの手を掴むと、その瞬間、腕に巻きついていた光の触手は、更に激しく踊るように、イズルに絡みつき、イズルは、体ごと宙に浮かんだ。
結花乃が、更に硬く手を握る。ひかるは、必死にイズルの胴にぶら下がりながら、手を離さない。
「ひかるさぁぁぁあああんッ!」
庵野は思わず、スライディングして、ひかるの足首を両手で掴んだ。
機械が不敵に、笑うような低い唸りを上げる。
そして、モニターが一度大きく光ると、四人は機械に飲み込まれ、声も音も光も、全て一瞬に消えた。
部屋にはただ、暗闇と静けさだけが残った。




