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RPG~Real Playing Game~  作者: KAITO
第一章「こんにちは異世界」
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第四節

 そうして街の中に入れて最初に思ったことは「解析し忘れた」だった。

 どうせ街に着いたのだから魔力の残量考えずにあの副隊長さんの【固有札】とか解析すればよかった。

 今更だが。まあ、またの機会もあるだろう。今は何より宿屋と食事だな。冒険者組合は明日でも問題ない。

 とはいえ、通常冒険者は「冒険者の宿」と呼ばれる宿に泊まるらしい。


 冒険者の宿とはその名の通り、冒険者用の建物だ。冒険者用の宿と言わないのは、厳密には冒険者の宿は宿屋じゃないからだ。

 冒険者の宿のほとんどは一階が酒場のようになっており、食事も摂れるし酒も出る。また密談用の部屋や大きな戦利品を持ち込むための裏口、馬小屋などもあるそうだ。

 宿部分は二階にあり、一部屋が通常の宿屋のそれよりも広いらしい。理由は単純で、武具の置き場所や手入れをするため。例えば成人男性の身長並みの槍を持ったまま扉をくぐるだけでも普通は面倒だし、それを手入れするなり置くなりするには広さが要る、と。

 本格的な手入れは職人に頼むそうだが、基本は自分でするものだそうだ。


 で、冒険者と言えば依頼、と俺は思うのだが、この世界でもこの考え方は通じるらしい。流石、剣と魔法の世界。

 俺が一番イメージしやすい依頼は「魔物を一定数倒せ」とかで、魔法的な確認手段や魔物の特定部位を剥ぎ取ることで確認みたいなものだ。

 しかし、聞いた限りでは純粋に「魔物を討伐する」依頼は少ないらしい。とりあえず魔法的な確認手段は無いそうだ。

 依頼の内容は「何かを取って来て欲しい」というものがほとんどだと言う。次いで「護衛」が多いそうだ。


 護衛と一言でまとめたが、護衛にも色々あるらしい。街から街へ移動する際の護衛から、外壁を持たない村などに滞在し魔物から守るというもの、果ては子守りまであるという。護衛依頼は大体日雇計算で、変な依頼でもない限り堅実でそこそこ美味い依頼らしい。

 が、そもそも信用のある冒険者にしか受けられず、変な依頼人に当たったら護衛期間中が地獄だそうだ(人間関係的な意味で。あれ、こっちじゃ人間って種族名だよな)。


 数少ない魔物討伐の依頼は、大体が増えすぎた魔物の駆除依頼だそうだ。それも村や街に被害が出そうにない限り依頼されない。加えて討伐依頼は危険度が高い上に揉め事の種として有名だから受ける人も少ないと言う(その分報酬はいいらしいが)。

 揉め事の種になる理由は単純で、本当に魔物を退治しているのか、退治した魔物は問題になっている地域のものなのか、などを証明する方法がないからだ。

 例えば「A村」から付近の魔物を減らす依頼が出されたとする。しかし「魔物を減らす」なんて条件じゃ依頼にならないため、「魔物を一定数討伐」を条件にする。その依頼を冒険者が受けて、魔物を狩り、報告したとする。まず、その冒険者が本当に「魔物を一定数討伐」したかどうか、という話になる。魔物の体の一部を剥ぎ取って証拠としても、「他の誰かから買ったのでは」とか「それはA村の近くにいた魔物なのか」なんて話になる。言い出したらキリがないのだ。

 適当に魔物を狩れば金を稼げる訳じゃない、ということだな。最初はちょっと出鼻を挫かれたような気がしたが、まあ仕方がない。


 脱線したが、この「冒険者の宿」はそのまま「冒険者組合」の支部のような働きをするらしい。

 冒険者に依頼をしたい人は冒険者の宿に依頼を出し、冒険者は冒険者の宿から依頼を受ける。

 当然、冒険者として登録するのもここだ。

 とはいえ冒険者組合に加入していない冒険者、というのもいるらしい。

 冒険者組合に加入した場合、組合を通して税を支払わなければならなくなるし、組合員として守らなければならない規則や冒険者として登録し続けるためのノルマなどもある。それらを嫌って加入しない、ということだ。

 まあ、未加入の冒険者なんてほとんどがごろつきで、普通は組合に加入するそうだが。


 さて、俺が冒険者の宿ではなく普通の宿屋に向かっている理由は簡単だ。

 冒険者の宿の宿泊費は高いのである。

 具体的な金額は知らないが、普通の宿屋のおおよそ倍と聞いた。理由は一部屋が広いからとか、税金が含まれるかららしい。

 俺はまだ冒険者じゃないから、普通の宿に泊まるのだ。

 冒険者でも普通の宿に泊まることはあるそうだが、それは冒険者の宿がないとか他に方法がない時の話。武装した人が泊めろと言ってくるのだ、嫌がられるのがオチである。未登録のごろつき冒険者は冒険者の宿を利用できないから普通の宿屋に泊るそうだが。


 門から入ってすぐの道は大通りになっていて、両端には屋台や露店が並んでいる。大通りに面して並んでいる建物は商店が多いらしい。

 まあ、日が暮れ始めているからか店仕舞いを始めているところが多いが。

 オススメの宿は副隊長さんに聞いてある。もちろんその場所も。

 道順は簡単なので迷う心配はない、と思う。教えてもらった絵柄の看板を探して歩く。


 どうもこの世界は識字率が低いようで、大多数向けの看板に文字が書かれていることは少ない。そのため客寄せの手段は呼び込みか看板になる。

 看板は色々で、例えば武器屋は剣と金槌、防具屋は鎧と金槌、武具屋なら剣と鎧と金槌、飯屋なら皿と匙、酒場ならコップ、宿屋なら寝台、といった具合だ。ちなみに冒険者の宿の看板は剣とコップだ。

 ただ、それはどんな店かを表す看板で、多くの場合その店の名前を表す二つ目の看板があるらしい。

 この街にある冒険者の宿は「栄光と剣亭」といって、看板は剣の刃が光を反射しているような絵柄だそうだ。おそらく今後はお世話になるだろう。

 今向かっている宿屋は「麦の祝福亭」という宿屋で、麦束の看板が目印だそうだ。値段も質も普通だが、亭主がいい人らしくて文字通り右も左も分からない俺にはうってつけとか。変なのに騙されて売られて奴隷人生とか普通にありそうだから、こういうチョイスはありがたい。

 その宿屋では食事も出るそうだから、屋台から香る肉の焼ける美味しそうな匂いを振り切って進む。

 しばらく歩くと、目当ての看板が見えた。

 建物は石と木の混合みたいな造りだ。外から見た限り、ガラス窓の類はない。ガラスはないのかな。木製の扉を開きながらそんなことを考える。

 入ってすぐにカウンターがあり、恰幅の良いおばさんが待機していた。店番の人だろう。


「すみません、部屋空いてますか?」


「おや、お客さんかい。一人部屋ならストルオス銅貨十枚、朝食と夕食付ならお湯付きでストルオス銅貨十五枚だよ」


 ふむ、ストルオス銀貨一枚とストルオス銅貨五百枚がおよそ同価値だから、銀貨一枚あれば食事付きで一月ちょっと過ごせる計算か。


「とりあえず食事付きで三泊お願いします」


「はいよ。三日分で銅貨四十五枚ね」


「すみません、ストルオス銀貨で」


 そう言って銀貨を一枚出すとおばさんはちょっと嫌そうな顔をする。


「銅貨は持ってないのかい?」


「ええ、色々あって今はストルオス銀貨しか」


 そう言うと、それなら仕方ないと言って【固有札】を確認した後おつりを数えてくれる。

 嫌そうな顔をされるのも仕方がない。何せおつりはストルオス銅貨四百五十五枚だ。

 ストルオス貨幣はかなり小さいのだが、四百五十五枚は流石に多い。

 内心申し訳なさで一杯である。

 しかし他に手段がない以上どうしようもないのだ。


 おばさんがストルオス銅貨を数えている間、思い付いたことを試してみる。

 おばさんの【能力】を【解析】する。

 結果は【筋力:(11)四級】【耐久:(10)四級】【敏捷:(9)三級】【感覚:(10)四級】【魔力:(4)二級】だった。

 俺より強い!?

 もう魔力が解析一回分しかないが、技能も【解析】する。

 結果は【槍:(+6)二級】【体術:(+6)二級】。魔力の値が低いから魔術師ではないと思っていたが、これ完全に俺より強いわ。

 体型を見る限り動きは遅そうだが、この世界では能力が神の加護とやらで規定されている。なら体型は関係ないんじゃないか?

 そう考えると、今のままでは冒険者なんてできない気がする。


「はい、ストルオス銅貨四百五十五枚ね」


 おばさんからおつりを受け取…れない。

 今の俺は文字通り着の身着のままだ。その服にだってポケットの類はない。

 結論、銅貨四百五十五枚なんて持てるわけがない。

 おばさんもそれに気付いたのだろう。カウンターの奥から少し大きめの袋と小さめの袋を持ってきて、銅貨三十枚で売ってくれた。

 袋は口の部分に紐が通してあり、その紐に通してある木製の部品で口を縛るようにして使うようだ。布はそこそこ丈夫そうだが、頑丈とはとても言えないだろう。

 外見は、大きい袋の方は一昔前のアニメに出てくる古風な格闘家が肩から下げているような袋、小さい方は巾着袋と表現すれば分かるだろうか。

 正直値段相応なのか分からないが、宿屋でこんな袋を売るのが一般的とは思えない。厚意でしてくれたことだろうから、ありがたく受け取っておこう。


「今から部屋に案内してもいいけど、先に食事にするかい?」


「はい、お願いします」


「はいよ、なら先に説明だけしちまうね。部屋には内側から(かんぬき)をかけられるけど、外から鍵なんてかけられないからね。部屋に荷物を置いとくのは構わないし一応こっちでも注意はしてるけど、貴重品は自分で持ち歩くようにね」


 一通り説明を聞いた後は、奥の食堂に案内された。

 食堂はテーブルとイスが並んでいるだけのもので、適当な席に着いたら料理が運ばれて来た。

 メニューは割と多めのパンと葉野菜と豆のスープ、肉を焼いたものでサイコロステーキっぽい感じのもの。

 品数は少ないように感じるが、量は多い。食べ切れるかどうか。

 ちなみにパンは雑穀的というか、固パンというか、パンが白くなかったしふわふわじゃなかった。俺としては珍しい味でそこそこ楽しめる。

 食器は木のスプーン。それのみだ。ナイフもフォークもなかった。そういうものなのかなと納得しておく。

 食事を摂っていると、他にも何人か食堂へ食事に来た。大体は互いにチラっと一目見る程度で、たまに俺の服装を少し見てる程度だった。一応険悪な雰囲気はない。良かった。


 食事を終え、入り口から入ってすぐのカウンターに戻る。おばさんに部屋への案内をお願いすると、おばさんは奥の誰かに店番を頼みながら食堂への道とは反対方向にある階段へ向かう。

 この建物は構造上、カウンターの前を通らないと宿への出入り口・部屋への階段・食堂へ行き来できないようだ。もちろん奥の従業員用スペースとも言うべき場所まで入り込めばその限りではないのだろうが、断りもなしにそんなことをすれば下手すりゃ犯罪者扱いだろう。


 二階に上がって二つ目の部屋が俺の借りた部屋になるらしい。

 夕の鐘が鳴る頃にはお湯を持ってくるということだったが、色々良く分からないので正直に聞いてみた。


 夕の鐘というのは、暮れていく太陽が夕日になる頃に鳴る鐘で、大体の人はこの鐘が鳴ると就寝準備に入るそうだ。随分早く寝るんだなと思ったが、多分照明がないのだろう。あっても蝋燭か松明か? 物の価値はまだ把握してないが、無駄な出費と考えられているのだろうな。

 夕の鐘はそろそろ鳴る頃だそうだ。


 お湯は本来、体を拭くためのものだ。が、俺はタオルなんて持っていない。

 おばさんは先刻承知とばかりにストルオス銅貨三枚で手拭いも付けると言ってくれた。手拭いはそのまま貰っていいそうだ。再びご厚意に甘えておく。

 こういう生活雑貨は今後も色々と必要になるだろうな。


 銅貨を受け取ると、おばさんは一階へと戻って行った。


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