第1話「東の国より、ひかる・イズル?」壱
スーパードラマティカルアドベンチャーとうほうしんぶんろく……東真録
──僕は、明日、十七歳になる。
2XX7年4月20日──トキオシティ。
「ふざけるな!」
爽やかな朝に似つかわしい怒号が、街の一角を占める、和風の屋敷に響き渡る。
激しく両手で叩き付けられたテーブルの上の食器がかすかに揺れ、
白い学生服袖から伸びる、イズルの白い両手は震えている。
上品なアッシュカラーのショートヘアーから覗く瞳は怒りに溢れ、
美しい切れ目が更に鋭さを増していた。
「ふざけてなどいない」
四十代後半の男性が、イズルの怒りに動じることもなく、冷静に返し、湯呑みの中の茶を口に含む。
大病院・宝路病院の院長、治。イズルの父親である。
「どうしていきなり……僕は、病院を継ぐために、今まで勉強も何もかも、頑張ってきたのに」
イズルは、父を真っ直ぐ見据えた。
「病院は、他の者に継いで貰う。お前はもういい」
「そんな!僕は父さんの為に、今まで言う事を聞いてきたのに、どうして、父さん」
「私は、父ではない」
「エ?」
「お前は、この家の人間ではない。
お前は、小夜子と、他の男の間に生まれた子供だ。病院を継いで貰う気はない」
「……嘘だ」
「病院は、お前のいとこの、青山満輝に継いで貰う。お前は満輝と結婚しろ」
「何だって?」
「小夜子が死んで十七年、お前を男として育てて来たのは、病院を継がせる為だ。だがもういい」
治は茶を飲み切り、再びイズルを見た。
「イズル、女に戻れ」
「そんな……」
「それだけだ。お前には、もう話す事はない」
呆然とするわが子を見る様子もなく、治は立ち上がった。
残されたイズルの瞳には、目の前のグラスの、琥珀色のアイスコーヒーが揺れていた。
「イズルさん、大丈夫ですか?
あんまりです。お父様の為に十七年間頑張って来たのに、何も誕生日の前日にこんな事を……」
一部始終を見ていた使用人が、思わずイズルに声をかける。
幼少の頃より、母を亡くしたイズルの面倒を見てきた女性だった。
「ぼ・僕、今日は、学校を休みます。何が何だか……」
イズルはそう言うと、ふらふらと歩き出し、自分の部屋に入り、倒れこむようにベッドに身を任せた。
窓から春の優しい風が吹き込む。そして、外に揺れる木々の緑と、その狭間から見えるビルの地肌をぼんやり眺めた。
イズルは病欠以外で、初めて学校を休もうと思った。いや、先程のショックで、休まざるを得なかった。




