第三十一節
精神的に疲れていたので早く休みたかったが、折角周囲に人が集まって話を切り出しやすい流れになっているのだ。
俺は「チャンスだぞ!やるなら今だろ!」と無理矢理モチベーションを上げて情報収集のため動き出した。
まず気になったのは、ラスティア王国について。
その国の国風や経済的、政治的状況。
何より、勇者召喚の儀式なんてことをした理由。
これらの内容によっては、ラスティア王国に行くのはかえって危険かもしれないからな。
「で、ラスティア王国ってどんな国なんですか?」
なんて聞き方をしてみた。
文字通り何も知らないからこそできる聞き方だな。
これなら、それぞれが「ラスティア王国」の第一印象が最初に来るだろうと思ったのだ。
「平地が多くて畑が沢山あるから、食糧が豊富…だっけ」
というのはカイザの談。
農業大国、みたいなイメージでいいのだろうか。
「王族や貴族がデカい顔してるいけ好かない国だ」
とは小柄で髭面な先輩冒険者の談。
この国も王国だったはずだけど…輪にかけて権力が強いって意味なのか、そういう国風なのか、はたまた腐敗しているのか。
「ここ最近はいい噂を聞かんな」
とはマスターの談。
いい噂を聞かないってのは、悪い噂が多いってことか?
とりあえず色々な意見は出た。
後は掘り下げていけばいいだろう。
「えっと、もう少し詳しく教えて貰えませんか?」
そう言いながら、お礼の意味も込めて周囲に集まっている人にお酒やら食事やら色々奢るために神聖銅貨を一枚、看板娘さんに手渡す。
若干の喝采を受けたあと、皆気前よく話してくれた。
まず、ラスティア王国の歴史。
ラスティア王国は元々、大した国力も軍事力も持たない小国だったそうだ。
土地の広さもそれに見合ったもので、特にこれと言った特徴もなく、繁栄も衰退もないまましばらくの時が過ぎた。
そんなある時、王族の中に一人の天才が生まれたらしい。
その天才は勇者を召喚する術を発見し、勇者を召喚してみせたそうだ。
そして勇者はラスティア王国のために働き、周囲の魔物を討ち領土を広げ、周囲に点在していた小国群を傘下に収めたとか。
これによりラスティア王国は大国となり、勇者召喚の儀式は王家の秘術として代々受け継がれている。
と説明されたのだが、これは歴史とも言えない内容な気がする。
歴史書とか見たら細かく書いてあるのかもしれないけど、そういうのっていいように改竄されてるイメージあるんだよなあ。
簡単にまとめると「元小国」の「王族の一人」が「勇者召喚の儀式」を発見・実行して「勇者の力を借りて戦争」した結果「大国になった」。でいいはずだ。
勇者についても細かく聞かないとな。
次、現在のラスティア王国の状況。
一言で言えば、良くない、らしい。
飢饉とか貧窮してるって訳じゃないそうだけど、王族や貴族なんかがピリピリしてるそうだ。
原因は、隣国のガデナ帝国が力を付けているからとか。
なんか政治的な面倒くさい話になってきたな。
簡単に説明すると、ガデナ帝国は山、というか鉱山なんかが多くて、鉱石や金属製品の生産・加工に長けている国らしい。
加えて軍事国家だそうで、当然質の良い武器や防具を作っては兵に持たせているとか。
そんなガデナ帝国を、ラスティア王国は傍から見る限り一方的に敵視しているらしく、対抗してか軍事力を高めていたそうだ。
はっきり言おう。訳分からん。
なんでラスティア王国はガデナ帝国に喧嘩腰なの?
仮想敵、って考え方はあるけど、これは少し意味が違うよね?
もしかしたら、政治的には色々あるのかもしれないけど、少なくともこの酒場に居る人的にはこういう認識らしい。
対岸の火事扱いなのか?
と思っていたらそうでもなかった。
この辺りには「ラスティア王国」「ガデナ帝国」「ストルオス王国」の三国しかないらしい。
大まかな位置的には、ラスティア王国が北東から南東、ガデナ帝国が北西、ストルオス王国が南西に当たる。
ストルオス王国の西から南は海に面していて、ラスティア王国とガデナ帝国から見て北や東にはぐるっと三国を囲むように高い山脈やかなり深い森があるんだとか。
その山脈や森には色々な、中には強力な魔物も生息しているため、開拓することはもちろん、通過するのさえ困難とされているらしい。
要は陸の孤島状態になっている、ということだろう。
そのせいか、ここらは「ルニス地方」と呼ばれているらしい。
海に面しているなら船を出せば他の場所に移動できるのではないか、とも聞いたのだが、答えは芳しくなかった。
原因は魔物だ。
海は沖に出れば出るほど強力な、というか強大な魔物が出現するらしい。
一応、陸沿いに移動すれば山脈や森を無視して別の地方に行けるそうだが、それにしたって危険は多いという。
まあ、そんな危険を冒してでも「ルニス地方」の外と商売してるのがストルオス王国らしいが。
それでも五隻に一隻は航海途中に沈むらしい。
酷い確率に聞こえるが、昔に比べると大分マシになったそうだ。
ちなみにこの「ルニス地方」という呼び方は、ストルオス王国が初めて陸の孤島の外にある国と商売をした時に付けられたんだそうだ。
逆に言えば、そのせいで「ルニス地方」という呼び方はストルオス王国の外ではあまり通用しないらしい。
ここら辺で話が脱線してきたことに気付いて、慌てて方向修正した。
なんだっけ。
そう、ラスティア王国についてだ。
今度はラスティア王国の王族や貴族について。
これについては皆機嫌悪そうに話していた。
ラスティア王国の貴族は、俺のイメージで言う権力を振りかざす悪徳貴族って感じらしい。
少なくとも冒険者やただ酒を飲みに来た人などここに居る全員の評判が悪い。
というのも、ラスティア王国の貴族には元王族の血族が多いのだとか。
まあ、ラスティア王国に負けて吸収合併された土地を治めている貴族が亡国の王族ってだけらしいが。
そのせいか、大体無駄にプライドが高いらしい。
その中でも王族はかなりのものだとか。
勇者召喚の儀式、なんて秘儀を受け継いでいるからだろうけど、「神に選ばれた国であり王である」とか「勇者の血と誇りを受け継ぐ神聖なる一族なのだ」とか言っているらしい。
それらを支持する声も国内外にあるそうだが、冒険者のような自由を愛する連中からすれば「当然のように命令してくる奴ら」という認識だ。
ましてやここはラスティア王国ではなく、ストルオス王国にある冒険者の宿である。
推して知るべし、といった感じか。
以上が、ラスティア王国に関する大体の話である。
うん、行く気がなくなった。
正直もうこの時点でラスティア王国に行く気が失せた。
まだ勇者の扱いとか全然聞いてないのに。
もし今【勇者の加護】とか引っ提げてラスティア王国に行ったら、絶対戦争の道具にされることは分かった。
そうじゃなくとも拘束されるだろう。
ただでさえ勇者召喚の儀式と何らかの関係があるかも、なんて目を付けられた状況なのに、自分から火のついた檻みたいな場所に飛び込みたくない。
となると別の場所かな。
いや、その前に勇者について聞こう。
俺は俺で勝手に勇者というもののイメージを持っているが、他の人がどうなのかが分からないからな。
少なくとも、大事になる肩書きではあるようだけど。
そんな感じで勇者について聞いたら、思っていたより重い話だった。
元々、勇者という存在は神話の中に出てくるものだそうだ。
肝心の部分だけ抜粋すると、勇者とは、世界の危機に際して神より加護を与えられた者であり、世界を救う役目を持つ者である。という。
えらく抽象的で、かつスケールのデカい話だった。
世界の危機とか、どういうことだと。
加護の内容を知ってる俺にしてみれば、そんな簡単に世界を救えるようなものじゃなかったんだがな。
まあ、とにかく、そういうものらしい。
当然、そんな勇者は国王などより本質的には偉く、万民から頼られ崇められる存在だそうだ。
ちなみに、他の場所では分からないが、ルニス地方には宗教は一つしかない。
その宗教には名前がなく、ただ、その宗教組織は「神聖教会」と呼ばれているとか。
先の神話というのは、この神聖教会に伝わる神話だそうだ。
俺の感覚だと、宗教なんてのは金を巻き上げる手段か、思想を縛る手法か、はたまた集団を纏める方法なのだが、この神聖教会はどれとも違うらしい。
特に権力がある訳でもなく、怪しい商売をしているようでもなく、ただ神に祈り感謝するのがここの宗教なのだとか。
まあ、実際に神が居るのならそんな風になるのかな。
ただ、ラスティア王国が「勇者召喚の儀式」なんてものを発見したことで、ここらじゃ勇者の意味が一変した(ちなみに俺は発見じゃなくて開発じゃないかと思っている。勇者召喚の儀式を「発見」ってのは違和感あるし)。
ラスティア王国は勇者の力を独占し、周囲の魔物の排除に加え他国の侵略すら成したのだ。
それは神話に出てくる「世界を救う勇者」の所業とは思えない。
しかし、ラスティア王国は召喚された勇者が勇者たる証を公表し、広めることで「真の勇者」を判別する知識を他国にも与え、結果として自国の正当性をごり押ししたそうだ。
結果、ここらでは「勇者」というものに対する反応は大きく二分された。
一つは神話に出てくる勇者のように、頼られ称えられるというもの。
これはラスティア王国内や、信心深い(というより狂信的な)神聖教会の信者の反応だ。
もう一つはラスティア王国に操られた悪魔のように考えるもの。
これはラスティア王国以外の者や、ラスティア王国の「勇者召喚の儀式」に疑問を持つ神聖教会の信者の反応だ。
つまり、勇者とは、凄まじく面倒な肩書きなのだった。




