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第5話 何とかならなたかった

 結論から言おう。

 俺の選択は、間違いだった。


 なぜ俺がこの結論に至ったかというと、俺が寝てから数時間が経った頃だった。

 俺は夜緊張していると、絶対に一度は目が覚める体質だ。

 だからこの時も、ああまたか、くらいの気安さで目を開けた。

 そして、水でも飲んでもう一度寝るか、と思い、口の中にウォーターを唱えようとした時気がついた。


 周囲から、何かの音が聞こえることが。


 一瞬で背筋が泡立った。

 脳内に冷水を思いっきりブッカケられたような感覚が俺を襲った。


 その音は、もしもの時のために俺が用意しておいたトラップに引っかかった音だった。

 トラップといっても、大層なものなど作れるわけなどなく、ただ単に周囲の地面に勾配を付けて地面の高さ変え、更に、そのいくつかをより深くし、その中に水を仕掛けるというものである。

 俺がその音に気づかず、起きなかった可能性もあったが緊張した状態で寝ていたのだ、起きる可能性は高かったと思っている。

 まあ、それ以外のトラップが思いつかなかった、というのもあるが。

 幸いにして、起きていた。今はそれでいい。


 俺は、すぐに行動にでた。

 もちろん、逃げるためにである。

 《偽装》を使い、出来るだけ気配を消して(自分では出来ていると思ってる)、息を潜めて近くの一番大きい木の近くで小さくなっていつでも逃げる準備を取った。


 獲物(おれ)の気配が消えたのを悟ったのか(それはないか)、獲物の変化に気がついたのだろう、周りにあった草木を分けてそいつがやってきた。




 魔物だ。




 理解できた(・・・・・)。これが魔物なのだと。

 あの禍々しいオーラ、なのか、にじみ出ている威圧感が死を呼び寄せているようにしか見えない。

 少し前までは、熊なんかじゃないといいな、あいつって死んだフリしても意味ないらしいしな。

 とか考えてた自分を殺してやりたい。

 動物ならば、火を怖がる。

 顔の前に火を投げつけてやれば逃げるだろう。そう思っていた。

 ここは異世界なのだ。その事実が、絶望的な後悔として襲いかかってくる。

 服装はただのパーカーにジーンズ。手には武器は疎か、役に立たない物すら何も持っていない。

 この状態で、あれに挑むのは自殺行為だ。

 そう思い目を閉じた。


 これはダメだ。死んだ。

 異世界生活1日にして終了。

 流石に、神様に申し訳ないな。


 しかし、数秒たっても何なかった。

 おかしい、そう思い薄めで目を開けてみる。

 そうすると魔物はまだ、俺が寝ていた場所の匂いを嗅いでいた。

 安心して思わずため息が出そうになった。

 ギリギリのところで踏ん張り、魔物の様子を観察する。

 どうやらまだ、偽装の効果が効いているようだ。

 このままではいけない、魔物が周囲に気を回し始めた。

 だが、走って逃げるのもありえない。

 動けば音がする。

 相手が素人の俺を認識していないのが奇跡なのだ。

 さすがの偽装も疾走音までも完璧に消してくれはしないだろう。


 ならばどうする。

 ここに居るのは無理。逃げるのも無理。特攻は自殺行為だ。

 特攻しかないだろう。


 今俺なんて思った!?

 特攻か。おかしい確かにそれ以外は死につながるが、地球にいる頃の俺にそんな勇気はなかった。

 チンピラを見れば、目を合わせずに出来るだけ距離を開けて歩くようにしていた。

 痴漢を見ても、間違いで犯人にされるのが怖くて近寄れなかった。

 大抵は、友達に言ってそいつがなんとかしていた。


 そんな俺が特攻を選んだ理由。

 一つしか思い当たらない。

 《思考演算(上)》だ。確か、スキルは、



 スキル:思考演算(上)

 自身の思考速度を向上させ、理論的に解を導く。



 そういう内容だったはずだ。

 見たときは後半部分が意味不明だったが、なるほど、確かに理論的だ。


 そんなことは今はどうでもよく!

 特攻をかけるかどうかの問題だ。 


 いや、今だからこそ冷静にいこう。

 先ず、特攻、いや攻撃をかけるとしよう。

 どうかける?

 自分からかけるのは恐らく無理だろう。

 すぐに気づかれるし、俺の及び腰を舐めてはいけない。

 では、相手にかけさせる?

 どうやって?音を立てれば俺を認識するだろう。

 では、次だ。どうやって魔物を倒す?

 いや、倒す必要はない。

 あいつをテイムしてしまえばいいだけだろう。

 職業の調教師(テイマー)については、《解析鑑定》がステータスに使えることに気づいた時に、初めに試した。


 

 職業:調教師

 動物・魔物を使役できる。

 相手を説得・屈服用いて使い魔にすることが出来る。

 また、条件さえ合えば神獣等もテイム出来る。


 

 要は、相手をビビらせて従えさせればいいのである。

 ならば、やりようはある。


 俺は、後ろに手をついて自分の足があるところ以外の周囲の地面に柔らかくなるよう魔法をかけた。

 魔物がそこを踏んだ時に、転ぶようにである。

 餌は俺。俺が音を出し相手が気がついき、襲って飛びかかった瞬間に横に転ぶ。

 そして、相手が足をもつれさせている時に、大きな声で、俺に従え!と言うのである。

 魔物は犬の形をしている。魔物も一応、物理法則の生物だ。


 この世界でも、物理法則は一応働いているようだ。

 石を投げれば、放物線をえがくし、地面を殴っても、抉れたりなんかすることはなかった。

  

 だから、犬の形をとっているのなら、聴覚も犬レベルであるだろう。

 いや、寧ろ、魔物なのだから動物よりも優れているだろう。


 勝機はこれしかない。

 南無三!!!









 結果から言おう。

 何とかなってしまった。それも、拍子抜けするほど。


 あのあと、俺が出したあと魔物が俺に気づき、目が合った。

 そして、魔物は襲ってくると予想していたが、意外なことに目を合わせたまま、動かなかった。

 どれほど、にらみ合いが続いただろう。

 実際には、10秒ももっていなかったと思うが、兎に角俺が焦れて言ってしまったのだ。


「お、お俺にしたぎゃへぇ!!!」


 噛んだ。それも、盛大に。

 あ、これ死んだな、と思って涙でも流そうとした時。


「ワゥッ!」


 と魔物が吠えた。それも、嬉しそうに。しっぽも振りながら。


 そしてようやく俺は、死の恐怖から解放された。

 腰が抜けて、尻から地面についてしまった。

 魔物から発せられていた威圧感もなくなっていた。

 あ、こら。顔をなめんなし。きたねえし!


 もし、魔物が襲っていたなら、何とかならなかっただろう。

 今にして思えば、魔物がしたように、警戒して近づいてこない可能性もあった訳だし、他にも見落としがいくつもあるだろう。

 だが、俺はもうダメだ。

 緊張の糸が途切れて眠気が襲ってきた。

 その前に、言っておかなければならないことがある。


「お前周囲の警戒できるか?」


「ワゥッ!」


 肯定とみた。


「じゃあ、よろしく・・・」


 そして、俺は気絶するように眠りについた。




 改めて、結論を言おう。

 俺の選択は、正解だった。

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