第7話 そっちに行こう
「確かに俺は言ったよ、人間のいる方に進んでくれって。
これでようやく人間に会えるって。
でもこれはないだろ」
初日に比べ、耐久値が上がったせいか野宿にも大分慣れた俺だが、やはり二日続けてのサバイバル生活はそれなりに堪えるようで、このまま続けると体力的にも精神的にもきつくなっていた。
そんな折、ウルのやつが人の匂いを感じたらしく、どうするか俺に聞いてきた。
もちろん、ウルの言葉なんか分かるわけがないので、ニュアンスとしてだ。
俺はサムズアップで応えたね。そっちに行こうって。
やっと希望が見えたんだ。これで助かると。
なのに、なぜ進んだ先が。
「盗賊のアジトなんだよぅ」
そうなのだ。
ウルに連れてこられた先は、善良なる市民が居るところなどではなく、こんな異世界でヒャッハーしている奴らの寝床だ。
どちらかと言うと、善良なる市民は攫われてここに来るのだろう。
今も数人の男女が剣で脅され、林に隠れている洞窟のような入口に引っ張り込まれている。
何かを喋っている。
流石は異世界。何言ってるか全く分からない。
――スキル:言語習得でエルダン語を習得できます。習得しますか?――
なるほど。
俺はもう大抵のことでは驚かないぞ。
こうやって言語を習得していくのか。
イエス。そう思うことで、盗賊たちが何かを言っいてるのが分かった。
これで、エルダン語圏内では困ることはないだろう。
まあ、分からなくてもすぐに習得できそうだが。
さて、話を戻そう。
この場合、俺はどうすればいいのだろうか。
この場を去るのは簡単だ。なにせ俺たちは見つかってすらいないのだ。
ついでに言えば、《偽装》を使っているので、見つかる確立は極めて低いだろう。
それにぶっちゃけ助ける理由がない。
だが、それでいいのだろうか。
捕まった彼らは恐らくこの場か、近日中に殺されるだろう。
彼女らもイヤンでグヘヘな展開に陥ることだろう。
そして彼女らもいづれ殺されてしまうだろう。
と言って、何ができるのか。
俺も捕まって終わりのような気がする。
今から街に知らせに行こうものにも、その街がどこにあるかも分からない。
敵の数は5人、あれで全部ってことはないだろう。
洞窟の中にも何人か居ると思ったほうがいい。
対して、捕まっているのは女剣士1、商人風男1、よく分からん女1の3人だ。
やるのなら、奇襲。拙速を尊ぶべきだ。
だが、さっきも言ったがやる理由がない。
だが、このままあてもなく歩いても街に着くのはいつになるのか分からない。
だったら、彼らを助けて街までエスコートしてもらうのが一番だと思う。
他にも、メリットが無いわけではなさそうだし。
よし、決まりだ。
となると、作戦だが―――――。
◇ ◇ ◇
ヘッヘッヘ。
今日も大漁だったぜ。これだから山賊はやめられねえぜ。
ソレに今日の獲物は、商人の男と女、それに護衛の女だ。
護衛の女は儲けものだったぜ。
まあ、こちらにも被害が出ちまったが。
クソッ、オディーのバカが。先走りやがって。
だがいい、こいつらにも誰がエライかよく理解できただろう。
山賊なんて腐る程いるんだ。
そいつらとまた組めばいい。
さて今日は、久しぶりにイヤーンでアハーンなことができるぜ。
そんなことを思ってた俺だが別に気を抜いたわけじゃねえ。
だから、森の方から草をかき分ける音を聞いた時は驚愕した。
そして、姿を見た時に思った。やべえってな。
何でこんなとこにフォレストウルフがいんだよ。
あれはもっと森の深とこにいるもんじゃねえのか!
そう思った瞬間俺は、やつが出て来た方の逆側に逃げた。
ついでに、他のアホ共にも叫んでいた。
「逃げろ!フォレストウルフだ!!
獲物はいい、置いていけ!!」
そう言って、森の中に逃げる。
女は惜しいが命にはかえらんねえ。
アジトも別の場所に移すしかねえな。
幸いここに来て間もない。アジトの中にはそんなに貴重品もねえ。
兎に角この場からさっさと逃げないとな。
◇ ◇ ◇
えーと。
なぜか知らんが、ウルを見た瞬間盗賊のやつらが逃げていった。
しかも、ウルと反対側に走ってきた。
つまり、俺のいる方にだ。
すぐに隠れたから良かったものの、もうちょっとで鉢合わせするとこだった。危ない。
本当はウルが出て来た後、スキルの《威圧》を発動してもらい、敵から目を反らしている間に、俺が女剣士の腰にある短剣で縄を解いてし、その後商人と女性を二人で解放してそのまま逃げるつもりだったのだが•••。
まあ、結果オーライだ。
ウルも何が何だかキョトンとしてる。
ただそろそろ女剣士たちのところにいかないとウルが危ない。
あいつには彼女たちには攻撃はするなって言ってあるが彼女たちはどうするか分からない。
「あの、大丈夫ですか?」
俺が草をかき分けて彼女らの近くに行こうする時、じっと3人で固まっていた。
「君!何をしている。さっさと逃げろ!
フォレストウルフがいるんだぞ!!」
そう言って、ギョッとしてこちらを見た。
「え?いや、そいつは俺の相棒なんですが」
そう言うと、更に目を見開いて俺とウルを交互に見た。
「驚いた。君は、テイマーだったのか」
鼻をすり寄せてくるウルによくやったと褒めてやりながら、彼女らの縄を解いてやった。
「ありがとう、君のおかげで助かりました。
私は、商人をやっておりますフランク ダルレと言います。こちらは妻クレア。
君の名を聞いてもいいかな?」
「はい。俺は良太と言います」
「リョウタか。
早速で悪いのだが、私たちはこれから奴らに襲われた場所に戻って、馬車を取り戻しイズミルの街に向かうつもりなのだが。
よければ君も一緒に来てはくれないか?」
「え、よろしいのですか?実は道に迷ってまして、こちらからお願いしようかと思っていたところです」
「そうだったのか。何も持っていなように見えるが、アイテムボックス持ちかな?」
「え?あ、いえ。俺は村から出てきたのですが、少し前に魔物に襲われまして。
その時に荷物を全て捨ててしまったので」
「ああ、そうだったのか。
君は命の恩人だ。よければ街についてから恩を返させてくれないか?
いいだろう、クレア?」
「ええ、アナタ。もちろんですとも」
「本当ですか。それは助かります。見ての通り無一文でしたので」
よし。ちゃんと会話ができた。
おかしいところもなかっただろう。
さっき言った設定もちゃんと信じてくれたようだ。
「フランク殿、馬の準備が整いました」
「おお、そうか。彼女も紹介しよう。
護衛についてくれた、ディアナ君だ」
「ディアナ ジョシュア、冒険家だ。
君のおかげで命を救われた。
私からも礼を言う。ありがとう」
ほう、冒険家。この世界には、冒険家という職種があるのか。
まるで、ファンタジーの世界だな。
魔法があるから十分ファンタジーの世界か。
「いえいえ、助けられてよかったです。
それよりも早く馬車のところへ行きましょう。
あいつらが戻ってくるかもしれません」
「ああ、そうですね。
ディアナ君、馬は私が。君は周囲の警戒を」
「お任せ下さい」
こうして、俺は商人夫婦と護衛の冒険家と共にイズミルという街に行くことになった。
一時はどうなることかと思ったが、なんとかなってよかった。
作戦どうりにいったようだ。
これでようやく街につける。街についてからの目処も立った。
ホント助けといてよかったー。